~ sacrifice ~3
男は初めてだから、勝手が違う そう思いながら三杉は熱い体を貪った。
だが日向の方は男を受け入れることに慣れているとでもいうように、躊躇いもなく、しなやかな肢体を開く。
「・・・お前、男同士ってどうやるのか、分かってるよな?」
「知識だけはね・・・。実際にするのは今が初めてだよ」
「そりゃ、そうだろうよ・・・んっ、・・」
日向の首筋や鎖骨、胸を触って唇で辿る。たまに強く吸って跡を残すと嫌そうな顔をされたが、三杉は構わなかった。どのみち貴久の痕跡が既に幾つも散っているのだ。
「日向。口開けて」
「・・・・・」
日向の顎を掴んで口付ける。深く舌を差し入れ、何度も角度を変えて、熱い口腔内を蹂躙する。
「・・・ふ、っ」
「・・・日向」
唇を離すと、日向が頬を上気させて呼吸を荒くしていた。その顔がつい先ほどまで見せていた余裕とは打って変わって、可愛らしく映る。これは自分の知る日向だ 三杉はふ、と笑みを浮かべた。
「・・なあ。もう、いいから・・・挿れろよ」
丹念に愛撫を施していると、焦れた日向が先を強請る。促された三杉が素直に身を起こすと、横から貴久の手が延びてきた。日向の左頬を包むように右手を当て、自分の方へと強引に顔の向きを変えさせて、口づける。
「ん・・ぅ」
クチュクチュと湿った音をさせて貴久が日向に執拗なキスを与え続けるのを、三杉は忌々しい思いで見つめていた。苛立たしさもそのままに、乱暴に日向の足を掴んで大きく開かせる。
「挿れるよ」
「・・・ぁ」
日向の身体はついさっきまで貴久に抱かれていたこともあって、既に柔らかく蕩けていた。それでも三杉は傷つけないようにと、慎重に時間をかけて日向の中に侵入した。その狭さと温かさに思わず息を詰める。これまでに味わったことのないほどの、目も眩むような快感だった。
「ん・・、はい、った・・全部・・っ」
「は・・っ、・・んっ、・・く、」
「・・・日向・・動くから・・・辛かったら、言って」
声が上擦る。どれだけ余裕が無いのかと自分でも可笑しくなるが、それでもこれ以上は待てそうになかった。
三杉はゆっくりと腰を動かし始め、同時に男にしては綺麗な細い指で、日向の汗ばんだ肌を弄った。
「・・・ふ、ふあ・・・んんっ、・・く、・・あ、あんっ、や、・・あふっ」
時間を置かずに日向が甘やかな声をあげ始める。夢中になって律動を繰り返す三杉の下で、動きに合わせて淫らに身体を揺らしていた。ただただ純粋に、二人して快感を追っていた。
「・・・は・・っ、・・・気持ち、いい、よ・・っ、日向・・っ」
「・・ああっ、や、ああッ、・・ふぅ、んっ・・み、すぎ・・っ、・・あ、イイっ、・・んっ、あ、や・・っ、イイ・・っ」
反応が特にいいところを探り出し、そこばかりを攻める。日向の乱れた髪が汗ばんだ額や頬に貼りつく様が、色っぽかった。涙の滲む目元に口づけながら、三杉は更に激しく日向の中に突き入れる。悲鳴のような声を上げて、それでも足を絡めてくる日向のことが愛おしくて仕方がなかった。
「アア、ンッ んう・・・」
「・・ひゅう、が・・っ」
猛った自身を抜こうとすると、日向が離すまいとばかりにきつく締め付けてくる。自分の方が、それほど長くは持たないだろうと三杉には思えた。薄く開いた日向の口から、赤い舌が見え隠れする。追いかけるように口付け、日向の熱い舌を引き入れた。互いに夢中になって吸い合って、溢れて零れる唾液も啜った。どんな刺激でも快楽となった。
「あ・・・あ、ん・・ふぁ・・っ、あん、ンン・・っ」
気持ちがイイ、そのまま奥まで、もっと挿れて、もっと欲しいと素直に強請る日向に対して、三杉は眉根を寄せて堪える。
「ん・・ぅっ、あ、もう もう、イキたい・・、イク・・っ!、だから、もっと奥・・・!」
三杉のこめかみから汗が滴り落ちる。それを手の甲で拭い、日向の足を再度抱えなおした。もっと奥まで入るようにと角度を変える。
「君の中・・すごくきつくて、熱い・・・。日向、・・・気持ち、いいよ・・・」
パン、と幾度も音をたてて、日向の尻に三杉の腰がぶつかる。はあはあ、と荒い呼吸音が短く続く。限界が近づいていた。もうすぐ二人とも昇り詰めるだろう。もう何も 目の前の身体に挑むことしか、互いに考えられない。
「・・・ひゅう、が・・っ!」
「 あ・・っ!」
日向の中が一層淫らにうねり、ギュ、ときつく三杉を締め付ける。その瞬間、とうとう耐えられずに三杉は達した。長く、強烈な快感を伴う射精だった。同時に日向も絶頂を迎えていた。
「・・・は、あ・・っ、・・・日向・・」
「・・・・・あ・・・」
出し切った後も中に留まって、三杉は胸を大きく上下させる日向にキスをした。唇だけでなく、頬にも額にも、鼻の先にも、瞼の上にも。何度も何度も、優しく愛おし気に。
「日向・・・」
「・・・みすぎ」
