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PENTAXのデジタル一眼レフは、開放測光に不可欠だった交換レンズからの絞り環位置情報を受け取りません。そのため、フィルムカメラ用の従前交換レンズも絞り情報をデジタルデータのみで伝えるようになり、なおかつ、絞り開度をカメラ側から設定操作できるようになったAシリーズ以降の交換レンズでないと、自動露出機能が使えません。そこで、それらデジタル一眼レフで自動露出機能が使える各シリーズ交換レンズのマウント構造の概要と、各レンズ性能の概要や特長について、以下に述べることにします。
なお、2016年4月に35mmフルサイズ一眼レフ(PENTAX K-1)が登場したことで、これらはその本来画角を使えることになり
ました。また存在感を増すことになるのでしょう。標準から広角系は特に期待大…
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●smc PENTAX-Aシリーズ
smc PENTAX-Aシリーズ交換レンズは、カメラ側からの絞り開度の正確なコントロールを可能にしたAシリーズカメラのためのものです。この機能を追加したことでシャッター速度優先自動露出が実現し、従前からの絞り優先自動露出と組み合わせて、プログラム自動露出も実現しました。
これの前のシリーズであるMシリーズとそれ以前の「Kマウント」では、カメラ側から絞りを動かす機構は自動絞りのためだけのものであり、カメラから操作する絞込みレバーの移動量と絞り開度とが比例関係には無くて、交換レンズをカメラに取り付けると開放になる絞りを、レリーズすることで交換レンズ側で設定した絞り開度に戻すだけの単純な機能しかなかったのです。そのため、Mシリーズ以前のものは「クラシックレンズ」と位置付けることがあります。
Aシリーズの交換レンズに採用されたマウントが「KAマウント」です。これは、絞りの制御の方法について、カメラから操作する絞込みレバーの作動量と絞り開度とが比例するように絞りリンク機構を変えた外に、マウント面に電気
的接点を設けて、これにより交換レンズの最小絞り値と、その最小絞りから何段目に絞り開放があるのかを二進デジタルデータとして伝え、また、絞り環に
「A位置」というものを設け、その位置に絞り環を設定していることをカメラに伝達する機能を持たせました。このときにはまだ交換レンズ内に電子基板やROMなどは設けていないので、6個の電気的接点の「導通」か「絶縁」(ONかOFF)の組合せによって、そのレンズ固有情報をカメラに伝達する仕組みでした。
「A位置」というのは、絞り装置の状態としては、機械的には最小絞りの状態です。絞り環にこの位置が設けられ、それを伝達するための電気接点が設けられた理由は、Aシリーズ以外の交換レンズがAシリーズカメラに取り付けられたときにカメラがそれを自動認識して、シャッター速度優先オートやプログラムオートを行わないようにするためでした。一種の「馬鹿者対策」です。
交換レンズの絞り位置情報自体は開放測光には必須であるために、Mシリーズ以前の「Kマウント」でもレンズ側からカメラに伝達する機構は搭載されています。でもこれは絞り
環の設定が開放からどれだけ絞った状態かを伝達する仕組みでした。「Kマウント」の絞り装置はレンズを取り外しているときには設定絞り側となる構造なので
すが、カメラ側から絞りを操作するためには最小絞りにしておかねばならず、そこから開放までの間隔(段数)の情報伝達が不足していたのです。
マウント面の電気的接点は、6個の端子のうち上から3番目の端子を絞り環が「A位置」にあることを伝達することに使い、残りの5個の端子の「導通」か「絶縁」との組合せで「最少絞り値」と、そこから何段目に「絞り開放」があるかを伝達する仕組みです。この情報は半段単位でしか扱えません。
「A位置」にあることを伝達する端子は、カメラ側の接点がマウント面より沈んでいます。これに対する交換レンズ側接点(ボール)が飛び出すようにしたのが「A位置」の伝達メカニズムです。絞り環が「A位置」なら、この接点は
カメラ側のマウント面から引っ込んでいる接点と「導通」しているのですが、「A位置」以外にすると、交換レンズ内でこの接点が引っ込んで絶縁し、それによってカメラの電子回路はMシリーズなどの非Aレンズや非A位置状態の交換レンズであると認識するのです。交換レンズ側接点で可動式なのはこの接点だけで、他はマウント面と絶縁するか、導通するかだけの固定接点です。カメラ側接点の方は、3番接点以外はマウント面から出ている可動のボール構造で、6個ともカメラ内の電子基板に電線で繋がっています。
