Vol.38 - 16 May. 2004

腰椎ヘルニアからくる右足のしびれがまだ残っているせいで、杖
をつきながらの生活も3ヶ月になろうとしています。目に見えるほど
の回復はありませんが、何週間か前には不可能だった動きが、
今は何とかできるようになっていたり、足先のしびれも抜け去る
ことはないけれども、気になってものごとに集中できないような
こともなくなり、ゆっくりとしたペースながらも回復してきているよう
です。最近は、杖を持ち歩くことにすっかり抵抗がなくなりました。
頼らなければ歩けない状況からは改善されて、いざというときの
ための“転ばぬ先の杖”として持つという程度になったからでしょう。
とりあえず、近況はこんなところです。
 
ところで、皆さんは杖に頼って歩いたことはありますか?
今まで骨折などもしたことのないボクにとって、今回の杖との生活
は初めての経験の連続です。階段や段差については前々回の
ノンキな通信…Vol.36」に書いたとおりですが、それ以上に最も
気になるようになったのは、電車に乗ったときのことですね。
 
「優先席」−しばらく前までは「シルバーシート」と呼ばれ、高齢者
への優先席という印象のあった、通勤電車車端の一角ですが、
最近は車椅子用に座席が撤去されていたり、心臓ペースメーカー
を装着している方への配慮などからでしょうか、「優先席周辺では
携帯電話の電源はオフにしてください」などという呼びかけもなさ
れています。
調べてみたところ、「優先席」の歴史は1973年9月15日に旧国鉄
中央線に「シルバーシート」が設置されたのが始まりだそうです。
それ以来30年あまり、最初は1編成に2ヶ所だけだった「シルバー
シート」は、やがて1両に1ヶ所に増え、「優先席」と名前を変え、
阪急電車では「優先席だけが“優先席”ではなく、全ての座席が
譲り合いの席である」と1999年4月1日から「優先席」が撤廃され
たりもしています。
そんな動きはありますが、それでもこの30年来、なにも画期的な
変化はないままに「優先席」は存在しています。それは、乗客の
態度にも言えることですし、鉄道会社の優先席へのアフターケア
の点についても、です。
 
杖を携えて出歩くようになったこの約3ヶ月ですが、おかげさまで
健康そうに見えるのか、電車で席を譲っていただいたことはたった
一度しかありません。(その一度の機会をくださった50歳代と思し
き紳士の方、改めて御礼申し上げます)
譲られるどころか、ボクの目の前の席が空いた次の瞬間に横から
しゅっと身体を滑り込ませてきて座られてしまったことが三度も
ありました。3人ともどう見ても20代前半の女性、ボクに触れすに
素早く座れるほど健康な人たちばかり…。
それ以外にも、座っている人が杖を目にした瞬間に眠りについて
しまったり、携帯電話のメールに集中したり、どうやらボクの杖は
人を眠らせたりできる“魔法の杖”のようです。そうそう、座っている
人から立ち上がらせる力を奪う魔法もかけられるようになっている
みたいです。

「優先席」に座ってみて、気付いたことがひとつあります。それは、
「優先席」に座っている人には自分の席が「優先席」だとは気付き
にくくなってしまうということです。座る前に「これから私は優先席に
座るのだ」という認識をしてもらわないと、座ったあとからは気付け
ないのです。

派手な座席のモケット(東急多摩川線にて)

透明部分に小さな文字なんて…
ブラインドを下ろすと完璧に隠れる
(東急大井町線にて)
よく考えてみてくださいね。
「優先席」を示すシールは「優先席」のガラスに(これまた見づらい
ものが)貼られています。椅子のクッションが他の席とは違う彩りに
なっている場合もあります。しかしひとたびその席に座ってしまうと、
シールは背中の後ろのガラス面にしか貼ってありませんし、シート
の柄なんか見えません。シールがよく見えて、シートの柄も見える
のは、「優先席」の前で吊革につかまる“立っている人”なのです。
「座りたいなぁ〜」なんて思いながら吊革にぶら下がっている人が
「みなさまの、やさしい心づかいをおねがいします」などと書かれた
シールの文面を読んでいるのです。
座れないのにそう言われても、ねぇ…。それとも、コイツら座っている
連中に席を譲ってやっていると思え、ということか?
「優先席」を撤廃した阪急電鉄の考え方を賞賛したいと思います。
「シルバーシート」の登場からちょうど30年の昨年9月15日から、
関東17の鉄道事業者で携帯電話のマナーが統一され、前述の
「優先席付近では電源を切る」という決まりができました。
でも、電源を切っている人なんて目にしたことありますか?
立ってヒマだから携帯を取り出して、座れば落ち着いてメールも
打てるって、誰も電源なんか切らないじゃないですか!
決まり事を作っても、ただ貼り出すだけで漫然としている鉄道会社
は、今一度その結果を見つめ直すべきだと思います。
また30年くらい、簡単に経っちゃいますよ。
そしてボクは、座りたいとは思わなくなるような、健康な身体を
目指します。

《後記》 上に画像を掲載した東急電鉄では、2005年2月下旬から
優先席スペースのリニューアルに取りかかっている。
窓のシールは透明のものから白地のものに変わり、つり革や壁面
にはオレンジ色を採用し、車内放送と併せて注意喚起を図っている。

 
(2005年4月 東急田園都市線にて)


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