AT-20シングルアンプ



はじめの試行錯誤

Cossor

どこかで見たシャーシーと言わないで下さい。ヨーロッパの古典送信管であるCossor AT-20を使って、シングルアンプを作ってみようと思い立ったのです。VT-62シングルアンプのソケットをUFに変更して、まずは鳴らしてデータを取るつもりです。上手くいったら勿論、ちゃんとしたシャーシーを作ってやります。使っている球はECC-32, AT-20, GZ-37とヨーロッパ管でまとめてみました。

回路定数を全く変更しないで(フィラメント電圧を6Vにするために直列に1Ω入れたのと、出力トランスはタップをずらして7kΩにしたのは別にして)、動作させてみました。すると、VT-62とほぼ同じ30mAのプレート電流でバイアスは-40Vとなりました。増幅率はVT-62よりはやはり大きくてボリュームは絞り気味となりました。簡単に測っただけですが、出力は同じく3W,周波数特性は方形波の応答を見る限りでは変化はありません。音質は、今の段階では悪くないといったところです。           (2000.1.31)

   
2000年2月20日に3W以下アンプ検討会と称して自作アンプを持ち寄る会がありました。なんと19台ものアンプが集まり、大盛会だったのですが、そこにこれを持ち込んだのです。かなり、いけてるとの感触を得て喜んで帰ってきたのですが、筐体はAT-20には仮住まい。VT-62に返さなければなりません。そこで、AT-20には新しいのを作ってやることにしました。これもまたいつになるかは????です        (2000.2.25)

Mazda

6月に入ってからMazdaのAT-20が手にはいるかもしれないとの話がエイフルさんから
入って、とても楽しみにしていましたが、ついにこの話が実現し長い間探していた球を手に入れることができました。さっそく上の写真にある仮住まいアンプにこのMazda AT-20をさして、一人での試聴会を催しました。わずかな時間ではありますが、Cossor AT-20より潤いがあるとの印象を受けました。Mazdaはしっとり、Cossorはさっぱり と言ったところでしょうか。



本格的にアンプの概要を考える

いよいよAT-20シングルアンプの実現に向けてアンプの概要を考えてみました。出力トランスには3A/109B PPアンプで納得の音を聞かせてくれたマグネクエストを使うことにします。 マグネクエスト(MQ)の製品にはそう選択の幅が在る訳ではなく、ここでは一次側インピーダンスが5kΩで40mAまでの電流が流せるDS-050となります。AT-20はトランスドライブとし、インターステージトランスには最近よく名前を聞くスエーデンのLundahl社のLL-1660を使うことにします。ドライブの球は無難に6SN7GTY(STC)、整流管にはGZ-32を起用し、なるべくヨーロッパ系のパーツを使うことにします。AT-20はデザインの観点から天板から若干沈め、さらにインターステージトランスもケースが無いことからシャーシー内部に取り付けることとします。その為、大きさは400x200mmと小柄なのにも拘わらず、深さは63mmと厚みのあるものが必要となります。AT-20の動作はVpk=470V, Ip=35mA, Pd=16.5W でいくことにします。この条件なら出力は4~5W程度を期待できるでしょう。まずは、今まで不満だったUFソケットを自作しました。  (2000.6.26)

シャーシー

シャーシーをメイリングリストTubeML2のメンバーでもある中江塗工所にお願いしました。4000x200x62mm3という大きさの2mm厚アルミの生地仕上げのものです。塗装も楽しみの一部ですから、意地でもこれを中江さん(中江塗工所)にお願いはできません。  下塗り塗料を塗ってからマーキングし穴開け作業が一段落したところです。次の画像を見て
頂ければ部品の配置が良く分かるのでしょう。勿論真ん中にAT-20がきて、一番目立つようにしました。                            (2000.9.4)


穴開け完了(電流計を除く)             ダークグリーンマイカ+クリア塗装

見栄えを重視してしまうので塗装には可成りの時間が掛かってしまいました。手順は

(1) ブライマー(下塗り塗料)を2回塗り、#600のペーパーで軽く研磨して平らにする。
(2)自動車用ダーク グリーンマイカのスプレー塗料を3回塗る。各塗りの間に#1000の
 ペーパーで表面が全体的に白っぽくなるまで研磨。最後の塗りの後は軽くこする程度に
して、後から一番細かいコンパウンドで表面を光らせる。            
(3) 模型用のアクリルのクリアスプレー塗料(自動車用のクリアスプレー塗料は不可)を
 3回塗る。各塗りの間に#1000のペーパーで軽く研磨。最後に一番細かいコンパウンド
で表面を光らせる。

のようにしています。専門家から見れば、問題点があるかもしれませんが、これで一応の 
仕上がりが得られますので、参考になれば、、、。一番大事なのは各塗りの間を十分に開け
て塗料を乾かすことと、小さな失敗であわてない(余計に汚くなる)ことでしょうか。

