Vol.18 - 05 May. 2002

連休の谷間の平日。朝の通勤で、地元を走る東急田園都市線
に10年ぶりに投入された新型電車の運転初日の一番電車に
偶然でくわしました。
新車といっても、統一された規格に従い大同小異の通勤電車
のこと、結局はわかる人にしかわからなかったかも知れません。
それでも、今回の新型車はJRとの共通設計で、従来の東急電
車とは明らかに異なる部分が内装外装共にあって、鉄道に興
味がなさそうでも、乗ってきた時に「おや?」といった表情を見せ
る人が多く見受けられました。
でも、やはり目立つのは各駅に少なくとも1人はいる「鉄道ファン」。
停車した瞬間に写真を撮って、閉まる直前の扉に駆け込んでき
て、乗務員室前の通称“かぶりつき”にスペースを確保する。
自らの高揚した緊張感を維持するために一般通勤客の迷惑を
考えない行動を起こしています。
こういった人たちの姿を見るにつけ、いつも思うことがあります。
「こういった人たちが、結局は鉄道趣味を理解してもらえないも
のにしている」



東急新5000系 (ys-atc氏提供)

知る人ぞ知る事実ですが、私には鉄道趣味があります。
一般的には鉄道ファンとか鉄道マニアなどと言われているので
すが、「ファン」には「fanatic=狂信的な」、「マニア」には「man-
iacal=狂気の」という意味があって、どちらもあまり良い響きで
はないので、私としては「鉄道おたく」の一歩手前といったニュ
アンスの表現である「鉄っちゃん」、それをさらに捻って「鉄分が
濃い」と名乗ったりしています。
近所を走る電車に乗っても、運転席の後ろのガラスに鼻息荒く
べったり貼りつくこともなく、何十年ぶりに新宿発の「あずさ2号」
が復活だと言って、朝からカメラを担いでプラットホームの白線
の外側に陣取ったりするわけでもない、見た目は誰にも気づか
れない風体で、「鉄道好き」を営んでいます。

鉄道好きということが知れると、鉄道を好きでもない人たちの多
くがたいてい、「じゃあ、クモハとか知ってるわけ?」と、なぜか
訊いてきます。
なぜそんな質問を投げかけてくるのかをむしろ訊きたいし、好き
でもないのになんでそんな「クモハ」などという専門家しか知ら
なくてもいいような符丁のような言葉を知っているのか、その方
がむしろ知りたいくらいです。
そういっても話しは進まないから、まあ私の答えから開陳しまし
ょう。
「クモハ」知ってます。どんな電車なのかを表す記号です。
「ク」=駆動させる装置、つまり運転台のある、「モ」=モーター
付きの、「ハ」=普通車。これが答えです。
え、なぜ「ハ」が普通車だって?
今どきの電車ではなかなかグリーン車が連結されているものも
多くはありませんが、グリーン車はそのむかし二等車と呼ばれ
ていて、その二等車よりも等級の低い一般車は三等車と呼ばれ
ていました。
一等車から順番に二等、三等と「イ、ロ、ハ」と呼ばれていて、
いまでこそ「普通車」などというクラスですが、そのむかしは最低
の三等車だったので「ハ」なのです。

 
“運転台はある”けど、“モーターのない”JR東日本「クハE231」の形式板
“EAST(東日本)”の「E」に、“直流”電気を使用する「2」、中距離電車の「3」、
「1」は以前の車輌のヴァージョンアップではなく、新機軸であることを表す。
「85XX」はさらに細かい便宜上の分類を表し、「6」は同型車の6台目を示す。

