~ 溶けて消えてる場合じゃない! ~2
日向さんは特別待遇だから、寮の部屋もやっぱり特別だ。3階の角部屋で広くて、しかも一人でそこを使っている。
そのことを誰も不公平だと訴えたりはしない。俺たちは生まれながらに、人が不平等にあることを知っている。
主について部屋に入った俺は、中を見回した。
日向さんらしく余計な物がなくてスッキリとした部屋。学校で使うものはきちんと整理棚に片づけられている。服もちゃんとしまってあって、脱ぎっぱなしになっているものなんか無かった。
「・・・で、一体どうしたの?一週間も休んで、心配した・・」
俺が話しかけているのに、日向さんは何を考えたか徐に服を脱ぎ始めた。日に焼けた筋肉質の上半身が露わになり、思わず目を奪われる。この人の裸体なんて、それこそこの寮生活で見慣れている筈なのに、妙に艶めかしく映った。
馬鹿みたいに口を半開きにして見入っている俺に、日向さんは「お前も早く脱げ。脱いだらベッドに行け」と命じる。
「え?何で?」
「早くしろよ。時間が勿体ねえから」
「ちょっ、ちょっと待って・・・っ」
日向さんの言っていることが理解できない。何で俺が裸になってベッドに行かなきゃいけないの!?しかも、日向さんのこの部屋で!?
状況を理解できずに固まる俺に、日向さんは舌打ちをした。酷い、と抗議する間もなく日向さんは近寄ってきて俺の服を脱がしにかかる。俺の抵抗なんかものともしない。日向さんは力強くて躊躇いがなくて、しかも手早かった。一体どこでこんなの練習したんだよ、この人。
「ちょっと、何すんのっ・・!」
「いいから脱げっつってんだろ。俺がそうしろって言ったら、やれよ!」
出た!さすが俺様!言うことを聞こうとしない俺に早くもキレかかっている!
だけど、いくら日向さんが相手だって、そう簡単に裸にひんむかれる訳にはいかない!・・・と思って足掻いたけれど、やっぱり力ではスーパーαのこの人には敵わないんだよね。間もなく俺はパンツ一枚の姿になってベッドに転がされた。
「ま、待って待って!待ってぇ!ま、まさか俺、襲われる・・って訳じゃないよね!?αの俺が、αの日向さんにヤられちゃう、訳じゃないよね!?」
ベッドの中央で両腕を抑えつけられて伸し掛かられて、今更こんな質問を投げかけている俺って、はっきり言って間抜けだと思う。
だけど、襲われかかっているのは分かるけれど、どうしてこうなっているのかは分からないし。だって、俺αだし!
俺がパニくりながらも暫しのタイムを乞うと、日向さんはアーモンド型の猫のような目をパチクリとさせて、それからとっても悪そうな顔をして笑ったんだ。
俺を見降ろして、獲物を前にした肉食獣のようにゆっくりと舌を閃かせて、唇を舐めながら。
「ああ、お前は襲われてんだよ。・・・・αのお前が、Ωの俺にな」
「ひゃ・・・!あ、も・・もう駄目、駄目だってばあ・・・っ」
「何が駄目、だよ。ここ、こんなにしておいてよ」
日向さんがあの悪い笑みを浮かべて、俺の足の間を弄る。
そりゃあ男だもの。そんなところ直に触られたら反応するに決まっている。それにこの人の出すフェロモンに、俺はすっかりやられている。頭は靄がかかったみたいで鈍くなっているし、そのくせ下半身は今すぐΩの子の中に潜り込みたくて、やる気満々だ。
Ωの子。
日向さんがΩだなんて、こうして襲われている今でも信じられない。だけどΩからしか匂わない筈のフェロモンが、確かにこの人の身体から香ってくる。
「俺は、αからΩに変化したんだってよ」と忌々し気に秘密を明かした日向さんは、何のことだか分からずにポカンとするだけの俺に向かって片頬を歪めた。「信じられないって顔だな」と言って薄く笑って。
それから俺をグイ、と引き寄せてその首筋の匂いを嗅がせたんだ。それはこの部屋に入ってきた時から感じていた、Ωのフェロモンの香りに違いなかった。誰かから移されたんだろうと思っていた。きっと一緒にいたΩの子から、その香りが移ったんだろうって。そう思っていたのに。
「薬で抑えているから弱いだろうけどよ・・・・。さすがにこうしたら分かるだろ?」と、俺を抱きよせたまま日向さんは低い声で囁いた。何がどうしてとか、どんな理屈でとか、色々な疑問が沸き起こったけれど、それでも日向さんから匂いたつその香りが、Ωのフェロモンであるのは疑う余地も無かった。何故なら俺自身がそれを証明していたから。
日向さんのフェロモンに引きずられて、αである俺の身体も変化していた。男ならではの、とても分かり易い現象だ。
頭では「そんなバカな。有り得ない」って思っているのに、俺の身体の中心では雄の欲望がしっかりとその存在を主張していた。
日向さんは慣れた手つきで俺を追い上げていく。さっきから短い悲鳴を上げているのは俺の方だ。日向さんだって欲に濡れたエロい目をしているけど、でもまだ余裕がありそう。
「な、なんで俺なんだよう・・・」
もう、ほんとに何が何だか分かんない。なんで俺がこんな目に合わされているのか。
日向さんは好きだけど。大好きだし、尊敬もしているけれど!
