Vol.58 - 27 May 2005

仕事帰りの電車の車窓から、沿線に“鉄板焼・たこ焼”の提灯
看板を目にした時、ふとこんなことが頭に浮かびました。
「“たこ焼”って、どうして漢字で書かないんだろう」
それから頭の中で“たこ焼”という漢字を思い描いてみました。
ところが、どうしたことか“たこ”の字が浮かんできません。
「あれぇ? どんな字だったかなぁ」
偏(へん)と旁(つくり)で成り立っているひとつの漢字であること
はすぐに思い出せるのですが、イメージがハッキリとしません。
「だいたい“タコ”なんていう字、ひらがなやカタカナで書くことは
あっても、漢字で書くことなんてないし、そもそも最近はPCに
向かってキーボードでばかり文章を作っているので、漢字どこ
ろか文字すら書くことなどないし…」
それでも、かつて中学校の漢字テストで全校でトップを獲った
こともあり、得意分野だと心のどこかで思っているボクとしては、
何としてでも思い出してやろうという気持ちになってきました。
なぜかすぐに、“旁(つくり)”は「肖」であるということを思い出し
ました。
あとは“偏(へん)”を思い出せばいいのです。

タコは海の生物だから“シ(さんずい)”だろう。
…でもそれだと“消”だよ。

生物だから“けものへん”か?
足が8本もあるから“あしへん”か?

どうにも不確かなので、書いて確認してみたくなってきました。
電車の中とはいえ、扉の際ならばガラスに指でもなぞることも
できそうなものですが、今ボクは混み合った電車の中にいて、
つり革をつかんでなんとか体勢を維持している状態。
丸い輪をつかむ右の掌からひと差し指だけをぴんと伸ばして、
くきくきと宙に文字を書いてみます。
でも、書き上げた漢字を見てみなければ、どうにもわかりま
せん。目で見て判断したい欲求は満たされません。

海の生物だから“うみへん”か? え、“うみへん”って何だ?
“さかなへん”か? 
…でもそんなに画数の多い字じゃなかったような気がする。

タコチュウの口で、“哨”か?
“歩哨”とか“哨戒"の“哨”なわけ、ないよね…。

“肖"だよね?
“硝”? “硝子”って“ガラス"だし、“硝酸”って劇薬でしょ?
“梢”? “末梢神経”の“梢”って、つまり“こずえ”でしょ?
“逍”? “坪内逍遥”の“逍遥”って、ぶらぶら歩くことでしょ?

旁の“肖”にこだわり過ぎて、“タコ”という生き物からはすっかり
考えが離れてしまいました。

“タコ”だよねぇ…。
無意識のうちに、おもむろに口を尖らせてみたりしています。
実際に書いてみないと、どうしてもわかりません。
イメージしにくい…。

あ、“フグ”の場合は、“河豚”って書くよねぇ。
…ってことは、“海墨”とか“海軟”?
こうなったら、辞書がないとわからないよぉ。

足が8本だから、“海蜘蛛”か?
あ、“虫”に“肖”で、『蛸』だ!

だいたいのイメージはわかっているのに形にできない漢字とい
うのは、喉元まで出かかっているのに音声として頭に浮かんで
こない言葉などといっしょで、とてももどかしいものです。
でも、漢字の場合、紙と鉛筆でもあって少しでも実際に書くこと
ができるならば、そんなもどかしさは緩和されるはずです。
しかし、書けない状況にある時というのは、相当なストレスを感
じるものなのですね。
それもこれも、たまには鉛筆を手に、実際に文字を書くことで、
漢字を忘れないようにしなさいということなのでしょうけれど。

自宅に帰ってから辞書で調べてみると、“タコ”は「蛸」の他にも
「鮹」とも書くそうで、電車の中で一応、答えは出ていたのだと
いうことがわかりました。
また「章魚」とも書くそうで、台湾では“章魚小丸子”と書いて
“たこ焼き”を意味するそうです。

やはり“たこ焼き”は、“蛸焼き”と書くことはないようです。
皆さんは漢字、どうですか? 書いてますか?


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ノンキな通信  I.Z.'s Attic




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