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第6章 交換レンズの異機種互換性

1 換算画角(換算焦点距離)

 交換レンズは、マウントによりカメラ本体に取り付けて使います。そのカメラ専用の交換レンズなら、焦点距離が違うことで写る範囲が変わるという関係だけを意識すれば良いのですが、アダプター経由で他のカメラ用の交換レンズを使う場合、その写る範囲は本来のカメラで使ったときに写る範囲と変わってくることがあるということを理解する必要があります。たとえば135フォーマットカメラの交換レンズをAPS-Cフォーマットのカメラで使う場合、同じ焦点距離の交換レンズでも写る範囲が狭くなります。このことを言い換えると、同じ範囲を写したい場合は、より焦点距離が短い交換レンズを使う必要があるのです。そのため、換算画角という概念が必要となります。

 135フォーマットとAPS-Cフォーマットの換算画角比は約1.5倍になります。つまり、135フォーマット用の焦点距離50oの交換レンズは、APS-Cフォーマットカメラに取り付けると、135フォーマットカメラに焦点距離75oの交換レンズを付けたときに写る範囲と同じ範囲が写ることになります。

 一方、APS-Cフォーマットのカメラに67フォーマット用135o交換レンズと135フォーマット用135o交換レンズとを取り付けて写した場合、その画像はどうなるのでしょうか。答えは「同じ範囲が写る」です。フォーマットというのは、レンズが作るイメージサークルのどの範囲を切り取るのかという関係ですから、フォーマットが同じなら、同じ焦点距離のレンズで写した画像はどれも同じ範囲が同じ像倍率で写ることになります。

2 フランジパック値とマウント口径

 交換レンズにはフランジパックという値があります。これはマウント面と撮像面との間隔距離を表します。このフランジパック値はカメラメーカーごとに異なっています。そのため、異なるメーカーの交換レンズは互換することができないのです。しかし、フランジパック値の差を吸収するアダプターを間に入れることで使える場合があります。

 フランジパック値が長い交換レンズは、それが短いカメラ本体に取り付けるためにアダプターを間に挟む余地が生まれます。この場合、使える可能性があるということです。

 逆に、フランジパック値が短いレンズは、それの長いカメラ本体に取り付けると、繰り出した状態になってしまうため無限遠が来ません。取り付けることが出来たとしても、近接撮影しか出来ないことになります。

 異機種間で交換レンズを取り付ける場合、フランジパック値以外にもマウント口径の問題があります。口径の大きなカメラの場合、それが小さな交換レンズのためのアダプターは比較的容易に作ることが可能です。フランジパック値と合わせて考えると、口径が大きく、フランジパック値が小さなマウントは、より多くの異種交換レンズを使用することが可能であると言えます。

 ミラーレス一眼というものが誕生して、このカメラのフランジパック値は一眼レフより大幅に短いので、ほとんどの一眼レフ用交換レンズのためのアダプターが成立することになり、多くの種類が作られています。そのため、 異機種交換レンズを楽しむ人が増えています。

 マウント口径が小さい場合だと、フランジパック値が近い場合は、大きなマウント口径の交換レンズは物理的に取り付けることができません。でも、フランジパック値の差が大きい場合、例えば マウント口径が大きな67用交換レンズをAPS-Cフォーマットカメラに取り付ける場合は、フランジパック値に大きな差があるためアダプターをテーパー状にする余地がありますから、取り付けることが可能になります。

3 他用途レンズの流用

 一眼レフは、マウントによって交換レンズなどを取り付けて使用することが出来るのが最大の特長です。また、そうして取り付けたレンズなどによって得られる画像と同一のものをファインダー像として確認できることが、競争者であった距離計連動カメラに対しての大きな優越点です。

 マウントによって交換レンズなどを取り付けるという機能を利用すると、正規のカメラ用交換レンズ以外にも、他用途として作られているレンズを使用することが可能です。これらの例について以下に述べます。

(1) 引伸ばしレンズ

 フィルムに記録された画像を印画紙に拡大複写する場合、引伸ばし機を用いていました。これに用いられていたのが引伸ばしレンズです。精密に拡大描写するために画質が優れている必要があって、どれも優秀な性能を保持しています。露出の調整のために絞りが内蔵されていて、しかも絞り羽根枚数が多くて開口が円に近いという優秀なものがほとんどです。これを撮影レンズに使わない手はありません。

 でも、引伸ばしレンズには、ピント合わせのための機構が組み込まれていません。それは引伸ばし機の方に内蔵されているのです。そこで、一眼レフで使うためには、カメラとの間に何らかのフォーカス装置を挟み込まないと、単一の位置にあるものにしかピントが合いません。

 一眼レフで実用的に使うためのフォーカス装置としては、ヘリコイド接写リングとベローズ装置が一般的です。引伸ばしレンズには固有の焦点距離があり、また、バックフォーカスがありますから、間に挟むフォーカス装置の最小厚さとしては、カメラのフランジパック値との合計で、取り付ける引伸ばしレンズのフランジパック値を下まわらなければ無限遠撮影ができません。この制約のため、一眼レフで使用する限り、焦点距離75oを下回る引伸ばしレンズでは、通常撮影の用途としては実用になりません。135フォーマット用引伸ばしレンズとして一般的な焦点距離50oのものは、接写用としてしか実用にならないのです。

