「PENTAX交換レンズ」 についての能書きあれこれ

 

「SMC PENTAX K(P)」 編

… 前書き …

 「SMC PENTAX K(P)」という交換レンズ群は、1975年6月にプラクチカマウントからKマウントへ変わった1代目Kシリーズカメラのためのものです。「Kシリーズ」という言い方は、カメラには言いますが 、交換レンズ群に使われるようになったのは、その後「Mシリーズ」が始まって、それと区別する必要から、ユーザーが言い出したことのようです。ですから、PENTAXの略で「Pシリーズ」という言い方もされています。

 このK(P)シリーズ交換レンズ群の鏡胴は、標準フィルターサイズについて、TAKUMARシリーズの49mmを廃して、ニコンと同じ52mmにしました。これは、Kマウント化の必要性の一つだった「1:1.2/50」の上梓のためには、49mmでは実現困難であったためだと 、亭主は推定しています。

 交換レンズのフィルターサイズをばらばらなものにすると、ユーザーはそれぞれについて各種フィルターを揃えることを余儀なくされます。これは営業政策上好ましくありません。また、明るい広角レンズを作るためには 、第1群のレンズが大径化します。そのためのサイズアップだったのでしょう。鏡胴全体も少し大型化して押し出しが立派になったのも、当時の時代趨勢を反映していたのかもしれません。

 次の時代のMシリーズでも、これとまったく共通なイメージのデザインなのですが、小さいだけに、そちらは凝縮感があります。でも、フィルターサイズが少し大きいだけなのに、このシリーズの交換レンズは、どれも随分とおおらかな印象を受けます。

 なお、SMC TAKUMAR時代までの鏡胴は、絞り環の直径がバラバラだったのですが、K(P)シリーズでは統一が図られています。広角・標準が63mm、望遠が62.5mmという具合に…全体が大きい望遠の方が絞り環の直径が小さいというのは、いささか訝しいのですが…

 マウント変更に合わせて鏡胴は一新したものの、レンズ構成は従前のSMC TAKUMARのものを踏襲したものが多く、新設計のもので揃えるだけの体力は、当時の旭光学 工業にも無かったようです。

 1976年にMシリーズ交換レンズが発売開始されてからも、後継が出るまでは、K(P)シリーズの交換レンズは平行して製造が続きました。Aシリーズ、Fシリーズ、FAシリーズと 、その後の変遷は続きましたが、後継が出来なかったものは、最近まで販売が続いていたものもありました。

 なお、飾銘板の「SMC」の文字が大文字体のものは前期のものです。「smc」と小文字体になったものは、小文字体を使うMシリーズが上梓された1977年以降のもので、その時点で後継 としてのMシリーズが無い機種に限られます。亭主の所有個体のうち、小文字体のものは「smc PENTAX BELLOWS 1:4 100mm」と「smc PENTAX 1:1.2 50mm」があります。

 飾銘板が「smc」のものでも、1980年以降も生産が続いていたものは、マウント金具の小変更を受けています。ロックピン受け穴の形状がU字形から楕円形になっているのです。これは、マウントの水密性を向上させるための改良です。1980年に発売された「LX」の防塵・防滴を補完するためでしょう。

… 目次 …

☆☆  SMC PENTAX  1:1.8/55  ☆☆

☆☆  SMC PENTAX  1:1.4/50  ☆☆

☆☆  SMC PENTAX  1:1.2/50  ☆☆

☆☆  smc PENTAX  1:1.2 50mm 後期型 ☆☆

☆☆  SMC PENTAX  1:3.5/28  ☆☆

☆☆  SMC PENTAX  1:3.5/35  ☆☆

☆☆  SMC PENTAX  1:2.8/105  ☆☆

☆☆  SMC PENTAX  1:3.5/135  ☆☆

☆☆  SMC PENTAX BELLOWS 1:4/100  ☆☆

☆☆  smc PENTAX BELLOWS 1:4 100mm 後期型 ☆☆

こぼれ話

 Kシリーズが始まったのは1975年のことですが、当初には、焦点距離28oの交換レンズが入っていませんでした。その代わりに入っていたのが、変な焦点距離として有名な 「1:2.8/30」です。このあたりの事情は不詳なのですが、Takumar時代の28mmは開放F値が「1:3.5」であったものを「1:2.8」とするべく、色々と試作を繰り返していたものの、「1:2.8」では30mmにまでしか出来なかったために、見切り発車的に製品化したのかもしれません。でもこの品、Aシリーズ時代の1985年まで販売が続いていた長寿製品となりました。それだけ売れなかった証なのでしょう。