 

アンプの回路

今考えているものを回路図にまとめてみると次のようになります。何の変哲もないトランスドライブのシングルアンプです。このシンプルさこそが設計の目標の一つですし、必要な箇所には良質の部品を注ぎ込むことと、最良の動作点に持っていく作業によって、ちょっと変わった回路のアンプよりも良質のアンプができると考えています。

 
2000/11/12現在の回路(電源部分は最終形と同じ)

部品を取り付けました。Lundahlのインターステージトランス(1660 シングル用)がマグネクエストの出力トランス(DS 050 5kΩ,40mA)の下に上手いこと納まっています。電源のフィルタコンデンサーは東一の47μFのフィルムコンデンサーを使っています。真空管の ソケットは奮発して6SN7(STC)にはシューターを、GZ32(Mullard)には絶縁耐圧が 心配だったので、アンフェノールのセラミックのUSタイプを使います。出力管のUFソケットには先にUSソケットのピンを使った手作りのモノを使っています。  (2000/10/3)


主要部品を取り付けたところ(左は上面、右は内部でインターステージトランスが見える)

配線には時間ばかりかかってなかなか進みませんでしたが、やっとこ配線終了です。まずは火入れをした後でテスターで各部の電圧をチェックしました。電源電圧の配分が当初考えていたのと若干違っていたので、デカップリングの抵抗を予定の電圧に近くなるように変更しました。そのときの電圧が配線図に書き込んであります。配線図からは読めませんが、左右のセパレーションを改善するために、初段の22kΩと22uFの部分は左右別になっています。また初段はカソードのパスコンは入っていません。これはゲインを抑えるためと、電流帰還でリニアリティの改善を狙っている為です。ついでに言えば2段目のカソードのパスコンはフィルムのMKコンデンサーを使っています。 
正面から見たMazda AT-20を差したときの勇姿を下に示します。         
(この球の大きさはWE 300Bよりも211に近い)

●● 出てきた音はまだ生まれたばかりとはいえ、力感に溢れたものでした。●●
ジャズに向いているような気もしましたが、弦楽四重奏を鳴らしても透明感のある音が
しています。これからのエージングでどのように変わっていくのか楽しみです。

 一応の完成   


Mazda AT-20シングルステレオアンプ(レタリングがまだです)

AT-20という球は姿形のきれいなヨーロッパ製の比較的使い易い送信管です。同じAT-20という型番でもMazdaの太いST管、Cossorの細めのST管とCossorの寸胴のドーム管と3種類があることが知られています。製造が古いだけに以前は手に入れることも出来たのですが、ここ最近は店頭に並ぶこともほとんどなくなってしまいました。最近、自分としては奇跡的に予備の球としてMazdaの球を購入することができてとても喜んでいたのです。さらに加えて、つい最近になって我が球アンプの師匠からCossorのドーム球を頂きました。フィラメントの足がはんだ付け不良との事だったのですが、はんだ付け名人?に掛かれば一発でOKです。これで3種類のAT-20が揃いました。師匠ありがとうございました。 (2000/11/12)


AT-20 single Ampの周波数特性

フィラメントにはシリーズ抵抗の値を調節して5.9Vを掛けています。AT-20の場合、この電圧には4.0Vからのいろいろな説がありますが、MJ誌などの記事を見ると大型のAT-20では6.0Vで良いのではと書いてありますし、見た感じも適当な明るさになっているので、やはりこれで良いのではないでしょうか。周波数特性と出力特性を測ってみました。その結果、30Hz~25kHzで-3dBとインターステージトランスを使っているわりには必要十分な周波数レンジがとれていることが分かりました。グリッドバイアス電圧は-30Vですが、駆動電圧を上げていくと出力波形はグリッドが正に振り込む方で先に飽和をして、最大パワーがとりだせる動作点から外れている(2Wでクリップ開始)ことが分かりました。これはプレートの負荷を3.5k程度に小さくするか、バイアス電圧を上げて電流を減らすかということになります。音が変わってしまわないか心配です。          (2000/11/22)

音決め(これからが大変)

エージングをしながら音決めをしていくことにしました。出てくる音は若干高域によって
いる印象ですし、低域も十分に出ています。ただもう少し腰の据わった音だと完璧なん
ですが、ちょっと軽いのが不満と言えば不満です。でも本当に良い音です。     
プレート電流を増加する方向で、動作点を変更することにしました。そのため、AT-20
のカソード抵抗を1.04kΩから800Ωへ交換するとともに電源トランスのB電源のタップ
を360Vから400Vへ変更しました。その結果、プレート電流は30mAから36mAへと
増大しました。整流管によって音が変わるということも言われているので、GZ-32を
5U4Gに差し替えてみました。+B電圧がわずかに下がって、ヨーロッパ系の整流管の効率
の良さを改めて認識しました。音のほうはわずかにシャープさが減ったような印象を受け
たので、結局はもとのGZ-32に戻してしまいました。(2000/12/9)

