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第5章 コンバーターレンズ

1 フロント・コンバーター

 交換レンズなどの前に取り付けて元のレンズ(マスターレンズ)の画角を変化させるレンズがあります。これをフロント・コンバーターと言います。これには 、画角を広くする効果のある 「ワイド・コンバーター」と、画角を狭くする効果のある「テレ・コンバーター」と、画角を狭くすることで拡大像を得ることはできるものの、焦点距離が伸びるために結像面が後方に移動してしまい、近接距離にしかピントが合わない 「クローズアップレンズ」があります。

(1) ワイド・コンバーター

 凹レンズを前側に置き、凸レンズを後ろ側に置いた構造になっています。凹レンズと凸レンズの屈折力を同じにすることで、光軸と平行に入射した光は光軸と平行に出て行きます。この光がマスターレンズに入ることになります。凸レンズの径がマスターレンズの口径より大きければマスターレンズのF値を変化させないし、最小撮影距離も同等です。また、取付位置の前後もほとんど影響しないので、ステップリングを用いて口径の異なるレンズに取り付けることが可能です。

 このコンバーターレンズを取り付けると、マスターレンズ側から見ると縮小された対象物を見ることになりますから、より広い範囲が見えることになります。つまり画角が大きくなるのです。ただし、マスターレンズには固有のイメージサークルがあり、その中でのことになりますから、イメージサークルが縮小するのと同じことになって、元々のイメージサークルが小さいと、画面の四隅がケラレることになります。

 同一マウントなら、35mmフルサイズ用の交換レンズは、APS-C判のカメラで使うことができます。この場合、撮像素子の大きさに対してイメージサークルに余裕があるので、ワイド・コンバーターを用いても四隅がケラレることはありません。倍率によっては換算画角を元に戻す効果がありますから、交換レンズ本来の焦点距離における画角で撮影することが可能です。

 構造原理は凹凸レンズを使った逆ガリレオ式の縮小鏡なので、収差の影響が生じます。ダブレットなので色収差は良好に補正されますが、樽型の歪曲収差やコマ収差、像面湾曲といったザイデル収差は発生してしまうものが多いようです。特に、コマ収差や像面湾曲による四隅の像の流れが生じるものがあります。これは倍率を稼ぐために屈折率を大きくしたものほど 現れ易いようです。

 倍率は屈折率によっても変化しますが、凹レンズと凸レンズの間隔を変えることでも変化します。間隔を広げるとより広角になりますが、レンズ径も大きくしなければならないので限界があります。製品としては 「0.8倍」から「0.66倍」程度のものが多いようです。

(2) テレ・コンバーター

 凸レンズを前側に置き、凹レンズを後ろ側に置いた構造になっています。これも、凸レンズと凹レンズの屈折力を同じにすることで、光軸と平行に入射した光は光軸と平行に出て行きます。この光がマスターレンズに入ることになります。凹レンズの径がマスターレンズの口径より大きければマスターレンズのF値を変化させないし、最小撮影距離も同等です。また、取付位置の前後もほとんど影響しないので、ステップリングを用いて口径の異なるレンズに取り付けることが可能です。

 このコンバーターレンズを取り付けると、マスターレンズ側から見ると拡大された対象物を見ることになりますから、より狭い範囲が見えることになります。つまり、画角が小さくなるのです。一眼レフの場合、後述するリヤ・コンバーターの方が小型で性能が高いという事情があるため、あまり使われません。

 構造原理は凸凹レンズを使ったガリレオ式の望遠鏡なので、これも収差の影響が生じます。糸巻型の歪曲収差が特徴的です。焦点距離が長くなると倍率色収差が拡大しますから、画質の低下がワイド・コンバーターの場合より大きくなります。

(3) クローズアップレンズ

 これは凸レンズです。bェ付けられていますが、この数字は焦点距離が1mの何分の一であるかを表す分母の数字です。bQなら500o、bRなら333o、二枚以上を重ねて使うことも出来て、その場合、それぞれの数字を加えた数がbノなりますから、bQとbRを重ねるとbTとなり、 「1000/5」mmですからその焦点距離は200oとなります。

 無限遠にしたマスターレンズに取り付けたときに、その焦点距離の位置にあるものにピントが合うことになります。つまり、それより遠いところにあるものにはピントが合わせられなくなるということです。bQなら500oより手前のものにしかピントを合わせることができないのです。その代わり、マスターレンズだけのときより像は拡大しますから、それを称してクローズアップと言うのです。

 bQのものは500oより手前のものにピントが合わせられます。標準レンズは最小撮影距離が450oのものが多かったので、これに取り付けると、最小撮影距離をシームレスで縮められるというわけです。