 翌1976年になって、ツァイスとの共作として「1:2/28」が製品化できると、同時に、廉価版として「1:3.5/28」を製品化しています。これは同じ「1:3.5」でも、Takumar時代のものとは光学系が違う設計のものです。

 結局、28mmのF2.8が実現できたのは、1977年に製品化した「smc PENTAX M 1:2.8 28mm」からでした。これも性能的に不満だったようで、Aシリーズ直前の1982年に、後期型として別の光学系に変更しています。これはFシリーズまで継承されました。

 なお、中望遠並みに長大だった「1:2/28」は、1980年にMシリーズとして設計変更されて、これは大幅に小型化されています。

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☆☆  SMC PENTAX  1:1.8/55  ☆☆

主 要 諸 元

最短時全長(マウント面→フィルター取付枠先端)

38.8o

最長時全長(マウント面→先端)

48.5o

最短撮影距離

0.45m

最大外径 (絞り環部)

63o

重量

225g

フィルター径 

52o

絞り羽根枚数

6枚

最少絞り値

F22

レンズ構成

5群6枚 (前3群3枚 絞り 後2群3枚) ダブルガウスタイプ

開放F値

1:1.8

焦点距離

f = 55o

画角

43度 (135フォーマット時)

製造開始年 1975年

販売価格(時点不詳)

17,400円

 これは、いわゆる標準レンズというカテゴリーに位置付けられる交換レンズです。TAKUMAR以来の「1:1.8/55」 を継承していて、普及品に位置付けられる品です。鏡胴の内部構造もTAKUMAR時代とほとんど同じですから、分解手順も同じ部分が多くあります。違うのは絞りリンクが組み込まれているマウント部と絞り環の取り外し方だけかもしれません。

 なお、後から2群目に貼合せレンズが使われていますが、これに使用された接着剤のせいなのでしょう、いわゆる「バルサム切れ」が多発しています。亭主が見た個体には総てに発症していました。とても残念なことです。

 また、前時代には使われていた放射線を発する「トリウムガラス」はこの時代には使われなくなっているようで、最後部のレンズ玉は黄変していません。

 このレンズ構成は、Mシリーズへは継承されませんでした。普及判標準レンズとしては、焦点距離を50oにし、開放F値を1:1.7としたものに置き換えられました。そのため小文字「smc」版は作られていません。でも、両者のレンズ構成と鏡胴構造はとても良く似ています。そして、そのレンズ構成も長く引き継がれて、発色特性の標準とされるなど、名レンズとの評価を勝ち得たのです。

 この交換レンズはKマウントになって鏡胴が大きくなったので、全体にゆったりとした印象です。大振りな「K10D」に取り付けるととても優雅な印象になります。亭主の所蔵個体の多くは、固陋である4群目のバルサム切れ貼合わせレンズを前時代のSMC TAKUMARのものに入れ替えています。感覚的には、得られる画像に破綻はまったく見られません。

 分解において、後方からのアクセスはマウント金具を外すことから始めます。マウント面にある5本の皿ビスを、0番プラスドライバーを用いて抜くと外せます。ビスのプラス溝を傷めないためには、太い柄のドライバーで強く押し付けながら回すことが重要です。ドライバーの先端に コニシ「ねじはずし」を少量塗布すると万全です。固くてビスが緩まないときは、綿棒で無水エタノールをビスの周囲に少量塗布し、少し時間を置いてから作業するとうまくいきます。作業時には、締める方向に一瞬強く回し、その反動で緩める方向に回すとうまく行くことが多いものです。ここでは精密ドライバー型のものを使用すると失敗の可能性が高まります。

 マウント金具の前側には「smc PENTAX M」シリーズの標準レンズに使われている大型絞りの運動慣性を緩和するための鉄輪はありません。その代わりとして、絞りユニットの駆動摺動レバーを動かすフォーク部がスイングするようになっていて、それをスプリングで懸架緩衝しています。この仕組みがあることで、撮影時の絞りリンクの急激な作動によって大型絞りの作動が暴れるのを緩衝しているのです。この方がスマートなやり方だと思いますが、工程がより多くなり、コストはMシリーズの方が低くできそうです。

 マウント金具を外すと、絞り環を後方に抜き取れます。絞り環の下にはクリック用のボールが零指標付近にありますから、絞り環を抜き取るときには慎重に行いましょう。 また、絞り環が鏡胴内の絞りリンクとどのように結合しているのか、よく確かめておきましょう。入念な観察こそが、手探りでの分解整備のためには絶対に必要な態度です。