光学系の大部分は前の時代のMシリーズのものを踏襲しています。絞り環など鏡胴の一部にエンジニアリングプラスチックが使われていますから、前シリーズより少し軽くなっています。マウント内部は「A位置」の伝達接点の導通を操作する機構のために複雑になっていて、分解後の組立難度はKマウントより格段に高くなっています。
また、レンズ玉の鏡胴への固定に一部接着やカシメを使い始めていますから、素人分解整備をやり難くしています。
なお、このAシリーズの時代には、ズームレンズが一段と高性能化した時代でもありました。PENTAXにおいても3グループ式ズームの製品化が始まり、広角から望遠に渡るズーム比の大きな製品が発売されました。広角に強い2グループ式ズームも、多グループ化された製品が上梓されています。
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●smc PENTAX-Fシリーズ
smc PENTAX-Fシリーズは、AFを実現した第一世代のSFXシリーズカメラのためのものです。光学系は、多くのものが前時代のAシリーズのものを踏襲しています。
そのAシリーズとの最大の変更点は、マウント規格を「KAf」に変更したことです。AFに必要な動力接続用のカプラーを設けたほかに、マウント面の電気接点の数を1個増設しています。
そして交換レンズ内に電子基板とROMを内蔵し、それによって自動露出に必要なレンズ情報を伝達する仕組みに変えたためです。
この変更はとても大きなものだったのですが、従来の「KAマウント」カメラでも使えるようにするために、互換の仕組みも内蔵しています。この点が純正およびOEM提供元をしている「Tamron」と、それ以外の「シグマ」などとの違いです。今ではほとんど需要は無いでしょうが、シグマの「KAfマウント」レンズは、「KAマウント」カメラでは正常に使えません。
「KAfマウント」のカメラ側7個の電気接点ですが、2番、3番、4番接点の役割は「KAマウント」と共通ですが、他の4個の働きは異なっています。
その働きが異なるようになった4個の接点により、交換レンズ側からは開放絞り値のほかに、交換レンズの種類ごとに与えられたIDや焦点距離情報がカメラ側に伝えられる仕組みです。ズームレンズの場合は焦点距離が変化しますから、交換レンズ内にその変化の度合いを4桁の二進数によって16段階に変換する機械的な仕組みが設けてあります。これにより、焦点距離の変化によって開放絞り値が変動する場合もそれを伝達するようになりました。
カメラ側接点の構造と違って、交換レンズ側は大きく変わり、既設の「A位置」伝達接点以外にもボール構造の可動接点が4個設けられていて、交換レンズ内に設けられたレンズ固有情報を記憶したROMの載った電子基板からの電線がこれらに繋がっています。このため、マウント内部は一層複雑になっており、分解後の組立難度はより高くなっています。
カメラ内に設けられたトルクが限られている小型モーターで駆動する必要から、従来のヘリコイド装置では抵抗が多すぎて使えなくなり、ピント合わせのために全群を繰出すヘリコイドもエンジニアリング樹脂製の軽量なものとなっていて、潤滑油を使用していません。その機構には遊びが多いのですが、
これはモーターの駆動・制動で制御するのには都合がいいのかもしれません。また、この遊びによって光軸が微妙に下に傾き、チルトダウン効果を生じることから、通常の撮影姿勢と被写体の場合には、被写界深度を深くする効果が生じるという怪我の功名もあったりして…
AFのメリットを得て、ズームレンズの一般化はますます昂進しました。そのため、販売政策上、低価格のものが求められることとなりました。これにより、Aシリーズ時代にはズーム比を大きくすることを目的として採用されていた多グループ化3グループ式ズームですが、これを低スペックな基本的3グループ式とすることで、低価格ズームを実現しています。
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●smc PENTAX-FAシリーズ
smc PENTAX-FAシリーズは、Z-1を頂点としたカメラシリーズのためのものとして始められました。大振りになったカメラのデザインとの統一のための外装の変更や、軽量化等のための更なるプラスチック化、レンズなど部品の接着ユニット化を行い、機能的にも、鏡胴内蔵ROMにMTFデータなどが追加されました。
また、パワーズームを搭載したものは、カメラ側マウント内部にそのための電源供給接点と信号接点の2個を追加したマウント規格の「KAf2」にしています。この増設した2個の接点は、その後のDAシリーズでの「SDM」化のために役立つことになりました。
