Vol.10 - 19 Aug. 2001

多摩動物園に行くと、ついついゆっくり眺めてしまう動物の中に、
「モウコノウマ」という馬がいるのですが、みなさんは、ご存じで
すか?
見た目は、競馬で活躍しているような馬よりは脚が太めで、“野
生の馬”らしい馬とでもいう印象ですが、動物園で眺めている限
りは、とても穏やかで、眼の優しさにはいつ見ても惹かれるもの
があります。

モウコノウマは戦前、絶滅に瀕していたのだそうです。
しかし昭和22年、モンゴルで最期の1頭と思われる野生の雌が
発見され、以来世界中の動物園で飼育、繁殖に成功し、現在
はおよそ2,500頭が世界中の動物園で飼われています。
稀少動物であるためワシントン条約で保護されており、世界各
地の動物園で飼育されていく上で、新しい個体が誕生したり死
亡したりした場合は全て、チェコのプラハ動物園に届け出る義
務があり、そこで世界中のモウコノウマの戸籍管理から種の存
続の管理、バースコントロールまで行なっているのだそうです。
日本では多摩動物公園の他に、千葉県の千葉市動物公園、
静岡県の浜松市動物園の3か所に合わせて10頭程度しかおら
ず、なかなか目にする機会もない動物です。

屋根のないモウコノウマの囲いの中では、2頭の馬がとても穏
やかにゆっくりと草を食んで(はんで)いたり、のんびり歩き回っ
ているだけなので、いつも見るたびに和やかな気分になってい
たのですが、ところが、実はこのモウコノウマ、用心深いがため
にむしろ凶暴に振る舞うことがあり、動物園としては危険動物の
扱いなのだそうです。

いまや野生の個体はいなくなってしまったモウコノウマ。
しかし十数年前に、1頭の雄に対して雌を数頭といった一種の
ハーレムを組んで、“祖国”であるモンゴルの大地に放すという
プロジェクトが行なわれたそうです。
新聞でも取り上げられていたので、ご覧になった方もいらっしゃ
るでしょう。野生の狼や熊などの天敵がいたり、夏は摂氏40度、
冬は氷点下40度にもなるというモンゴルの大地。そんな過酷な
環境に、「与えられた餌しか食べたことのない」現在のモウコノ
ウマたちは順応して野生化していくのか? 壮大な実験が行わ
れました。
そして数年前、その時野生に帰したモウコノウマたちのその後
の増減を調べたところ、当初放したおよそ70頭に対して90頭以
上生息していることがわかったそうです。
野生のモウコノウマが復活したのです。

アメリカのムスタング、南フランスにカマルグ、そして日本の宮
崎県にミサキウマという野生の馬がいるそうですが、それらが
全ていったんは家畜や戦闘用として人間に仕えたものの、再び
人間の手を離れて野生化したのに対して、モウコノウマはその
用心深さゆえに家畜になることもなく、野生にもどっていった唯
一の、文字どおり“野生”の馬です。
これまでずっと“モウコノウマ”とカタカナ表記をしてきましたが、
漢字で書くならば“蒙古の馬”でなく、『蒙古野馬』と書きます。
つまり“蒙古の野の馬”ということです。
戦前の個体減少の理由は、祖国モンゴルでの放牧の拡大と
鉄砲の普及による食用のための過剰狩猟の結果だそうです。

見た目の穏やかさを眺めているだけでは、知るよしもなかった
事実と人々の努力。最近の動物園では、ボランティアの人たち
がこういった説明などをして、一時期は動物虐待施設などと言
われていたイメージの払拭と保護飼育の意義の告知をおこなっ
ています。
みなさんは最近、動物園に行かれましたか?
一度、どうですか? 動物園。


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