~ I'm all yours ~4
それから暫くして、日向の家の人たちは引っ越しをした。
お父さんがいなくなって生活が厳しくなって、前の大きなおうちに居られなくなったからだ。
小次郎も「あるばいと」をするようになって、あまり家にいる時間が無くなった。僕は彼の体のことも心配した。
だけど新しい環境 新しい学校や保育園に慣れるにつれて、子供たちは段々と元気になってきた。そうするとお母さんも前みたいにしょっちゅうは泣かなくなった。
小次郎には新しい友達ができたみたいだった。それが「わかしまづ」だ。
「わかしまづ」は小次郎が好きなサッカーを一緒にやっていた。小次郎が「わかしまづ」のことを褒めるのを、僕は何度も聞いた。
「すっげえ、反射神経がいいんだぜ。ちょっとキーパーやらせてみたら、どこにシュートしても取っちまうんだ」
「サッカー、一緒にやってみないかって誘ったんだけど、キーパーじゃなくてフォワードがいいって言うんだ。でも俺はキーパーが欲しいんだよ。だって今のチームの何が弱いって、キーパーがどうしようもないんだ」
「やっとキーパーやってくれるって言ったと思ったら、空手の稽古のないときだけ、だって。ちぇー。あいつ、ちゃんとやればきっと誰よりも強いキーパーになれるんだけどな」
いつからか、小次郎の話は「わかしまづ」のことばかりになっていた。僕は小次郎が元気になってホっとしたけれど、でも少し寂しさも感じていた。
その頃から、チェリーが僕に突っかかってくるようになったと思う。
「結局お前は、何の役にも立たなかったんだ。小次郎は人間の友達がいればいいんだからな」
「確かに僕は役に立たなかったかもしれないけれど、小次郎に仲のいい人間の友達ができたのはいいことだよ。僕は小次郎のために、これでよかったと思っているよ」
だって大きくなったあの子に必要なのはもうぬいぐるみなんかじゃなくて、一緒に笑ったり喧嘩したりできるような友人なのだから。
日向の家に来てから7年が過ぎていた。小次郎が成長したように、僕にも少しは人間社会のことが分かるようになっていた。
「お前のそういうところ、虫唾が走るな。俺たちは人間に可愛がって貰ってなんぼだろーが。飽きられたらゴミになるんだぞ」
「人間の一生だって限りあるんだよ。形あるものはいつか終わるんだ。それは僕らだって同じだし、あるとすれば長いか短いかの違いだけなんだ。永遠じゃないんだよ」
その頃、小次郎は夜には僕と一緒に寝ていたけれど、昼間は相手をしてくれることが無くなっていた。僕はいつしか、自分の「終わりの日」を考えるようになっていた。
いつかは来るだろう、その日。それは小次郎が大人になって、僕のことを長いこと忘れていた後にやってくるのかもしれないし、たとえば大掃除をした日などに突然くるのかもしれなかった。
「その日」がいつ来てもいいように、覚悟だけはしておかなくちゃな・・・って僕は思っていた。
back top next