FAシリーズには、以前のシリーズからあった★シリーズのほかに、Limitedシリーズが加わったのが特筆されます。
なお、FAシリーズは、カメラが小型軽量を志向したMZシリーズになってからも使われ続けているため、後期に開発されたものは外装デザインが大きく変化しています。
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… 目次 …
FA★シリーズ
諸収差の除去や明るさなど、レンズ性能を追求した最高級シリーズです。
smc PENTAX-FA★ 28-70mmF2.8 AL
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FA Limited シリーズ
小型のアルミ削り出しボディによる質感と、描写に味を持たせた単焦点シリーズです。Fシリーズまであったフィンガーポイントを復活した機種があったり、専用フードやキャップにも凝っているのがこのシリーズの特徴です。
smc PENTAX-FA 31mmF1.8 AL Limited
smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited
smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited
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FAシリーズ
smc PENTAX-FA 28-200mmF3.8-5.6 AL[IF]
smc PENTAX-FA 70-200mmF4-5.6 PZ
smc PENTAX-FA 35-80mmF4-5.6
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Fシリーズ
smc PENTAX-F Soft 85mmF2.8
smc PENTAX-F Zoom 28-80mmF3.5-4.5
smc PENTAX-F FISH-EYE Zoom 17-28mmF3.5-4.5
smc PENTAX-F AFアダプター1.7X
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Aシリーズ
smc PENTAX-A 1:2.8 24o
smc PENTAX-A 1:1.2 50o
smc PENTAX-A 1:1.4 50mm
smc PENTAX-A ZOOM 1:3.5-4.5 35-70o
REAR CONVERTER-A 2X-S
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※ 用語の解説
「ED」 特殊低分散
ガラスの屈折率は光の波長によって異なります。従って、様々な波長を含む自然光は、1点に焦点を結ばない性質があります。赤色が焦点を結んだときに、周囲に紫色のにじみが出ることがありますが、これが色収差と呼ばれるもので、一般の光学ガラスを使用した場合に、この修正が困難になります。
この色収差を抑えるために様々な特殊光学レンズを使用するのですが、そのなかのひとつが特殊低分散(Extra-Low
Dispersion)ガラスです。屈折による各波長(色)の分散が小さく、優れた結像性能を実現できます。
ALはAspherical
Lensの略で、非球面レンズのことです。光学レンズには、理想的な結像を妨げる様々な収差があります。そのひとつが、光が1点で像を結ばず、点像のにじみとなって現れる球面収差です。これは、通常の球面レンズでは避けられない収差であり、明るい大口径レンズほど発生しやすくなります。それを解決するために採用されたのが非球面レンズです。
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「IF」 インナーフォーカスシステム
通常の交換レンズは、その多くがレンズ系全体を動かしてピントを合わせる全体繰り出し方式です。これに対しIFは、ピント合わせの際にレンズ群の内の一部だけを動かす仕組みとなっており、オートフォーカス時にモーターが駆動するレンズ部分が軽く、AF時の高速化に寄与することになります。
また、全長の変化がない、重量バランスが大きくは崩れない、最短撮影距離が短くできるなどの特長があります。
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