 絞り環を抜き取ると鏡胴側面にあらわれる3本の皿ビスを抜くことでマウント台座はヘリコイド外筒から抜き取れます。マウント台座の内側には絞りリンクが組み込まれています。このリンクは二重のリングになっていて、後側のリングに自動絞り連結レバーと、絞り駆動摺動レバーと組み合うフォークが設けてあり、絞りを常時最小絞りにするよう働くバネも設けてあります。前側のリングに絞り環との連結ピンとカメラへの絞り環位信号レバーが設けてあります。前後のリングは後側のカムと前側のピンで接触しており、絞り環を回すと前側リングが回ってピンの位置が動き、そのときの後側のカムを動かすことで自動絞り連結レバーの戻りを抑制し、これにより必要な絞り開度を作り出しています。

 絞りリンク部は全体をベンジンで洗い、少し粘度のある油を回転部、摺動部に注油します。リンク部品に変形などがある場合以外は分解の必要はありません。

 後方からのアクセスとしては、通常の整備ではこれまでで、あとは前方からのアクセスになります。後群のレンズホルダーも、二重になっている鏡胴の内部鏡胴ごと前方から抜き取れます。

 前方からのアクセスは、定番である飾銘板を外すことから始めます。縁にゴム等を装着した円筒型工具を自作すると作業が簡単です。

 飾銘板を外すと、3本づつ2組の小ビスがあらわれます。そのうちの1組3本の小ビスを00番プラス精密ドライバーで抜くと、フィルター取付枠は外せます。どれがそれかは観察すれば分かるはずです。この3本の小ビスは、フィルター取付枠に残すと組立時に楽です。

 他の1組3本の小ビスは、絞りユニットを組み込んだ内部鏡胴をヘリコイド装置内筒に押さえ付けているので、これを緩めて内部鏡胴を少し回転させることで最少絞り開度を調整します。フィルター取付枠にある3箇所の逃げ切り欠きが大きめなのは、その調整余地のためです。 この小ビスをワッシャーと共に抜き取れば、内部鏡胴は外せます。

 絞りユニットを組み込んである内部鏡胴には、前群レンズホルダーと後群レンズホルダーが捻じ込まれています。内部鏡胴を抜き出すだけで光学系と絞りの整備ができる構造で、製造の容易性、低コスト性はともかくとして、整備性が優れていて、使う者に配慮した合理的な設計であることがわかります。

 外部鏡胴にはヘリコイド装置と絞りリンクが組み込まれています。ヘリコイド装置を動かすのはピント環です。フィルター取付枠を外すとあらわれる鏡胴内の3本の小ビスを00番プラス精密ドライバーで緩めれば、ヘリコイド中筒からピント環がフリーになり、締め付ける位置を変えることで無限遠を調整できます。この小ビス3本をワッシャーと共に抜き取れば、ピント環は外せます。

 ヘリコイド部を分解する場合は、中筒を左回しにして外筒に一番捻じ込み、その位置で外筒、中筒、内筒の位置関係をマーキングしておいてから内筒固定スライド装置を外し、それから内筒、中筒を抜き取るようにしないと組立のときに苦労します。抜き取る瞬間の相互位置もマーキングしておけばより完璧です。なお、2ヶ所の内筒固定スライド装置は形状が異なりますから、それぞれの位置を記録しておかないと組立時に困ります。

 レンズ玉を清掃する必要がある場合は、レンズホルダーからレンズ玉を抜き出します。レンズ玉は切り欠きリング等で押さえてありますから、これを外します。それにはカニ目レンチを使うと楽で、失敗もある程度防げます。本当は切り欠きリングと同径の専用工具を用意するのが理想的なのですが、素人整備では、そこまでするのは道楽がきつ過ぎるのかも…

 カビが繁茂したレンズ玉は、ぬるま湯と中性洗剤で洗うと、殆んどの場合きれいに取れます。無水エタノールやベンジンではあまりきれいになりません。ぬるま湯で洗剤をよく落とし、水滴を拭き取ってから乾燥し てレンズペーパーで仕上げ拭きをします。水滴が残ったまま乾燥するとその痕が残ってしまいます。

 次は組立方法です。

 ヘリコイド部とマウント台座を組み立てるときには、ヘリコイド部に捻じ込まれているピント環回転止めを零指標に合わせることで正しく結合できます。これは当然分解前にそうであることを確認しておくべきことです。

 絞り環を組み立てるときには、絞りリンクを後方から見て一番右側に回しておきます。絞り環の内側、クリック用刻み部にはグリースを少量塗布しておきましょう。絞り環の 「22」を零指標に合わせ、クリックボールを零指標位置の穴に入れて、それを右手の親指の先で押し付けながら左手で絞り環を鏡胴に嵌め込みます。こうすれば簡単に結合できます。

