~ I'm all yours ~2




そんな夏のある日に、あの親子は現れた。

その親子連れは大勢の人の中にあっても、よく目立っていた。かっこよくて優しそうなお父さんと、そのお父さんに手を引かれた、いかにも元気いっぱいでやんちゃそうな小さな男の子。その子はきりっとした吊り気味の目をいっぱいに見開いて、きょろきょろとお店の中を見回していた。外が暑かったのか、それとも僕たちを目の前にして興奮したせいか、顔が赤く火照っていて、とっても可愛かった。

僕は一目で彼らを好きになった。一目ぼれってやつだ。




お父さんは僕が並んでいる棚の前にその子を連れてきて、「どれがいい?」と聞いた。

僕の胸はドキン!と鳴った。


(僕を選んでくれないかな、僕を連れて帰ってくれないかな。 僕はその子のいいパートナーになれると思うんだよ        。)


動けないけれども、一所懸命にお父さんとその子にアピールしたつもりだった。

「一番強い動物がいい」
「じゃあ、ライオンだ。動物の王様だからね」

お父さんはそう言うと、棚から僕を抱き上げてくれた。僕の心臓はこれ以上ないくらいに高く鳴った。

ドクンドクンドクンドクン        !

この心臓の音が人間には聞こえないだなんて、信じられなかった。


(どうか、どうかお願い。僕をこのまま、連れて帰って。君だけのライオンにして。)


お父さんに渡された僕を抱っこして、じっと見つめてくる子供        小次郎に僕は訴えた。
小次郎は僕を間近で見ると、目をキラキラとさせた。それから僕の前足の裏を見て、「うわあ」と声を上げてプニプニと揉んできた。
僕はくすぐったくて、笑うのを我慢するのに必死だった。


(ね?僕たちはきっと上手くいくよ。だって初めて会ったのに、僕はもうこんなに君のことが好きなんだもの      )


そう話しかけると、小次郎が「父ちゃん、俺、これがいい!このぬいぐるみがいい!」とお父さんに言ってくれた。
そして僕をギュウって抱きしめる。小次郎からは、ミルクのような、バニラのような甘い匂いがした。
僕は幸せだった。子供に抱かれることが、眩暈がするほどに幸福な気持ちになることだなんて、僕は初めて知った。

「まだお金払ってないよ、小次郎。まだお店のものだよ」

お父さんはそう言って小次郎をたしなめたけれど、その顔は優しく微笑んでいた。
それから僕たちをレジに連れていって、僕を日向のおうちの子にしてくれた。







小次郎はとても賢くて可愛い子供だった。

僕に乱暴することもないし、それどころかすごく可愛がって大事にしてくれて、夜はいつも隣で寝かせてくれた。

僕たちはいつも一緒だった。お父さんの車に乗ってどこかに行くときも、お母さんが赤ちゃんを産んで病院に会いにいくときでも、僕が一緒に行けるところならどこだって小次郎は連れていってくれた。たまにお母さんに言われて仕方なく僕を置いていくことはあったけれど、でも進んで僕を残していくことは決してなかった。

僕は小次郎が大好きだったし、同じくらいに小次郎も僕を好きでいてくれたと思う。
彼に嬉しいことがあれば僕も一緒になって喜んだし、彼が悲しかったり悔しかったりして泣くときには、僕の体で涙を拭くのが当たり前だった。


僕はかつて望んだとおり、小次郎だけのライオンになった。






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