そのくらいのことを知っているのが、一応、鉄道ファンといわれる
人々です。
しかし、その鉄道ファンを細かく分類していくと、これがまたいろ
いろな人というか、いろいろな趣味のジャンルがあって驚かされ
ます。
とにかく日本の線路という線路を走る全ての鉄道を乗り尽くそうと
している人。駅という駅の入場券を集めている人。カタログづくり
でも目指しているのか、とにかくたくさん車輌の写真を撮っている
人。このあたりの人たちの嗜好についてはまだわかりやすいよう
な気がしますが、中にはその重要性が全くわからない、文字どお
り「世界」に浸っている人たちもいるようです。
例えば、東京周辺の私鉄線で使える新しいシステムの共通プリ
ペイドカード「パスネット」カード。あのカードの裏に刻印されてい
る番号を追っている人。
あるいは、今現在、見た目には全て同じ形の車輌に統一されて
いる営団地下鉄銀座線などの運行番号を追って、今日は第何
編成が何番運行に入っているのかを調べることに興味を持って
いる人、などなど。
こういった人たちの趣味については、同じ鉄道好きとしてもやや
理解に苦しむところがあります。それは、知ることでなにが満た
されるのだろうかということ。
そういう人たちに限って、自分の興味のない路線については全
く興味が向かず、さらに興味がないだけでなく知識もないのです。
パスネットやSuica、自動改札には詳しいけれど、京浜急行で
羽田空港まで行けることなど知らなかったり、銀座線の運行番
号には詳しいけれど、隣を走っている半蔵門線については、ど
こまで走っているのかなど全く知らなかったりするわけです。

わけがわからないから気持ち悪い、などとは言いません。
ただ、そんな人たちが鉄道ファンと呼ばれている人たちのイメー
ジを悪くしているのだとは思います。
鉄道ファンが他の趣味と決定的に違うことがひとつあります。
それは、女性ファンが致命的に少ないということです。
ものごとのイメージの良し悪しを判断するのはたいてい女性に
よるものです。
ブランドにしてもデザインにしても、たいていは女性に受ければ
良しとされることが多いようですから、その女性のファンが全く
いないということは、これは致命的です。
そういえばクルマなどですら、女性ユーザーの声を取り入れた
デザインや工夫が盛り込まれたものが作られているというのに、
こと鉄道に関しては女性の声を取り入れたなどという話は聞い
たことがありません。
特急車両などでは名の通ったデザイナーがデザインしたものが
ありますから、そういった方がデザインされる車両にはもしかし
たらなんらかの意見が反映されているのかもしれません。しかし
圧倒的大多数の人々が否応なく利用しなければならない通勤電
車に女性の考え方が生かされたなどという話は聞いたことがあり
ません。
毎日否応なしに利用せざるを得ない鉄道、一日のうちにほぼ間
違いなく何時間かをとられてしまっている通勤電車こそ、女性も
含めて、もっと見直されるべきものだと思っています。

そんなことも含めて、私は「“使える”鉄っちゃん」を目指していま
す。
インターネットで乗り換え案内を調べなくとも、目的地までどうい
った経路で行くのがベストな方法なのかがわかったり、おおよそ
の所要時間がわかる、最短時間というわけではないけれどこう
いったルートを使えば乗り換えの際に階段の昇り降りが少ない、
少しは空いている、座れるかもしれない、などなど。
こんなことを教えてくれる方が、パスネットの番号に詳しい人より
も“使える”と思いませんか?
便利屋になろうとしているわけではありません。私としては単に
JR、私鉄に限らず、通勤電車の公共の脚としての位置づけと民間
企業の一収入源という位置づけの相反する二面性の両立につい
て興味を持っていると、そういうだけのことなのです。
ダイヤはその鉄道会社のサービスに対する考え方のプレゼンテ
ーションだと思っています。

…って、こんな自説を開陳するとまた、鉄道趣味への理解する
気が薄れますよね。
話せば「おたく」、黙れば「陰湿」。どうすりゃいいんだ、鉄道趣味!


<< Vol.19  Vol.18  Vol.17 >>

ノンキな通信  I.Z.'s Attic




*** I.Z.'s Attic ***
Copyright - I.Z. - 2004 - 2010 All Rights Reserved