Vol.4 - 18 Mar. 2001

つい最近までまだまだ寒いなどと思っていたのに、都会の街角
では沈丁花が朝な夕なに芳香を漂わせ、春本人に成り代わって、
その到来を告げているのでしょうか。
花粉症の方々にはしんどい季節、お察しするにも余りある。もう
いっそのこと草木の生えない南極かエベレストにでも…、なんて
いうことを考えていたりしませんか?

私は沈丁花の香りをかぐと、16年前を思い出します。
2年もだらだらと浪人をして、ようやく見つけた自分の受験番号。
それは第3希望だったか第4希望だったか、とにかく究極の滑り
止めだったのです。
ほとんどの大学では、合格者の受験番号は高い掲示板に貼り
出されるのですが、その大学だけはなぜか校舎沿いの植え込み
の前の目の高さに掲示されるのです。
人だかりができると3列目位から後ろの人たちは見ることができず、
正月の初詣でのように、前の人がいなくなって自分が最前列に
出るのをゆっくり待つしかありません。
悶々と発表の日を待って、発表時刻を待って、ようやく掲示板の
前にたどり着いて、そしてまたしばらく待たされて、そしてそこに
自分の番号を見つけた瞬間、植え込みの沈丁花の香りに気づくの
です。

第1希望なんていうわけじゃないけど、とにかくこの大学しかない。
とりあえず自分のこれから4年間の居場所ができた。
心の底から手放しで喜ぶことはできないけれど、でも意外と大きな
安堵感にも包まれた、ちょっとしょっぱい経験を、沈丁花の香りを
かぐたびに私は思い出します。

日本の社会では毎日暗く厳しいニュースが続々と報じられ、景気や
株価がかつてないと形容されるほど酷い状況に陥っています。
身の回りにも景気の悪い話はあふれていて、夢や勇気を語る人たち
もなかなか現れない今日このごろですが、そんな日々のこの沈丁花
の香りは、16年前に大学で匂ってきた時のように、ちょっとした明るさ
をもたらしてくれます。
もうそろそろ良くなるんじゃないか、沈丁花が薫らなくなるころには悪く
なくなっているだろう。そんな気分にさせてくれます。

いくら郊外に住んでいるとはいっても、都市近郊ではなかなか花の香り
というのも感じられないものです。それだけに、たまに感じる草木の
薫香、とても印象的です。
みなさんにも何かを思い出させる花の匂いって、ありませんか?

沈丁花が終わるか終わらないかのうちに、今度は花見の季節がやって
来ます。そして、その後は花より葉っぱの緑の方がきれいに見えるよう
になってきて、それが落ち着くと夏を告げる梅雨の季節です。
世の中がどうであれ、自分がなにをしていようが、去年と同じサイクルが
今年も巡っているようです。
そのうちよくなるさって、自然に教えられているようです。


季節の代わり目です。
皆さんも健康には充分気をつけてください。
それでは、また。


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