だけどこんなの、急にこんな展開になっても困る。
この人は俺にとってαの頂点にいるみたいな人なんだし、そんな人とセックスだなんて・・・・!
日向さんがΩだって俺の身体は納得していても、頭はやっぱりついていかない。他のΩの子を相手にするようにはいかない。
「Ωは発情期になったら、αがいないとやってけねえんだよ。・・・お前だって知ってんだろ」
「知ってるよ!知ってるけど・・・!」
「悪いようにはしねえから・・・思ってるよりイイかもしれねえだろ」
「違っ、そういう問題じゃ・・・やっ、ちょっと待っ・・駄目だって!だめ・・・ッ、や、ああ!」
日向さんが俺の上に跨って腰を沈めてくる。きつ・・・っ!
圧迫感がものすごい。だけど日向さんが濡れてるから、ゆっくりと、だけど確実に入っていく。
有り得ない。俺、日向さんの中にいる そう自覚すると、それだけで俺の熱も一層高まる。熱くて狭い日向さんの中に、ますます深く呑みこまれていく。
「ああっ、や・・、ぅんッ、あ、イイ・・・すごいイイ、やだ、どうしよう、どうしよう!」
「どうしようって、何だよ」
日向さんが俺の上でうっそりと笑う気配がする。でも刺激が強すぎて目が開けられない。ほんとにどうしよう。こんなすごいの、初めてだ。腰から下が、今にもグズグズに溶けちゃいそう。
このまんま日向さんの中にずっと留まっていたい・・・だけど動きたい。でもそうしたらきっとすぐにイッちゃう。どうしたらいいの。日向さんの中は隙間なく俺をぴっちりと包み込んで、うねるように締めつけてくる。ほんと最高。
「・・・んんッ!」
「あっ、日向さんっ、日向さんっ、ごめ、ごめん、俺っ!」
我慢できずに、つい腰を突きあげてしまう。だけど途端に日向さんが声を詰まらせて眉根を寄せたから、痛くしたのかと焦る。
「・・・馬鹿、急に動くなよ・・。まだちょっと慣れてねえから・・・仕方ねえだろ。入れんのは初めてなんだからよ」
しょ・・・しょじょ・・・!
処女ってことを、言っているんですよね!?そうですよね!?そりゃあそうだよね・・・!
怒ったような顔をして俺を睨む日向さんは、いつもの迫力は無くて・・・というか、首筋が真っ赤。もしかして照れてんの!?何、その可愛さ!処女とか自分で言って照れちゃうとか・・・!
「・・・かわいい」
「・・・あ?なに、言って・・・」
「日向さん、可愛い、すげえ可愛い!初めてだから優しくしてとか、そんなん反則・・・!」
「ちょっと待っ・・そ、反町!」
ンなこと言ってねえし・・!って日向さんの声が聞こえてきたような気もしたけれど、もうそんなの関係ない。こうなったら何と言われようと、止まれない。目の前の信号が赤だろうが、ヒートのΩの子がそこにいるんだからフルスロットルで行くしかない。
だってαはそういうものなんだから。Ωの子のフェロモンに、逆らえる筈が無いんだから。
俺の上で焦った表情を見せる日向さんは、普通のΩの子とは全く違って大きくてガッシリしていて筋肉質だけど、でも今まで見たどのΩの子よりも可愛かった。
赤い顔を隠そうとするその手を引いて抱き寄せる。そのままクルリと体勢を入れ替えると、瞳を揺らして戸惑ったように見上げてくる日向さんの足を、俺は勢いよく肩に抱え上げた。
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