※R-18、背後要注意です。
~ 溶けて消えて、このカラダごと。 ~ 11
寝室に入ると灯りをつけないまま、反町は俺をさっきまで寝ていたベッドの上にゆっくりと横たえた。
「・・・んっ」
背中がシーツに擦れる感触にさえ感じてしまう。俺の身体はどうにかなってしまったのか。どんな刺激であっても快楽と捉えてしまうらしかった。
反町は俺の服を全て脱がせると、自分は着衣のままで重なってくる。あらわにされた肌に直に男の重みと質感を感じて、俺の身体は恐れと期待に慄いた。
耳の下のくぼみ、首筋から鎖骨にかけて唇が落とされ、柔らかな舌で撫で上げられる。同時に胸と腹、腰に手を這わされてそっと擽るように触れられれば、声を上げて身を捩り、快感を逃がすしか無かった。
気持ちいい。
他人に吸われるのも舐められるのも初めてだというのに、嫌悪感なんてちっともなくて、ただ気持ちがいいだけだった。
もっと、もっと触って欲しい。
「あ!あ!・・・んっ、や、だ、やめ・・ッ」
αの男の手は傲慢に、そして優しく俺を嬲る。触れてくる箇所が熱くなって、その熱が導火線を辿るように次から次へと俺の体に火をつけていく。
「はっ、・・んぁ、ああっ!・・・あっ、あっ、ん、ふ・・・やあああっ!」
反町の指が足の間を弄ってくる。すっかり勃ち上がったものをゆっくりと丁寧に扱かれ、俺は背を撓めて歓喜に震えた。
もっと。もっとシて。もっとほしい。もっとちょうだい。
手を伸ばして反町の首を引き寄せる。クスリと笑う気配がして、唇を舌先でなぞられた。それだってすごく気持ちがいいけれど、でも俺が欲しいのはそんなのじゃなかった。自分からぶつけるようにキスをして、反町の口を開けさせる。すぐに侵入させた舌で、俺は思うさまその咥内を探った。
アマイ。オイシイ。
αの男はどこもかしこも甘い味がした。今この時だけは、俺の方こそが捕食者だった。性交というよりは摂食に近い交わり。まるで赤ん坊が母親の乳を吸うように、俺は夢中になって反町の舌を吸った。もっと欲しくて、もっと深く交わるように顔の角度を変えながら、俺は与えられる甘露を味わう。口の周りをベタベタにして、この男が好きなのかどうかということも考えずに、ただ注がれる体液を飲みこんだ。
αの体液がこんなに甘いだなんて、知らなかった。貪欲に取り込もうと、はあはあと獣のように息を荒げながら挑むように口付ける。やがて俺の唾液と反町のが混ざり合って溢れ、口の端から零れ落ちた。自分だけでは飲み切れず、無意識のうちにそれを唇を共有している男に送ろうとすると、ふいに顔を離された。
俺は夢中で遊んでいた玩具を取り上げられた子供のようにむずかった。
どうして、やだ。どうして。
「駄目。俺からあげるだけ。俺にはくれないで。・・・じゃないと、我慢できなくなるから」
俺ね、今、これでもすっごく頑張ってんの。もうやべーの。
反町からそんな言葉が聞こえてきたが、意味が分からず、いやだいやだとかぶりを振る。
がまんってなに。がまんしない。がまんできない。ほしい。もっとほしい。
「うん。日向さんは我慢しなくていいよ。あげるのはいっぱいあげる。いくらでも、欲しいだけ。・・・大丈夫。楽になるからね」
我慢しなくていい、といわれたことが嬉しくて、俺はもう一度反町の首に抱き付いて、その唇を塞いだ。今度は反町は俺を引き離そうとはせずに、柔らかく抱きしめて深く口付けてくれた。
それから散々泣いたような気がするが、俺の意識は途中から無くなり、目覚めた後に思い出そうとしても、やはり記憶はその辺りを最後に途切れていた 。
ふわりと浮上するように目が覚める。
最初はいつもの朝、普段の朝と変わりない日常だと思った。だけどすぐに思い出した。その前の夜に何をしたかを。
俺が横たわっているのは自分の家のベッドで、昨夜反町が連れてきたのもこの上だった。だけどシーツはサラリとして清潔で、おそらく俺が寝ている間に替えてくれたに違いなかった。
俺は自分の身体がどうなっているのかを確認した。
特に痛むところも、おかしなところも無かった。違和感といえばいつものヒートによる疼きがそれほど感じられないことだった。
薬は昨日から飲んでいない。だとすれば目覚めたばかりだということを差し引いても、こんなに落ち着いた状態である筈は無かった。なるほど、これがαと寝るということなのかと、腑に落ちる。身体が楽だった。だるさも感じないし、頭痛も無い。多少はまだ身体の内部が熱いような気がするだけだ。
昨夜の自分の姿は振り返りたくもないが、薬を飲まなくてもこの程度で済むのかと、αと寝るという行為のもつ意味に認識を新たにした。番や恋人のいるΩは、それなりに生きやすい世の中らしい。
その一方で、激しく後悔もしていた。
付き合いの古い友人を巻き込んでしまった。いつか誰かに知られて迷惑をかけたり、傷つけたり糾弾されたり、といったことはあるかもしれないと覚悟していた。だけどその誰かと体を重ねることになるなんて、想像していなかった。
反町のことは中等部の一年の時から知っている。お互いに小学生に毛が生えたくらいの子供で、反町は俺よりも小さくて、まだ子供っぽさの抜けない顔があどけなくて可愛らしかった。性格は今と変わらず人懐っこくて開けっ広げで、おかげで人見知りなところのある俺でさえ初対面で親しくなったくらいだ。
そんな頃から知り合いの反町とセックスをしたのだと思うと、羞恥やら後悔やら申し訳なさやら、いろんな感情が一遍に襲ってくる。できうるなら無かったことにしたかった。反町だって多分、同じことを考えるだろう。
反町は気の置けない友人だ。それ以上でも以下でもない。高等部3年のあの日がくるまでは、俺たちは寮も一緒、学校も一緒、部活も一緒で、必然的に近くにいた。反町だけが、という訳ではなく、サッカー部の連中みんながそんな感じで上手くやっていたし、たまに衝突もして、αもβも関係なくくだらないことで騒いだりもした。
俺さえもう少し気を付けていれば、こんな事態になるのを避けられた筈だ。警戒しているようで、どこかで油断していた。昨日大学から戻るとき、頑として送って貰うのを断れば良かったのだ。頑固な男を相手に「帰れ」「帰らない」の押し問答が面倒だ、と思った結果がこれだ。
反町にはどうしようもなかった。αは自分を律することに長けているが、そんなαでも抗えないのが、ヒートにあるΩの発するフェロモンなのだから。
・・・あいつ、今、どうしてる? どう思っているんだろう・・・?
目が覚めた時にはここにいなかった。どう顔を合わせたらいいか分からないのだし、いないでくれて良かったと心底思うが、ただその男が今頃どう感じているのか、何を考えながらこの部屋を出ていったのか、それはどうしたって気にならない訳が無かった。
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