 マウント金具の赤い指標を鏡胴の零指標に合わせて結合します。5本の皿ビスを均等に締め付けます。絞込みレバーや絞り環が円滑に動くことを確認します。

 ヘリコイド装置を一番縮めた状態で、ピント環の無限遠指標と鏡胴の零指標を合わせながら結合します。ヘリコイド中筒に3本の小ビスをワッシャーと共に捻じ込むことでピント環は中筒に押さえ付けられて固定できます。固定位置を変更することで無限遠を調節 します。中筒には3個のネジ穴のほかに穴が開いていますので、無限遠調整時にはそれにピンセット等を挿入して回せます。

 絞りユニットレバーと絞りリンクのフォークとを結合させながら内部鏡胴を外部鏡胴に挿入します。3本の小ビスをワッシャーと共に捻じ込むことで内部鏡胴は外部鏡胴に押さえ付けられて固定できます。固定位置を変更することで最少絞りの絞り開度を調整するのです。

 絞り開度と無限遠を調節してからフィルター枠を3本の小ビスで止め付け、飾銘板を捻じ込めば組立は完成です。

 無限遠の調整は、カメラに取り付けて遠くのもの(できるだけ遠くのものが望ましい。)にピントを合わせることで行います。

 絞り開度の調整は、開放位置との関係で行います。

 この交換レンズは、贋Aレンズに改造する素材として最も向いていそうです。鏡胴内がゆったりとしていますから、改造部品を取り付ける余地があり、何より安価でKシリーズの中では最も個体数が多く、しかもほとんどがジャンク価格で入手可能ですから、気軽に改造に供せます。

※特報!!

 この交換レンズの固陋宿痾である4群目貼り合せレンズのバルサム切れですが、亭主の長年に渡る研究と試行の結果、貼り合せ面の安全な分離に成功しました。これにより、古典的方法であるカナダバルサムを用いる方法や、紫外線硬化型化学系接着剤などでの再貼り合せが可能になりました。

☆☆  SMC PENTAX  1:1.4/50  ☆☆

主 要 諸 元

最短時全長(マウント面→フィルター取付枠先端)

42o

最長時全長(マウント面→先端)

o

最短撮影距離

0.45m

最大外径 (絞り環部)

63o

重量

265g

フィルター径 

52o

絞り羽根枚数

8枚

最少絞り値

F22

レンズ構成

6群7枚 (前3群3枚 絞り 後3群4枚) 変形ダブルガウスタイプ

開放F値

1:1.4

焦点距離

f = 50o

画角

46度 (135フォーマット時)

販売開始年 1975年

販売価格(時点不詳)

 これは、標準レンズというカテゴリーに位置付けられる交換レンズです。Super-Takumar時代に誕生したレンズ構成を踏襲しています。6群7枚構成の変形ダブルガウスで「1:1.4/50」のものでは世界で初だったというこのレンズ構成は次代以降も踏襲され続け、FA化までされて、2012年現在でも販売されている最も長命な交換レンズです。基本的な性能が優れているためでしょう。

 1977年にはMシリーズ化されたので、小文字「smc」は作られませんでした。

 製造期間が短かったことと、標準レンズの普及版ではなかったことで販売数が少なく、中古市場に出てくる頻度が少なくなっています。最上級標準レンズとして「SMC PENTAX  1:1.2/50」があったことで、位置付けが中途半端だったのかもしれません。

 ところで、この交換レンズの製造番号(SN)ですが、「10*****」と「15*****」のものしかありません。「11*****」とか「12*****」などの中間が存在しないとなると、前期型と後期型に分かれるということが考えられます。その違いは何かと言えば、1977年まで使用していたとPENTAXが公表しているトリウムガラスの使用の有無ではないかと思われます。

 亭主の所持する個体の一つは「15*****」ですが、これは黄変していません。つまり、トリウムガラスは使われていないのです。もう一つの個体は「10*****」 ですが、これは見事に黄変しています。また、両方をそれぞれ複数所持している人のネット上の発言として、「10*****」はどれも黄変しているが、「15*****」はどれもクリアである、というものがあります。つまり、「10*****」にはトリウムガラスで造ったレンズが使われているということになります。

 このことにより、この交換レンズの総生産数は2万台以内ということになります。歴代「1:1.4/50」の中では最も少ない数です。中古出現数が少ないのも頷けます。

 その後の2013年5月8日に亭主が入手したシリアル番号「1097***」の個体には、トリウムガラスが使用されていませんでした。つまり、トリウムガラスを使用しなくなった時期は、「10*****」の途中だということです。「10*****」が全てアトムレンズという説は誤りだったということが分かりました。

 それでは「11*****」から「14*****」が存在しない理由は何かと言えば、これらは他の交換レンズに割り当てられていたからだと考えられます。「SMC PENTAX 1:1.8/55」には「11*****」から「13*****」が、「SMC PENTAX 1:1.2/50」には「14*****」が存在していて、これ以外の番号帯のものを発見できていないことがその根拠です。