 引伸ばしレンズのマウントは、ほとんどの場合、ライカLマウント(M39P=1の近似値)です。これをカメラ用マウントに変換するアダプターは市場に出回っていますから、それを利用して取り付けることができますし、引伸ばしレンズの中には保存用ケースに雌マウントを内蔵しているものがあって、亭主がそうしているように、これを改造用に利用することも可能です。

  ※レンズ玉と絞り装置を取り去ったSMC Takumar50oF1.4に保存用ケース雌マウントを取り付けの例

 ただし、一般的な話として、レンズの収差を補正する場合、使用目的に特化して、その用途に向くように作られている場合があります。無限遠撮影に向かない補正が施されている機種もあるかもしれません。どれでもが、どのような場合でも高性能であるとは限らないようです。

(2) 天体望遠鏡の対物鏡

 天体望遠鏡は、点光源に近い星を可能な限り点として見る必要性があることから、無限遠における収差の補正に力が注がれています。特に星の色の違いを見る必要性から、色収差の影響を除去する努力も払われているようです。これを望遠レンズとして一眼レフで利用することが、野鳥など遠方の小さなものを精密に拡大撮影したい場合に、安価軽量な機材を得られる手段として用いられています。

 屈折式天体望遠鏡(ケプラー式)の対物鏡は、それ自体が凸レンズ系で、長い焦点距離を有しています。レンズの明るさは直径に依存することになるため、明るくするには大きな直径が必要となり、当然重く高価になります。これでは手持ちなど実用という点で限界がありますから、直径100o程度が上限に近いものでしょう。

 この対物鏡を適当なフォーカス機構を組み込んだ鏡胴と組み合わせて、必要なマウント金具を取り付けるだけでカメラ用望遠レンズとして使えます。第二主点が対物鏡の中心にあると仮定すると、撮像面と対物鏡はその焦点距離と同じだけ離れているということになります。模式的に言うと、焦点距離650oの直径100oの対物鏡だと、650/100=10ですから、F1:6.5で650oの望遠レンズということです。

 F値が1:6.5というのが撮影用レンズとして暗いということは、今日の高感度になったデジタル一眼レフでは、ほとんど話題にもできないことでしょうが、これでAFを作動させるということになると、全く話は違ってきます。カメラに組み込まれているAFセンサーは、一定の光の量を必要としています。その光の量が不足するとAFが作動しないのです。F1:6.5ではその必要性に抵触してしまうことになります。

 対物鏡を利用した望遠レンズにおいてもAFを実現出来る機器として、現在、PENTAXのリヤコンバーターがあります。焦点距離を1.7倍に伸ばす「F AFアダプター1.7X」というその製品は、マスターレンズの明るさを要求します。原則としてF2.8より明るいものとPENTAXは公示しています。とは言うものの、昼間の屋外での明るさの中でなら、AFセンサーが必用とする光をもっと暗いF値でも供給できる場合がほとんどです。そこで、実用という範囲のこととしてならということで、対物鏡のF値を明るくすることでこのAF装置が使用可能となるのです。

 対物鏡のF値を明るくするためには、焦点距離/有効口径=F値の関係ですから、焦点距離を短くするか直径を大きくすることでそれが叶います。直径を大きくするのは先に述べた理由で実用的ではありません。焦点距離を短くするのは、対物鏡の屈折率を大きくすることで可能ですが、収差もより大きくなるなど新たな光学設計が必要でしょうし、何より新たな製品を待たねばなりません。簡便に既に在るもので実現するというのが流用の基本ですから、何か他の方策で可能たらしめねばなりません。

 既存の光学系に他の光学系を付加することで焦点距離の短縮が可能であるのなら、それで解決です。凸レンズと凸レンズを重ねればその合成焦点距離が短縮されるのは、上記したクローズアップレンズの例で取り上げました。この原理を応用すれば、焦点距離は短縮できます。実際に行われている例では、対物鏡の後方に色収差補正に効果のあるダブレット構造のクローズアップレンズを置くことで焦点距離を短縮したり、BORG社の製品のようにレデューサーという部品として供給されているものを組み込んだりしています。これによってF値を明るくすることで「F AFアダプター1.7X」を作動可能にしています。これが享受できるのは、今のところPENTAXの一眼レフにおいてのみなのは欣快とすべきことなり…既にディスコンになっているものとしてはNikonの製品「TC-16A」がありますが、使うためには改造が必要とのこと…

 なお、光学系を付加することでマスターレンズの固有イメージサークルは縮小します。しかし、巨大なそれを持っている対物鏡なら、縮小しても影響するほどではないようです。

(3) 顕微鏡の対物鏡

 顕微鏡の対物鏡のうち、「有限遠補正光学系」のものは実像を結ぶことから、それだけで撮影レンズとして使えます。近年主流の「無限遠補正光学系」の対物鏡は、実像を結ばないのでそれだけでは使えません。

 バックフォーカスが小さいため、無限遠撮影には使えません。接写を目的としての利用ということになります。かつてPENTAXからは、この対物鏡を取り付けるためのマウントアダプターが販売されていました。それを使用することでベローズ装置などの接写装置と併用して顕微鏡的に使うことが可能です。

 なお、顕微鏡自体を撮影レンズとしてカメラに取り付けるためのアダプターも販売されていました。

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