音楽制作会社でディレクターをしていた僕は、
なんとなく流れに乗ってきてしまっていた自分を変えたくて、
ちょっと身体に無理を強いて仕事をした。
そしたらあっさり身体がパンクした。
病院で検査をしても異常はなく、
なのに5分も会話をすれば息が上がってしまい、
頭の回路がフリーズしてしまう。
会社を辞めた。
空ばかり見上げる静かな生活。
ただただ深く、深く、
深呼吸をくり返す中で芽生えていったのは、
やっぱり音楽が作りたいという気持ち。
ふと見ると、部屋の隅でほこりをかぶったアコースティック・ギター。
ずっと触ってなかったギターを手に取り、なにげなくコードを鳴らす。
そして頭に浮かんだ言葉にメロディをつけて唄ってみる。
長く音楽の世界に関わってきたのに
“僕”が“僕”である“僕”じゃなきゃだめな“うた”を
作り切ったことってなかった。
どうせやるなら作り切ってみよう、
“僕”にしか作れない“うた”を。
まだ会話を続けようとすると息切れ切れになってしまうのに、
なぜか唄い続けることはできた。
白い画用紙の上に描く鉛筆画のように、
いつしか輪郭を現す“うた”たち。
それにつられるように元気もよみがえり、
そして僕は“うた”とギターを抱えて
ライブハウスのステージに立ち、唄った。
何度かステージを重ねて“うた”の確かな輪郭が見え始めてくると、
もっともっとリアルな世界に行かなくちゃって
“うた”たちが求めてくる。
きっとその答えは風の中にある、そう思った僕は、
ひとりギターを抱えて風の中を彷徨い始めた。
僕を求めている、 そして僕が求めている誰かが待っている
edgeなcafeを探して。