~ 君は光 ~2
「おい。何をしている」
「んー?・・・甘えてる」
深夜になって、何かしらの気配に目が覚めた日向は、胸元にすり寄ってくる温かい存在に気が付いて一気に覚醒した。
大地だった。
大地には空いていた部屋を寝る場所として与えたし、『おやすみなさい』と挨拶してからはその部屋のベッドに大人しく入った筈だった。
なのにその少年は今、何故か日向の部屋に入り込み、ベッドの中にまで潜り込んできている。
そしてあろうことか、日向よりも小さな手で、ある種の意図を持って日向の肌をまさぐっていた。
「甘えてる、じゃないだろう。一体何やってんだ、お前は」
「だって日向さん。いつまで経っても俺のことを子供扱いして、ちゃんと男として見てくれないでしょう?だから、実力行使」
日向はハア、とため息をついた。
「無駄に色気づきやがって。実際にお前はまだ子供だろう。幾つになったっていうんだ」
「15歳。15は子供?」
「子供だ」
「兄貴は15でブラジルに渡ったし、日向さんなんて小学生で働いてたよ?」
「なんでお前がそんなこと知ってんだ・・・」
日向が呆れたように呟くと、大地はニッと笑って再び日向の胸元に手を這わせ、鎖骨のくぼみに唇を落とした。
「ちょっと待てって・・・!お前、俺の年もちゃんと分かってるんだよな!?」
「当然でしょー?日向さんと兄貴は同い年なんだから」
「そうだ。ちなみに俺は昔、静岡のお前の家にお邪魔したとき、お前のオムツを替えたこともあるんだからな」
あれは岬に会いに行ったついでだったか。
岬に誘われて、まだ赤ん坊だった大地を見せて貰いに行った。その時にミルクを飲ませたりオムツを替えたりして、『さすが手慣れてるよね』などと岬に感心されたのを覚えている。
日向にとって大地は、自分の末の弟、勝よりも更に7つも年下の子供だった。
大地は一旦身を起こし、日向を正面から見つめた。パチパチと瞬きを2~3回繰り返す。
さすがに『オムツ』は効き目があったかと日向がホッとしたところで、大地が感じ入ったように呟いた。
「・・・日向さんって、ほんと可愛いよね。そんなのが牽制になるって、本気で思っているんだ?」
「あ?」
「そんなの、俺が気にする訳ないでしょう?誰にだって赤ちゃんの頃はあるんだし、恥かしくも何ともないよ。・・・そうじゃなくて、その時の恩を忘れるなっていうなら、それは任せて。いつか、日向さんのオムツを今度は俺が替えてあげるからね」
「何の話だよ!?」
「日向さんが年を取っておじいちゃんになったら、俺が介護してあげるってこと」
「あのなあ・・・」
日向はもはや、何を言ったところで口では勝てないような気がしてきた。相手はほんの子供だというのに。
(この飄々としたところは、たぶん血筋なんだよな・・・)
「もういい?話はおしまい?」
「・・・・いや、おしまいっつーか・・」
「じゃあ、遠慮なく。・・・いただきます!」
ガバリと日向に覆い被さってくる大地に、日向は「俺は犯罪者になるつもりはないからな。ぜってーに最後まではやらないぞ」と力なく抗うのが精いっぱいだった。
「・・・・ん・ぅ」
「日向さん、気持ちいい?」
ちゅくちゅくと音を立てて、大地が日向の肌を啄んでいく。首筋の弱いところも、胸の小さな飾りも、臍のくぼんだところまで。
手も舌も拙い動きではあったけれども、それを補うほどの熱心さで大地は日向の身体を暴きにかかっていた。
「ねえ。気持ちいいなら、ちゃんと言ってよ。そうしたら、俺、その場所を覚えるから」
「ばかやろ・・・っ、調子に、乗んな・・っ」
日向は声を上げるのを耐えていた。気を抜くと、こんな子供相手だというのに『もっと』と強請ってしまいそうだった。
「・・・お前、こんなオッサン相手に、よくその気になるよな・・・っ。・・・ンッ!」
「日向さんはオッサンじゃないよ。だってオヤジだったらこんなに可愛くもないし、こんなにいい匂いもしないでしょ?」
「知るか・・・!・・は・・、んふ・・っ」
耳孔に舌を差し込まれて、途端に背筋を走る甘い刺激に日向は身体を震わせた。
日向がこれまで付き合ってきた中には男も女もいたが、最後に他人と肌を合わせたのは、既に1年以上も前のことだ。人肌に飢えていた身体は、自分が思うよりも快楽に正直だった。
「可愛い・・・日向さん、キレイ。すごく、キレイ」
「・・・だいちッ・・、あッ!」
胸元を強く吸われ、キスマークを残されたのだと分かった。
大地が膝立ちになって日向を見降ろす。その顔は幼いながらも、獲物に施したマーキングがちゃんと現れていることに満足した、雄の肉食獣の顔だった。
(馬鹿が・・・っ!何で、お前みたいに将来のある奴が、何をトチ狂って俺なんか・・・っ!)
日向には理解できなかった。
おそらく大地なら、これから幾らでも美しい異性と関わりをもち、その中から自分に合うただ一人の女性を選ぶことが出来るだろう。
なのに、何故男の、しかも遥かに年上の男などに入れ込むのか。日向にはその理由が分からない。
(この、馬鹿が !)
日向は胸のうちで、自分に乗り上げている少年を罵った。
back top next