edge cafe #3

 東京の空に“ズル休み”(1)

1くもり空。   でも雨が落ちてきそうな気配はなく、 空中、薄くまんべんなく敷きつめられた雲の向こうで、 どことなく太陽の在りかがわかるぼんやりした朝。
急に海を見たくなってズル休みしたくなるような空ではないけれど、
確実に季節の移ろいを感じる淡い光。
前の週、自由が丘の路上でedgeなcafeを見つけた僕が、
次に目指した場所は"丸の内"。  
 
ちょうど正午をまわったJR有楽町駅を出ると、宝くじを買いましょう!
とまくしたる キャンペンガールの甲高い声。
倒産した老舗デパートの跡に入った安売りカメラ店の 店頭スピーカーガ吐き出す
おなじみのCMソング。そんなざわめきの中をくぐりぬけ、

いわゆる丸の内のフィスビル街に入ると、おりしものランチタイム。

首からIDカードをぶらさげたビジネスマン、ビジネスレディー達が、昼食を求めて
方々の ビルの入り口から大挙吐き出されてきているところだった。

"いやあ、最近は冒険をしなくなりましたね…"すれ違い際、耳をかすめる男性達の
会話。 その後から、伏せ目がちにひとりで歩いてきた若い男性が僕が抱えた
ギターケースに反応し 視線を上げる。
が、次の瞬間にはまた視線を落として歩いていく。
こんな時間にこんな場所でギターケース抱えて歩いているのがとても似合わない街。
このあたりはもともと銀行、証券会社等のカタイ業種の会社ばかりが集まる
 殺風景なエリア だった。ところが最近、丸の内ビジネス街の再開発の流れの中、
その所々に高級ブランドの ブティックが店を構えるようになり、新しい大人の
ファッション・ストリートとして生まれ 変わろうとしている。
そんなビル群の一角に"丸の内カフェ"があった。
どうやら某証券会社のエントランス・ロビーを、オシャレなパブリック・スペースと
して 解放しているらしく、近くのオフィスから抜け出してきたらしき女性たちが
テーブルを囲み、 おのおのが持ち込んだ食べ物、飲み物で昼休みを過ごしている。

 噂に聞いた"丸の内カフェ"に"ズル休み"を響かせてみたくてやってきたのだけれど、
実際、その場に身を置いてみると、ギャルソンもエスプレッソ・マシーンもなく、

自動販売機が並んだ名ばかりのカフェに、まったく胸がときめかない。
僕の"うた"なんかが入り込むような余地は見当たらない。
外に出てビ ルの入り口前の歩道に立ち、まわりの風景を見渡してみた。
だけど一歩外に出ると、 窓ガラスの向こうのカフェはすごく遠い世界に思えた。  
 
 目の前の通りは車両通行止めになって いて、人間のいるスペースがいっぱいあって、
実際人間はいるのに、人間が見えてこない。

ただ通り過ぎて行くだけ。ギターケースを降ろすことなく、なんとなく歩き出した。  
そのまま少し歩くと東京国際フォーラムにたどり着いた。
船をひっくり返したような デザインの展示場と大中小の3つのコンサートホールを
持つ建物というふたつの ドデカイ建造物の間の並木道風の広場には、すぐ向こう側を
ひっきりなしに通る電車の騒音が ガラスと鉄骨とコンクリートで出来た巨大な壁に
はじき飛ばされ、不思議な角度の静けさが漂っていた。  ガラスの化け物のような
展示場では大手コンピューター会社のイベントが行なわれている ようだったが、
それほど大きな人の流れはなく、コンサート・ホール側も、どこかの ファッション.メーカーの
イベントが行なわれている以外はこんな時間にコンサートとかが あるはずもなく人もまばら
だった。広場に面したブックショップやインターネット・カフェと かには雰囲気通りな人達の
姿がガラス越しに見えたが、外の広場では、所々に置かれた スチールのベンチで、
たぶんこのあたりが勤め先ではないだろうビジネスマンが 大きなタッパーウエアに詰められた
おべんとうをぱくついていたりする。
喫煙所の灰皿のまわりには携帯電話を片手に
苦虫をつぶしたような顔で煙草をふかす スーツに身を包んだ人達の塊があった。
バブルの象徴のような空間で、彼らは狂乱の宴の 後始末に追いまくられているの
だろうか。 こんなアーティティックな空間に全然アーティスティックじゃない人達が
集っている風景が おもしろかった。  
ここに"ズル休み"を響かせてみたいと思った。

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