~ I'm all yours ~3
ライオンはとっても強いんだよ、って教えてくれたのはお父さんだ。
「百獣の王っていうくらいだからね。オスは何頭ものメスや子供たちを統率して、群れを作る。その群れに害なす敵がいれば、果敢に立ち向かって決して臆したりしないんだ。誇り高くて、勇猛な動物なんだよ」
「そうなの?」
(そうなの? お父さん)
僕には本物のライオンのことはよく分からなかった。
「小次郎は8月17日生まれだから、しし座だろう? 獅子、っていうのはライオンのことだ。だから小次郎は、ライオンみたいに勇敢で優しい子にならないとな」
「ライオンは優しいの?」
「ライオンは食べるために他の動物を殺すけれど、意味なく襲ったりしないよ。それにね。人間だって、本当に強い人しか優しい人になれないんだよ」
覚えておきなさい・・・ってお父さんは言った。お父さんはとっても優しい人だ。お母さんみたいに子供たちをガミガミ怒ったりしないし、怒った時だってちゃんと子供たちの言い分を聞いてあげている。
だから僕は、お父さんは強い人なんだな、って思った。きっと小次郎もそう思った筈だ。嬉しそうにお父さんを見ていたんだから。
その強いお父さんが亡くなったのは、小次郎が小学4年生のときだった。小次郎だってまだまだ小さな子供だった。尊や直子はもっと小さかったし、勝なんて赤ちゃんだった。
あの頃は、日向家のみんながこれ以上ないってくらいに、辛くて悲しい思いをした時期だった。
お母さんは子供たちの前では泣かなかった。だけど夜中、台所からお母さんの泣き声が毎日のように聞こえてきた。子供たちには聞こえないくらいの微かな声だったけれど、僕の耳には届いた。僕はお母さんのために何かしてあげたかったけれど、何もしてあげられなかった。
小次郎も家族の前では泣かなかった。小次郎が泣くのは決まって夜、布団に入ってからだった。頭から毛布をかぶって、僕にしがみついて声を殺して泣いていた。
あの時ほど、僕は自分が人間であればいいのに・・・・って思ったことはなかった。
人間じゃなくても、犬や猫でも良かった。生きて動いているものなら、何でも良かった。
そうすれば彼の涙も鼻水も舐めて、綺麗にしてあげることができたのに。僕がいるよ、泣かないで、って慰めてあげることが出来たのに。
僕は小次郎の涙に濡れながら、この家のみんなのことを想った。お父さんを失って、家全体が夜の底に沈んだみたいになって、僕はもうみんなが笑える日なんて二度と来ないんじゃないか・・・って思った。
夜になって弟たちが寝静まると、小次郎は静かに僕の前で泣き続けた。時折しゃくり上げて、それでも声を出そうとはせずに、誰にも知られないように静かに涙を零した。
長男の小次郎が泣いていることを家族が知ったら、この家は本当に浮上できなくなってしまう。そんなことが、幼いあの子にも分かっていたんだと思う。
小次郎はお父さんの言っていたとおりの、誇り高くて強い、しし座の子供だった。
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