~ I'm all yours ~5
小次郎にはサッカーの才能があったようで、小学6年生の時には小次郎の入っているチームが大きな大会で準優勝した。日本で二番目に強いチームになったのだ。その時に、小次郎は東邦学園に誘われたらしい。
僕がそのことを小次郎から聞いたのは、夏の終わりのある日、外では蝉の声がわんわんと響いていた蒸し暑い日だった。
「俺さ。中学は明和東じゃなくて、東邦学園に進むんだ。寮があるから、この家を出ることになる。・・・サッカーを思う存分できるのは嬉しいけれど、母ちゃんや尊たちと離れるのは少し寂しいな」
小次郎がこの家からいなくなる。それはとりも直さず、僕がこの家に必要じゃなくなる、ということだった。僕はショックを受けていた。
それでも。
(お父さんがいなくても、お金が無くても、もうアルバイトしなくて大丈夫なんだよね?大好きなサッカーを沢山できるんだよね?良かったね、小次郎)
僕はやっぱり嬉しかった。小次郎が家のためにどれだけ無理を重ねていたか、僕は知っていた。だから小次郎がいなくなって僕自身がこの先どうなるんだろう・・・、という不安は確かにあったけれど、それでも僕は小次郎が家のことを心配せずにすんで、自分の夢に向かって走り出したことを本当に嬉しく思ったんだ。
誰にも教えはしなかったけれど、小次郎が家を出ていく、ということはいつの間にか他の人形たち 仲間たちにも知られていた。
大半は僕に同情の視線を向けてきた。「お前なんか、置いていかれるに決まっている」なんて意地の悪いことを言うのは、小さな白うさぎ、チェリーだけだった。
彼らの間で、僕はすっかり「置いて行かれて、忘れ去られる子」になっていた。僕は構わなかった。
僕は小次郎のぬいぐるみであって、兄であって、友達だ。ぬいぐるみは子供が大きくなるまでを見守るのが役目だ。兄は弟が旅立とうとしているなら、それを邪魔しちゃいけないんだ。友達は、悲しんでもいいけれど、最後には笑って見送らなくちゃいけないんだ。
だから僕は大丈夫だよ、ってみんなに笑った。
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