edge cafe #1

自転車ガレキ通り (1)

1  2月。その冬、初めて太陽の光に春を感じた朝。
その何年か前、その朝と同じような光の中で、 言葉とメロディが空から舞い降りて来た。 >“こんな穏やかな優しい時間が いつまでも続いていて欲しい 急に海 見たくなって…” そのフレーズに引き寄せられるように海に出かけ、その道中で口ずさみながら、 一筆書きの絵のように“ズル休み”という曲ができた。 あの“ズル休み”が舞 い降りて来た朝と同じ日差しに誘われて、 僕はギターを抱えて家を出た。
  前の日の夕方、たまたま通りかかった自由が丘の緑道沿いで、 クラッシックなフォルクス・ワーゲンのバンの屋台カフェを見つけた。 それは、見慣れた風景のくすんだ色彩をすべて塗り変えてしまいそうなくらいのインパクトだった。
急いでいたので通り過ぎてしまったけれど、ああ、このカフェのある風景の中に “ズル休み”を響かせてみたいなあと思った。   自由が丘駅南口側、桜並木の緑道。 軒を並べるブティックやケーキ屋さん、並木の間に置かれたベンチ。 オシャレな街、自由が丘を象徴する石畳の通り。 そ して、そんな雰囲気を見事なまでにぶち壊す、おびただしい数の放置自転車。 人に美意識が定着しないまま都市化する日本の象徴的な風景。
  もう朝ではなく、まだ午後でもない。 優しい日差しに包まれた凛とした空気。 まだまばらな人通りの緑道の放置自転車に包囲されたベンチで、 スケッチブックになにやら書き込んでいるホームレス風なオジサン。 開店準備を終えて一息、 気怠げにタバコをふかすブティックの店員さんらしきオネエサン。 動き出した ばかりの街の片隅で、屋台カフェも店開きが済んだばかりだった。 ・・・つづく     

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