 2013年8月、レンズシリアル番号に関する謎として、またひとつ生まれてしまいました。これまで存在しないと思われていた「12*****」の番号帯の品が複数確認出来たからです。それらはすべて「127****」台であることから、これが「10*****台」と「15*****台」の間の空白を埋めるものの一部であるとは断言出来ず、その番号帯だけが特別な存在としてあった可能性も残されています。いずれにしても、新規発掘が待たれる点です。

 なお、一般的には「11*****」台と「12*****」台および「13*****」台は「SMC PENTAX 1:1.8/55」に使用されていますが、「120****」台は「SMC PENTAX 1:1.2/50」に用いられ、上記のように「127****」台は「SMC PENTAX 1:1.4/50」に用いられていて、その部分の「SMC PENTAX 1:1.8/55」は未発見という調査結果がありますから、Kマウント化されてレンズシリアル番号の付番法則を一新したものの、実際の製造数が予定を大きく上回ったなどで一部法則が崩れたのかもしれません。これらはまだ発掘数が少ないので、別の知見へと移り変わる可能性もあります。

 また、後から3群目の貼り合せレンズに使われている接着剤が、この時代には化学性のものになっていて、同時代以降の交換レンズと同様にバルサム切れが多発しているという厄介な存在でもあります。

 しかし、バルサム切れは接着を剥がすことで再接着が可能です。今では亭主が開発した「冷凍・熱湯法」により安全確実に剥がすことができますから、この病も癒すことが可能ということです。

 後継のMシリーズはフィルター径がTakumar時代と同じ49mmに戻されましたが、これは52mmなので少しゆったりとした鏡胴です。ハンドリングの点でも、この鏡胴の方が好ましいと感じます。

 分解の手始めは、前方の飾銘板を外すことから始めます。工具を掛ける手がかりは無いので、摩擦係数の高い軟らかなリングを全体に押し付けて回します。この時代の交換レンズは、これまで途中で分解整備を受けていないものは、この飾銘板が非常に回り難くなっています。製造時にネジ溝に微量に残っていた切削油が径年で固化して張り付いているためなのではないかと考えています。そのため、事前にCRC5-56をネジ溝に流し込んで置くと、かなり回り易くなります。

 なお、全般的なこととして、Kレンズはどれもネジが固くなっています。小ビスなどはプラス溝を舐めないように対策が必要です。

 飾銘板を外すと、フィルター取付枠を止めているプラス小ビスが3本あらわれます。これを00番精密ドライバーで外します。これも切削油の固化で回り難くなっていますから、一瞬締め込む方向に回してから緩めると回り易くなります。

 フィルター取付枠を外すと、ピント環をヘリコイド中筒に押さえ付けているプラス小ビスが3本あらわれます。これを緩めるとピント環が自由に回転できるようになり、止め付け位置を変えることで無限遠の調整をすることができます。この3本を外すと、ピント環は前方に抜き取れます。

 絞りより前群3枚はレンズホルダーに取り付けてあります。これをヘリコイド内筒から左回しに抜き取ります。カニ目回し工具を使用すると仕事が楽に綺麗にできます。

 なお、このレンズホルダーは、前の時代の「SMC TAKUMAR」とまったく同じもので、そのままで互換可能です。

 ピント環を抜き取った後に、中筒と内筒を連結しているヘリコイドネジの内筒側前方に芋ネジが3本見えます。これを少し緩めることで内筒内に取り付けてある絞りユニットが前方に抜き取れます。絞り開度の調整は、絞りユニットを回して芋ネジでの締め付け位置を変えることで行います。なお、この芋ネジは抜き取ってはいけません。紛失の原因となるだけです。緩めるだけで用が足ります。

 絞りより後群のうち、貼合せ玉はヘリコイド内筒に前側から取り付けてあるので、絞りユニットを外さなければなりません。後群のその他2枚は後から外します。

 前方からの作業はここまでで、次は後方からの作業です。マウント金具の5本のプラス小ビスを外します。0番ドライバーを使用しますが、固く固着しているので握りの太いドライバーを使います。精密型では能力不足です。ここも事前にCRC5-56を塗布して置くと楽に回せます。ドライバーの先端に「ねじはずし」を微量塗布して置くとプラス溝を強力に保持できます。

 マウント金具を外すと、絞り環が後方に抜き取れるようになります。絞り環の零指標直下には小さなクリック用鋼球がありますから、飛ばして無くさないように注意が必要です。左手親指で零指標の上を覆い、右手で絞り環を慎重に抜き取れば飛ばす懼れは少なくなります。また、絞り環と絞りリンクの結合位置をよく確認しながら抜き取りましょう。