次にやったことは出力を出力トランスの9Ωと16Ωからとって、実質的に約3.5kΩにする
ことです。これで出力は大きく取れることになります。その結果、音は若干ながらさらに
高域よりになったような印象です。やはり5kΩでいくしかなさそうです。こんどは外付け
でも良いから出力トランスもLundahlに替えてみようかと考えています。(2000/12/27)

出力トランスの変更

出力トランスを片チャンネルだけ外付けでLundahlLL1620(6kΩ、60mA)にしてみました(写真左側のOPT)。綺麗だけの音から若干ながら力がある音に変わったような印象を受けました。そこで「えいやっと」出力トランスを変更することにしました。マグネクエストでは40mAまでだったのですが、こうすればフィラメント電圧を4Vにするだけで出力管にPX-25も刺すこともできます。ただシャーシー上の場所の関係でオプションで発売されているケースは使うことができず、トランスを縦置きとすると共にケースも自作しなければならなくなりました。


1kHzでの飽和に近い出力での出力波形です。この波形からは磁気飽和によって歪みが発生しているようにみえますが、規格の上ではまだまだのはずなんですが、どうなんでしょうか?検討課題です。
この波形の状態で約4.5Wです。(2001/01/26)

この歪みはドライバー段のインターステージトランスに対するものだとの当て推量で6SN7を交換することにしました。ここに前から使ってみたかったECC34を当てることにしました。初段は球の形からもECC32しかありません。

ドライバー管を6SN7からECC32-ECC34へ変更


出力4.5W時の飽和出力波形
上下の形は違うがほぼ同程度に
潰れている


出力トランスが左右共にLundahlに替わり、整流管は5U4Gに、ドライバー段もECC32, ECC34に替わりました。この構成で同じように飽和での出力波形を見てみると通常の波形の崩れとなっています。右上の波形の崩れは上側はグリッド電流が流れることによるもの、下側はプレート電流のカットオフに依るものです。各増幅段の増幅度と飽和電圧は次のとおりです(インターステージの比は1:1.25)。

    初段(ECC32)   ドライバー(ECC34)  出力段(AT20)
 増幅度(倍)      12.4    12.3        69  (8Ω出力端=2.0)
ノンクリップ電圧(Vrms)  9.8     20       132 (8Ω出力端=5)

トータルゲインがまだ少し大きいような気がしますが、出てくる音の方は滑らかな、落ち着いて聞けるものへと変わってきました。ゴールはもうすぐそこに近付いてきたようです。(2001.3.17)

初段管をECC32からECC34へ再び変更


ECC34-ECC34-Lundahl-AT20-Lundahlというラインアップ

1段目にもECC34を使うことにすると共に、整流管を再びGZ-32に戻してB+電圧が上昇、AT-20にはVpk=450Vが掛かっています。音的には煮詰まってきた感じがします。裸の出力トランスにカバーを作ってやらなくてはなりません。後は2段目のカソードのパスコンがKMコン、1−2段のカップリングがWest-Capなのをいじってみるかというところですか。                              (2001.3.23)


2001/3/26現在の回路

チェックのために周波数特性を測定しました(Open, 100k, 47kはAT-20のグリッドリーク抵抗)。LundahlのインターステージトランスをECC-34でドライブするとインピーダンスのマッチングが上手くいかず、周波数30kHzで2dB程のピークができることが分かりました。これをダンプするためAT-20のグリッドに抵抗をつなぎます。47kΩで0.2dBほどのピークに抑えることが出来ます。
完成間近と思いましたが、もう少し手直しをする必要がありそうです。今は仮に47kΩとしていますが出てくる音はと言えば前よりベールが一枚取れた、音が前に飛んでくるような印象がします。もう少しエージングをすることと、27kΩ程度まで抵抗を変えてみて最終的に決める必要がありそうです。                  (2001.3.26)


結局、測定の結果(微かなピークが残っているが)とヒアリングで39kΩに落ち着きました。帯域幅は3dB落ちで25Hz~35kHzとHiFiを志向していない割には広く、十分なものとなりました。また出力は波形が歪み始める段階で3.9W(入力電圧=0.28V)となっています。飽和出力は7〜8Wとなるようです。              (2001.4.9)

無帰還アンプとしては十分満足のいく特性なのです。出てくる音も悪くありません。
でも、なにか物足りないのです。ジャズではバーンと音が出てこないし、クラシックでは綺麗な音がするだけと言った印象なのです。出力トランスをLundahlに変えてから、このような傾向があったので、いっそのことMagne Questに戻してみようということで再び付け替えてみました。この変更によって今書いたような不満が消えたような気がします。これでしばらくは聞き続けられると考えています。特性についてはそのうちに測って、掲載するつもりです。                             (2001.6.27)


最終的に決定したAT-20シングルアンプ

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