Vol.31 - 16 Jul. 2003

東京の地下に8路線183.2kmのネットワークを持つ「営団地下鉄」
が、来年4月に「東京地下鉄株式会社」という名称に変わるの
だそうです。
都心の公共交通の代表である地下鉄が、東京都営地下鉄と
東京地下鉄という名称の2機関になるということで、今でさえ、
都営と営団という2種類の地下鉄があって、混乱の元にもなっ
ているというのに、とにかく、そういうことになるとのこと。
これは、行政改革の一環として行なわれている特殊法人の民
営化の一環として、営団も民営化が閣議決定されたことに端を
発しているもので、真珠湾攻撃の年、1941年の設立以来続い
てきた政府と東京都の共同出資による地方公共団体は、営業
収入などでJR本州3社に次ぐ規模の私鉄となります。
民営化による利用者メリットがより一層出てくることを心から期
待していますが、「東京地下鉄」はさてどうなりますことやら。
とりあえずは、都営地下鉄との合体はないようですが。

ところで皆さんは、営団地下鉄の本当の名称を知っていますか?
本名は『帝都高速度交通営団』といいます。
「高速度」という部分は、地下鉄の成り立ちに由来しています。
地下鉄は路面電車に代わるものと位置づけられていて、「路面」
に対して「軌道」、そして「軌道」を走る鉄道は「路面」を走る鉄
道よりも「速い」ことから「高速電車」と呼ばれていたのだそうです。
路面鉄道や軽便鉄道、ケーブルカーなどの特殊軌道などでも
ない、高速鉄道網を首都に於いて運営している当局。
これが「帝都高速度交通営団」といえるでしょう。
60余年に渡って、「営団」という略称で呼ばれてきたのは、そ
の冒頭でうたわれている「帝都」という言葉の持つイメージにも
原因があるような気がします。

「帝都」。なんだかレトロな、でも退廃的な響きのある言葉です。
明治時代から大正時代をはさんで昭和初期までの、文明開化
のバタ臭さを強く匂わせる「尊王攘夷(そんのうじょうい)」華や
かなりし時代の、モダンでどこか重厚な、憧れの街「東京」。
「神様のいる街」、だったのでしょう。
「帝都」という言葉には、そんな誇りをふんだんに含んだ響きが
あったのだと思います。

しかし、戦後、そんな言葉のイメージは失われ、平成という時代
に入ってからはなおさらに、退廃的な印象を醸すようになってき
たのではないでしょうか。
平成10(1998)年には、旧帝都電鉄(現京王井の頭線)と京王
線をメインラインに持つ京王帝都電鉄から「帝都」の文字が消え、
京王電鉄が正式社名になりました。今回の営団地下鉄の改称
で、鉄道からは「帝都」の文字が消え去ります。
その他の業界で「帝都」で知られている会社としては、タクシー
の「帝都自動車」や葬儀業界大手の「帝都典礼」などがあります。
「帝都典礼」のホームページには、「帝都とは『日本の首都』と
いう意味があります」と書かれています。
そんな日本の首都を表す名称がつぎつぎ消えていくということ
は、時代が変わりつつあるということなのでしょうか。「帝都」は、
古臭い言葉として消え去ろうとしているのでしょうか。

そんなことはありませんでした。
インターネットで「帝都」という言葉を検索すると、由緒正しい老
舗のページに混じって、映画やゲーム、とりわけRPGの世界で
この言葉が愛用されているようです。
「今」と違う世界としての「レトロ」な“世界観”で繰り広げられる
シンプルな戦いの場、国盗りではなく権力の覇権争いの場とし
ての「帝都」が、新しくつぎつぎと築かれているようです。
皆さんは「帝都」という言葉に、何を思いますか?
営団地下鉄なんかじゃなくて、サクラ大戦ですか?
それとも映画『帝都物語』の主人公・加藤を演じる嶋田久作の
姿ですか?


《後記》 2004年4月、「帝都高速度交通営団「は
「東京地下鉄株式会社」に変わった。そして、
「東京メトロ」と呼ばれるようになった。


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