 この段階で後群レンズホルダーを外します。 レンズホルダー内には最後群の1枚しか入っていません。後から2枚目はヘリコイド内筒に後から取り付けてあります。これが黄変している場合はトリウムガラスです。

 絞り環を抜き取ると、鏡胴側面にプラス皿ビスが3本あらわれます。これを抜き取ると、ヘリコイド外筒から絞りリンクを組み込んだマウント台座を後方に外せます。ここも油分の径年固化で固着しているので、CRC5-56の塗布で外し易くなります。

 マウント台座のこれ以上の分解は通常不要です。汚れや油分の固化はそのままベンジンで洗い、可動部に上質油を注油しておきます。

 これの絞り込みレバーは、基部にバネによるショック軽減機構が設けてあります。これが次世代のMレンズになると、機能はリング状鉄板に置き変わっています。

 ヘリコイドの分解が必要なら、対向する2ヵ所の内筒回転止めスライド装置を外筒から外すことで内筒、中筒、外筒を分離することができます。PENTAXの場合、内筒と中筒は順ネジ結合、中筒と外筒は逆ネジ結合です。この相互の位置関係をよく確認してから作業しましょう。これを怠ると組立時に苦労することになります。マーキングを行うと安心です。

 ネジ溝に残ったグリースをベンジンで洗い、必要な粘度のグリースを再塗布して組み立てます。専用品が市販されていますから、これを入手すると安心です。

 レンズホルダーやヘリコイド内筒からレンズ玉を取り出すには、切欠きリングやソケットを外さなければなりません。回り止めの塗布や汚れでネジが固着していることが多いので、事前に無水エタノールを塗布しておいて作業すると回り易くなります。

 レンズ玉はぬるま湯と中性洗剤で洗います。ほとんどの黴や固着汚れはこれで綺麗になります。黴はベンジンや無水エタノールで洗うより、こちらの方が容易に綺麗になります。ぬるま湯で洗剤をよく洗い流して、すぐに水気をよく取って置きます。 ティッシュペーパーで包むと効果的です。水滴が残っていると跡になって取れ難くなります。組立時にはレンズクリーナーで拭いてからレンズペーパーで丁寧に拭い、レンズサッカーを用いてレンズホルダーに装着します。素手でレンズを持つと、手の油脂がレンズに付きます。

 組立時には無限遠の調整が必要です。亭主は2kmほど遠方の送電塔で行っています。トラス構造がくっきりと写る位置で固定します。

 亭主所蔵の前期型は、レンズシリアル番号が「100****」です。つまり、最初に製造された10000台のうちの1台ということになります。見事に「黄変」していたので、屋外紫外線曝露で美白処理しました。内面の随所に白カビが繁茂していたのでレンズ玉を取り出して水洗し、綺麗に除去しました。落下させたのか、フィルター取付枠が歪んで、しかも外側が傷付いているという、まさにどうしようもないジャンク状態でしたが、分解に必要な歪み修正をして、傷は浅かったので塗装を研磨紙で剥がして磨き仕上げにしました。同時代の純正銀線入り細枠SMCフィルターと合わせると、これがことのほかシック…

☆☆  SMC PENTAX  1:1.2/50  ☆☆

☆☆  smc PENTAX  1:1.2 50mm 後期型 ☆☆

主 要 諸 元

最短時全長(マウント面→フィルター取付枠先端)

48.4o

最長時全長(マウント面→先端)

56.2o

最短撮影距離

0.45m

最大外径 (ピント環部)

64.6o

重量

395g

フィルター径 

52o

絞り羽根枚数

8枚

最少絞り値

F22

レンズ構成

6群7枚 (前3群3枚 絞り 後3群4枚) 変形ダブルガウスタイプ

開放F値

1:1.2

焦点距離

f = 50o

画角

46度 (135フォーマット時)

販売開始年 1975年

販売価格(時点不詳)

43,400円

 これは、標準レンズというカテゴリーに位置付けられる交換レンズです。 M42マウントの口径では実現できなかった開放F値1:1.2をKマウント化によって成し遂げた交換レンズで、その頃は他社の場合は焦点距離55mm以上であったものを50mmで実現したという、当時の旭光学の設計力を示した存在です。

 Mレンズ化はされなかったので、小文字「smc」が存在します。また、小文字「smc」になってから「LX」誕生時にマウント金具の変更も受けていますから、小文字「smc」にも前期型・後期型があり、合計3つの型が存在することになります。コレクターは 、それを揃えなければ大きな顔が出来ないでしょう。

