Vol.48 - 14 Oct. 2004

もう50年近く前のこと、ひとりの遊具取扱商が、「屋上に遊園地が
ないから、ここは“九十九貨店”だ」と言って、屋上に遊園地を開き
“百貨店”を完成させたのだという。−それが三越百貨店。
国内初のデパートメントストアとして開店してから百年の今年、この
11日に本館をリニューアルし、新館をオープンさせた三越本店に、
今日の夕方、ほんの僅かな時間でしたが脚を運んでみました。
かつては東洋一の大きさを誇ったという店舗ですが、さすがに今日
この頃の日本橋に日本最大級の店舗を構えるような余裕はなく、
呼び物の新館は想像していたよりもずっと狭いものでした。
しかしさすがは老舗ののれん。
きちんと作り込まれた店内に、ゆったり整然と店舗が並び、背筋の
伸びた店員さんたちが、品のあるお得意さんのお相手をされてい
らっしゃいました。渋谷や新宿のデパートでは耳にしないような上品
な口調の会話が、やはり交わされていました。

第一印象として間違いなく言えることは、男性にとっては少し物足り
ないお店だということ。
良質なものに囲まれ、上質な生活を提供するのが三越の使命だと
したら、心にゆとりを持っていないとできないような趣味を提案する
ような店があってもいいはず。万年筆、パイプ、そして帆船模型。
万年筆は「Mont Blanc」が入っていましたが、それ以外は…。
やはり全てが揃うわけではないから、またしてもかの遊具取扱商の
言う“九十九貨店”に戻ってしまったのか?
いや、違うらしい。
三越のホームページによると、「千貨でもなく、万貨でもなく、あらゆる
ものを、あらゆる選択肢から厳選し、良質なものだけを」届けることを
「百貨」というのだそうです。
つまり、何でもあるから「百」なのではなく、巷に溢れる千万(ちよろず)
の品々の中から選りすぐった逸品が「百」なのだと。

たった百年の間に、多くのモノが生み出され、そしてついにモノが溢れ
る世の中になったのだということなのでしょうか。百年を経た百貨店に、
その間に変遷した世相や価値観を考えずにはいられませんでした。
きっと百年前の店頭は、そのほとんどの商品が「百円台」の値札が付
けられていたのだろうと思います。
百年を経た今日、真新しい商品の値札は、百年前からは百倍の単位
「万円台」の商品が主流になっていました。

月日は百代の過客にして、百台の価格を万台にして…。
こんなくだらないフレーズが浮かんだところで、何も買わずに、早々に
新館を後にしたのでした。
(松尾芭蕉にも李白にも、ホント申し訳ないと思う、この駄洒落…)



日本橋に出現した、新たなる白亜の殿堂。
建物正面の中程には、
立派なレリーフのエンブレム


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ノンキな通信  I.Z.'s Attic




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