Vol.5 - 25 Mar. 2001
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知人のご家族の通夜で神奈川県大和市にある斎場に行った帰り
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最寄りの駅までは斎場前の県道をまっすぐ行けばいいということ
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は知っていたけれども、その距離はおそらく2キロ以上はあった。
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バスやタクシーがこの県道を走っている姿を見かけなかった。
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また、斎場まで乗ったタクシーの運転手も、この辺りには流しで
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走っているタクシーは少ないと言っていた。だから、すっかり暗く
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なってしまった県道沿いの歩道を何分も歩くのはあまり気が進ま
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初冬のころだったと思う。7時半ごろの斎場の周辺は、工場や倉庫
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が多いせいなのか、県道を行き交うクルマは多いのに、人々が
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生活している息遣いのようなものは感じられず、寂し気な空気だけ
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タクシー運転手からは、この県道はバス路線もないと聞いていた
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から本当に歩かなければならないのだと決意を固めたころ、道路
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しかし時計はそろそろ8時になろうとしていたし、住宅街ではない
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区間を走るバスは最終便の時間が早いのが一般的である。
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半分は期待してはいなかったものの、もう半分では期待しながら
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白く塗られた鉄板に細筆でていねいに数字が書かれていた。
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暗くて文字までなかなか読むことができないが、とりあえずこの
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バス停から乗れば、駅までは行けそうだということがわかった。
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暗くて読みづらかったが、脇をクルマが駆け抜ける時にヘッドライト
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の光でなんとか読むことができた。交通量が多いのが幸いした。
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しばらく凝視するうちに、この時刻表には「平日」の時刻しか載って
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いないということと、この鉄板はただ単純に白く塗られて時系列ごと
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に横に罫線が入れられているということはわかったのだが、肝心な
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バスの発車時間を表す数字はどこにも書かれているようには見えな
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時刻表には何も書かれていないように見えた。しかしよく見ると表の
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下半分の真ん中辺りにたったひとつだけ数字が書かれていた。
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ボクは腕時計を光にかざして見た。19時46分だった。
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1日にたった1本しか来ないバスなのに、そんなバスがあと2分で
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時間は無駄にしたくない。2分で来るとは言え、目の前を走る県道の
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クルマの流れを見ると遅れてきそうな気もするし、一方で、もう行って
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しまっているような気もした。あと2分という時間はとても微妙でとても
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早く帰りたい気持ちからすれば、来るか来ないかわからないバスを、
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僅か2分と言えども待ちたくないが、駅までの距離を考えるとここで
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この後に予定があるわけではないから、特に急ぐ必要はないけれど、
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礼服で長い時間いろいろなことはしたくない。特に、長い距離を歩くの
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この2分を待つべきか、待たずに歩くべきか、かなり真剣に考えること
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タクシーも重要な選択肢のひとつだったが、駅までワンメーターでは
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おそらく着かないだろうということも、バスを待たせようとする要因に
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なっていた。しかも今のところタクシーは1台も通りすぎていないので
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バスが遅れてくる可能性も充分考えられるので、実際には2分以上
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1日にたった1本のバスに乗れそうだという状況は思いの外、幸運だ
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バスがやってくるであろう方向には、ちょっとした交差点があるが、
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バスはその交差点にどういう具合に進入してくるのかわからない。
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だから、こちらに向かってくる信号が赤になっている状態でも目を
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右折や左折でその交差点に進入してくることも考えられたからだ。
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暗い交差点にはクルマのヘッドライトだけが行き交い、トラックと乗用
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車の差はわかったものの、トラックの大小はなかなか見分けにくく、
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何回かそういった間違いが繰り返されると、疑問は疑心暗鬼に成長
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でも、この時計を最後に調節したのはいつだったかな、などと思い、
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誤差の範囲内であると自分を納得させようとしていた。
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駅から奥の住宅地まで誰かを送っていった帰りなのだろう、こういう
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時に限って、流しのタクシーが前を通過していったりもする。
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「なぜだかいつもこんな状況に追い込まれたりしてないか?」
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「自分に自信が持てない。優柔不断なんじゃないか?」
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まだ8時前だというのに、ひょっとしたら帰れなくなるかもしれないと
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まで思い始めたころ、交差点の向こうに明らかに路線バスとわかる
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姿が見えた。信号を待つ列の2台目。ほんの2分遅れだった。
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ひょっとしたら信号が青になったとたん、左折でもして行ってしまう
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かもしれないなどという心配をよそに、バスはすんなりバス停まで
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やってきた。そしてボクを乗せると、途中曲がることもなく県道を駅
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までまっすぐ走っていった。ほんの5分くらいの行程だった。
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利用客が少ないからバスの本数を減らす。利用客にしてみれば、
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こんな連鎖の中、実は潜在的な需要があり必要な路線であっても
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都市周辺部の、決して田舎とはいえないところにはこんなバス路線
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目的を持って乗りに行くのであればまだしも、ボクのように乗る必要
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性とチャンスを偶然に得てしまった者に対しては、非常に不安感を
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始発便で最終便だった1日にたった1本のあのバスは、ボクに社会の
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一端と自分自身の心の一端を垣間見せてくれたのだった。
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ところで、あのバスの乗っていた女子高生とおばさん、毎日あのバス
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ノンキな通信 I.Z.'s Attic
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