 また、後期型のバリエーションとして、LXのゴールドバージョンと組み合わされていた金メッキトカゲ皮巻きのものが存在します。

 Aレンズにもこのレンズ構成が継承されて、最後の現行MF交換レンズとして生き続ける名作です。

 レンズシリアル番号としては、最初は「120****」と付番されましたが、すぐに「14*****」となっています。小文字「smc」となったのは「14*****」になってからです。

※ 「smc」 後期型

 

●分解について

 このレンズは他のKマウント標準レンズたちとは鏡胴構造が異なっていて、分解の手始めが異なります。他のように「飾銘板」を外すのではありません。これの「飾銘板」は前群レンズホルダーになっていて、回らない「フィルター取付枠」によって邪魔されていますから、もし回せてもほんの少しです。

 邪魔をしている「フィルター取付枠」自体は、ヘリコイド装置内筒に周囲から3本の小ビスによって取り付けています。この3本の小ビスが見えるようにしなければならないのです。

 もし「飾銘板」が回らないことに業を煮やしてそれに穴を2か所開け、カニ目回しなどで強引に回そうとすると、フィルター取付枠の3か所の小ビス部分を切り裂いてしまうことになります。

 ところで、「ピント環」を観察すると、他の機種と違って外径が不自然に太くなっています。これは「ピント環」の前方に「蓋」を捻じ込んでいる構造になっているからです。この「蓋」で「フィルター取付枠」の側面後方にある取り付けビスを隠しています。また、「ピント環」を「ヘリコイド中筒」に固定する小ビス3本も隠しているのです。

 「ピント環」の滑り止めビニール環を慎重に外し、ピント環前方部の周囲突起をゴム板などで掴んで、反時計回りに外すのです。

 この「ピント環前方部」が外せれば、他は他のKマウント標準レンズたちとほとんど同じです。ただし、ユニット式の「絞り装置」はヘリコイド内筒に周囲から6か所の芋ビス先端で押え付けて固定しています。数が他より多いのは大径のためでしょう。

 

●性能について

 このレンズは絞り開放付近の被写界深度が極めて薄いですから、MFは慎重な操作が求められます。フォーカスエイドにだけ頼っていては良い結果はあまり 得られません。その表示癖を知る修練が必要です。

 

☆☆  SMC PENTAX  1:3.5/28  ☆☆

主 要 諸 元

最短時全長(マウント面→フィルター取付枠先端)

47o

最長時全長(マウント面→先端)

50.9o

最短撮影距離

0.3m

最大外径 (絞り環部)

63o

重量

272g

フィルター径 

52o

絞り羽根枚数

5枚

最少絞り値

F22

レンズ構成

7群8枚 (前4群5枚 絞り 後3群3枚) レトロフォーカスタイプ

開放F値

1:3.5

焦点距離

f = 28o

画角

75度 (135フォーマット時)

販売開始年 1976年

販売価格(時点不詳)

23,000円

 これは、広角レンズというカテゴリーに位置付けられる交換レンズです。焦点距離28oのものとしては廉価版の位置付けです。

 SMC TAKUMAR時代にも同一開放F値の交換レンズがありましたが、これは、それとはまったく別のレンズ構成です。また、Mレンズ化もされずに別のレンズ構成で後継Mレンズが発売されたので、わずか1年ほどの存在でした。なので 、小文字「smc」は存在しません。

 レトロフォーカスの長い光学系の中に空間を設けず、ほとんどレンズで埋めたという感じです。そのため、大きさに比べて随分と重くなっています。

☆☆  SMC PENTAX  1:3.5/35  ☆☆

主 要 諸 元

最短時全長(マウント面→フィルター取付枠先端)

35.7o

最長時全長(マウント面→先端)

40.7o

最短撮影距離

0.35m

最大外径 (絞り環部)

63o

重量

165g

フィルター径 

52o

絞り羽根枚数

5枚

最少絞り値

F22

レンズ構成

4群5枚 (前2群2枚 絞り 後2群3枚) レトロフォーカスタイプ

開放F値

1:3.5

焦点距離

f = 35o

画角

62度 (135フォーマット時)

製造開始年 1975年

販売価格(時点不詳)

19,500円

 これは、広角レンズというカテゴリーに位置付けられる交換レンズです。SMC TAKUMAR時代から引き継いだレンズ構成で、SMC TAKUMAR時代でもそうでしたが、Kシリーズでも最も小型軽量な鏡胴でした。でも、小型軽量をコンセプトとしたMシリーズが始まり、その存在位置が失われて消えていきました。テッサータイプのレンズ構成の前に半球形の凹メニスカスレンズを置いてレトロフォーカスとした簡易なレンズ構成です。これも小文字「smc」は存在しません。