 マスターレンズにクローズアップレンズを取り付けると、無限遠におけるバックフォーカスを短縮しているということができますから、フランジパックの短いミラーレス一眼にそれの長い一眼レフ用交換レンズを取り付けるときに、通常はフランジパックの差相当の厚みがあるマウントアダプターを使用しますが、クローズアップレンズを使用することで薄いマウントアダプターが使える可能性があります。コンパクトさが身上のミラーレス一眼をコンパクトに使用できます 。

2 リヤ・コンバーター

 レンズ交換式のカメラの場合、カメラ本体と交換レンズの間に接写リングなどを挟む形で装着することができます。そのため、この位置にコンバーターレンズを装着することが可能なのです。間に挟むことでマスターレンズは繰り出された ことになるため、その位置で無限遠撮影をするためにはマスターレンズのバックフォーカスを延ばさなければなりません。間に挟むことでマスターレンズのバックフォーカスを延長できるのは 「凹レンズ系」です。これだと焦点距離も長くなり、望遠系になってしまいます。広角化してもバックフォーカスを大きく取るためには、全体としてレトロフォーカスの光学系にする必要があり、そのためにはマスターレンズの前側に凹レンズ系を配置するしかありません。このことから、広角化用としては、リヤ・コンバーター形式では成立しないのです。

 実際にリヤ・コンバーターとして製品化されているのは、ほとんどが1.4倍から3倍程度の望遠化用です。どれもマスターレンズの後方に凹レンズを置くことで合成の第二主点を前方に移動させて、バックフォーカスを大きくすると同時に焦点距離を長くしています。

 なお、フランジパックが短いマウント規格の交換レンズを、それが長い規格のカメラに取り付けて使うために、マウントアダプターに凹レンズを組み込んでいる例があります。これもリヤ・コンバーターであると言うことができます。マスターレンズのバックフォーカスを延長して無限遠撮影が可能にでき るのですが、当然合成焦点距離が長くなって望遠化します。この場合、スペースの関係で、通常1枚の凹レンズのみによっていて、それがメニスカスだとしても色収差をほとんど補正できないでしょうから、画質が大きく低下するのは致し方の無いところです。

 マスターレンズで収差補正がほぼ完結しているものに別の光学系を付加するのですから、その付加する光学系が汎用であるなら、その中で収差補正を完結させる必要がありますが、それは非常に困難なことです。デジタル一眼レフが高画素になって、そのトリミング耐性が向上している今、画質が確実に劣化してしまう汎用コンバーターを使用するメリットが失われつつあります。

 リヤ・コンバーターの変わり種として、AFアダプターを兼ねた製品があります。PENTAXの「F AFアダプター1.7X」がそれです。焦点距離とF値がそれぞれ1.7倍となるものの、MFレンズに取り付けることでAFが可能になります。カメラ内モーターがAFカプラーによってレンズ全群を前後させ、それによってピントを合わせます。AFしても全長が変わらないところは、インナーフォーカスと同じ原理と言えます。

 なお、PENTAXのAシリーズリヤ・コンバーターの使用説明書には、近接撮影に向く設計では無いことが書かれています。接写目的での使用は勧めないとのことです。あくまで遠方のものを引き寄せて撮影するという用途でしか実用にならないということでしょう。

 近年、ミラーレスのレンズ交換一眼カメラが台頭しています。亭主はPENTAXもその潮流に乗らざるをえない時期が来ると予想しています。そのときには当然フランジパックが短いマウント規格を新設するのでしょうから、その短くなった差分を使ったマウントアダプター兼用の広角化用リヤ・コンバーターの開発がされるかもしれません。その暁には、夥しくユーザーの手元にある35mmフルサイズ用交換レンズ群が、APS-C判カメラにおいても晴れて本来画角で使えるという日が来るのでしょう。多少の画質劣化は甘受するとしても…

 追記: 2013年1月に、メタボーンズ製のAPS-C判ミラーレス用マウントアダプター群が発売になりました。これらは、この原理に基づく製品群です。0.71倍とのことですから、本来画角に近い使い方が可能ということです。マスターレンズより1段分明るくなるなど、付加価値もあります。これからの主流になりそうです。

 PENTAXの「K-01」のようなコンセプトのミラーレスなら、どんがらにしたミラースペースに凸レンズ群を「レデューサー」として置くことで、APS-Cのままで35mmフルサイズ用レンズを本来画角で使えるという機種を創設可能ということです。1段分明るく使えるということでシャッタースピードを速く出来て、スナップシューターとしては大きなメリットがありますし、FA Limitedを本来画角で使いたいという35mmフルサイズカメラ待望派をある程度満足させることも可能かと…

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