~ promise ~ <4>
日が暮れて練習も上がり、選手たちは合宿所に引き上げた。
日向も持ってきた荷物の中から楽な服を出して着替え、同じように着替えを済ませた若島津や反町と食堂に向かう。
「あー!腹へったあ~!・・日向さん、早くゴハン食べて、先に風呂に行っちゃおうね。俺、今日マッサージしとかないと足つりそう」
「そうだな。今日は随分と走らされたもんな。お前」
結局あの後も反町は走力を問われるポジションを三杉によって割り振られ、ひたすら走り続けた。
「あいつさー、ほんとサド。俺が走れてるとつまんなそうな顔するクセに、俺が『もう限界だ~!』って時に見るとさ、すんごい楽しそうなカオしてんだよね。
日向さん、大丈夫?あんなのと仲良くしてて、性格悪くなってない?」
今回の合宿場所は、グラウンドともども都内にある私立大学の施設を借りている。
建屋の中には調理室と食堂も備えれられ、この日はメニューこそ決まってはいたが、食欲をそそる美味しそうな匂いが外の廊下にまで漂っていた。
「あいつからのボールを受け損ないでもしたら、すんごい冷たい目で見るしさあ~。もー、そんなところから日向さんとの扱いが違うんですケド。
いや、そりゃあ日向さんはそんな凡ミスしないけどね!」
大盛りのキャベツの千切りのうえにカツレツが乗った皿をトレーに受け取りながら、今日一日どんな目にあったかを反町は日向に言い募る。
「お前が走れるから使うんだろ。使えないと思ったら、とっくに切っているぞ、三杉なら。今日はなるべく早く寝ろよ。」
「俺、今日はキーパー練習、殆どしていないですからね。面白かったから別にいいけど。」
若島津もミニゲームの最初の1回こそはGKを務めたが、後は三杉によってFWやらDFを割り振られた。
『GKの枠は一つだからね。GKも皆に経験させたいんだよ。だから、今日の君はこれからフィールドプレイヤーだよ』
三杉の言葉に、全員が唖然としたものだった。
ただ一人、当の若島津を除いては。
「だって健ちゃんは未だにFWやりたいんでしょ。ホント、諦めが悪いんだからさ」
「お前より上手いGKなんて、いないからな。・・・お前には悪いと思うけど」
日向が場所を考えもせずに爆弾を落とすので反町はヒヤリとするが、騒がしい食堂内で、幸い他の人間に聞かれることは無かった。
反町が若島津と知り合った時には、若島津は既にこの年代としては、全国でも№1と呼ばれるGKだった。
ただ一人、若島津と並べて比較される日本人GKとしてはハンブルガーSVの若林がいるが、プロとしてブンデスリーガでプレイしている若林に比べれば、現時点ではどうしても経験値では若島津の方が劣る。
それでも若島津はGKとしてまだ伸びている途中であり、日向のみならず東邦のメンバーは全員、一年生の若き守護神に全幅の信頼を置いていた。
そんな若島津がサッカーを始めた時にはFWだったと聞いて反町は驚いたものだったが、それから2~3年経って、若島津から「そろそろGKから転向してもいいか」と日向に申し出があり、騒動になったことがある。
「無理強いはできないけど、後ろを守ってくれるのはお前しかいない」という日向に対して、結局は若島津が折れた形となった。
反町としても複雑ではあったがホっとしたところもあった。
日向と若島津の二人とポジション争いをするなんて、考えたくもないことだったから。
「・・・まあ、そのうちね。それより三杉、遅いんじゃないですか?あいつ、何か言っていなかった?日向さん」
「いや、別に聞いていない。・・・本当だな。早く来ないと片付けられちまうのにな」
夕食の後は少し時間を置いて、食堂が打ち上げの場となる予定だった。
片付けと準備が必要なので、早く食べるようにと言われているのに、未だ三杉が姿を見せていない。
「コーチたちと何か話?・・・って、コーチもあっちでゴハン食べているもんね」
「俺、ちょっと見に行ってきましょうか?日向さんは食べてていいよ」
立ち上がろうとする若島津を制して、日向は
「いいよ、俺が見てくるから。お前たちは食べてろ」
とさっさと席を立って食堂を出て行った。
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