 その描写力は、Kマウント化されただけのものがあります。このような単純な光学系で諸収差が良好に補正できるのは驚異的…

 

☆☆  SMC PENTAX  1:2.8/105  ☆☆

主 要 諸 元

最短時全長(マウント面→フィルター取付枠先端)

63.3o

最長時全長(マウント面→先端)

75o

最短撮影距離

1.2m

最大外径 (絞り環部)

62.5o

重量

303g

フィルター径 

52o

絞り羽根枚数

6枚

最少絞り値

F32

レンズ構成

4群5枚 (前3群3枚 絞り 後1群2枚) エルノスタータイプ

開放F値

1:2.8

焦点距離

f = 105o

画角

度 (135フォーマット時)

製造開始年 1975年

販売価格(時点不詳)

25,000円

 これは、望遠レンズというカテゴリーに位置付けられる交換レンズです。SMC TAKUMAR時代から引き継いだレンズ構成です。エルノスターの最後群を貼り合せのダブレットとした構成です。 エルノスターというのはトリプレットの凹の前に凸メニスカスを挿入した形式で、これにより明るさが確保できる構成です。弱いテレフォトになるで、中望遠に多用されていました。 この品のように4群目が貼り合せダブレットとなっているものは、ツァイスではゾナーと称しているようです。

 このレンズ構成はMレンズには引き継がれず、その位置付けは新たに「M 1:2.8 100mm」に置き換えられましたので、小文字「smc」は存在しません。

 マウント金具を外した下に現れる絞りリンクは、このシリーズの望遠系鏡胴に共通な構造です。TAKUMARより鏡胴が大振りのため、余裕が感じられます。そのTAKUMARが狭いマウント部にカムなどを詰め込んでいたのに比べて、生産性が向上しているようです。

☆☆  SMC PENTAX  1:3.5/135  ☆☆

主 要 諸 元

最短時全長(マウント面→フィルター取付枠先端)

87.7o

最長時全長(マウント面→先端)

103.3o

最短撮影距離

1.5m

最大外径 (絞り環部)

62.5o

重量

364g

フィルター径 

52o

絞り羽根枚数

6枚

最少絞り値

F32

レンズ構成

4群4枚 (前3群3枚 絞り 後1群1枚) エルノスタータイプ

開放F値

1:3.5

焦点距離

f = 135o

画角

18度 (135フォーマット時)

製造開始年 1975年

販売価格(時点不詳)

19,900円

 これは、望遠レンズというカテゴリーに位置付けられる交換レンズです。SMC TAKUMAR時代から引き継いだレンズ構成です。次世代Mシリーズの同クラス交換レンズのレンズ構成のようには小型軽量を欲張っていませんから、光学性能は優秀です。SMC TAKUMARと光学系を互換できますから、損傷時の置き換えなども可能です。貼り合わせレンズを使っていないこともあり、長く製品寿命を保つことでしょう。エルノスターというレンズ構成です。

☆☆  SMC PENTAX BELLOWS 1:4/100  ☆☆

☆☆  smc PENTAX BELLOWS 1:4 100mm 後期型  ☆☆

主 要 諸 元

全長(マウント面→フィルター取付枠先端)

40.8o

最大外径 (マウント部)

60o

重量

185g

フィルター径 

52o

絞り羽根枚数

6枚

最少絞り値

F32

レンズ構成

3群5枚 (前2群3枚 絞り 後1群2枚) ヘリヤータイプ

開放F値

1:4

焦点距離

f = 100o

画角

24度 (135フォーマット時)

製造開始年 1975年

販売価格(時点不詳)

17,000円

 ヘリコイドなどの繰出し装置を持たない、ベローズ装置などに装着して使う交換レンズです。オートベローズに装着すると、蛇腹を一番畳んだ位置で無限遠となる設計です。そのオートベローズには、この交換レンズのための無限遠調整機構が付いています。Kシリーズの交換レンズの中で最後まで販売されていました。

 トリプレットの両側凸を貼り合わせのダブレットとしたヘリヤータイプのレンズ構成ですから、かっちりとした描写性がマクロレンズに向いているようです。APS-Cフォーマットカメラならイメージサークルの中央部だけを使いますから、なおのこと優秀な画像に…

 前期型、中期型、後期型があり、「SMC」が大文字なのはMシリーズが出る前のもので前期型です。「smc」が小文字のものになってからも変更があり、マウント金具ロックピン穴が楕円形になったのが後期型で、U字形のは中期型です。 前期型と後期型とのその他の違いとして、絞り環の開放位置に後期型は明瞭なクリックがあって、絞り開放から不用意に動きにくいようにしています。これを設けた理由は…分かりません…