日向も優しい声音で名を呼んだ。三杉の胸に温かいものが広がる。
だがそれでも日向はこの先、自分だけでなく、貴久にもその体を抱かせるのだ。同じような声音で貴久の名をも呼ぶ。三杉は日向の濡れた肢体をきつく抱きしめた。そんな三杉の背を、日向はゆっくりと撫で続けた。
***
「君が淳のことをどういう目で見ているのか、知っているよ」
そう言われた日のことを、昨日のことのように日向は覚えている。
あれは高校に上がったばかりの頃、三杉邸に遊びにきた日のことだ。
普段は三杉が家に日向を招くのは、家人が留守の時が多かった。だがその時は、仕事の都合か何かで貴久が家に戻っていたのだ。
挨拶をしようとした日向に向かって貴久が最初に投げたのが、その一言だった。
「・・・・・」
「君が淳を好きだということは知っている。・・・それがいわゆる、友人といった類のものではないこともね」
「一体なにを・・・」
三杉はその場にいなかった。日向を寮まで送り届けるための手配で、一時的に日向の傍を離れていたのだ。
「君たちは男同士で・・・きっと難しいだろうね?」
「・・・・・」
「それに、淳はこの家の大切な一人息子でね・・・。いずれはこの邸も会社も、継いで貰わなくてはならない。私の言っている意味が、分かるね?」
日向は警戒するように、眦を上げてきつい目で三杉淳の父親 三杉貴久を見返した。
「・・・俺に、何と答えろと言うんですか?」
だが次に続く貴久の言葉は、日向の予想を超えたものだった。
「あの子には決まった相手が既にいる。あの子に相応しい娘を、私たちが用意しているからね。本来なら、君のものには絶対にならない。 だが、もし君が私のものになるというなら・・・そうしたなら、引き換えにあの子を君にあげよう」
「・・・・どういう意味ですか」
「そのままの意味だよ。君が私のものになるのなら、あの子は君のものになる。・・・どうかな。君にとって、これは飲めない条件かい?」
貴久の表情には薄く笑みが浮かんでいた。息子がたまに見せるのと似た、シニカルな表情だった。
「 信じてもいいんですか?」
「最終的には、淳の気持ち次第だろうけれどね。だが君たちがどうなろうと、私はとやかく言わないよ。・・・君さえ私との取引に応じるというのなら」
日向は正面から貴久に向き直った。この大きな館の主であり、この家における全ての権限をもつ男に。 日向の恋する男の、父親に。
「俺があなたのものになれば 」
「淳は君のものになる」
日向は差し出された貴久の手を取った。三杉に似た綺麗な指をした、だがそれよりも一回り大きな手だった。記憶におぼろげに残る、父親の手と同じくらいの大きさだと思った。
「契約を違えたなら、俺は貴方を許しません。絶対に」
「私は自分が損するようなことを、自分からはしないよ」
笑顔で答える相手に日向は自分から近寄り、その厚い胸に手のひら当てて、少し背伸びをして口づけた 。
****
「・・痛・・っ」
目を覚ました時も、まだ寝台の上だった。書斎の奥の、続き部屋の寝台の上。シーツも毛布も枕も、何もかもがグチャグチャだった。
寝返りを打っただけで、腰が鈍い痛みを訴える。無理をしすぎたと思った。昨夜は二人の男を代わる代わる受け入れたのだ。入れ替わりで何度も、この家の父親と息子の両方を。
左側に首を捻れば、何度も自分を抱いてきた壮年の見目良い男。右側に首を捻れば、寝顔すら貴公子然とした若く美しい男。
「・・ふ」
日向は小さく笑った。貴久はそもそも勘違いをしていたのだ。間違っていた。ある部分では。
「・・・俺が欲しいのは、息子の方だけだなんて いつ言いました?」
取引を申し出てきた時の貴久の顔を思い出すと、今でもあの瞬間の高揚した気持ちが甦る。
自身の子供と同い年の日向を、本気で欲しがっていた。余裕のある大人の顔をしながら、その実、日向が拒否することを怖がってもいた。それを見抜くのは 幼い頃から大人の昏い部分を見てきた日向には、難しいことではなかった。
もちろん、最初は貴久のことは何とも思っていなかった。だが貴久が自分のことを、息子を差し出してまでも欲しがっているのだと理解した時 おそらくその瞬間、日向は三杉に対するのとはまた違う感覚で、貴久のことを意識し始めたのだ。
「・・・だってあの時。すごく・・可愛いって思ったんだ・・・」
日向は首を伸ばし、左隣で眠る貴久の頬にキスをした。
その途端、背後から強い力で抱き込まれる。そのままひっくり返されて、厳しい顔つきをした貴公子と目が合った。
「・・・おはよ」
「おはよう、じゃない」
いつもの三杉らしからぬ、その拗ねたような甘えた態度が可笑しくて日向は笑った。さきほど貴久にしたのと同じような、軽いキスをその唇に与える。
「日向。君は 僕と父と、本当はどちらが 」
日向は三杉の唇に、人差し指をそっと押し当てた。口を塞がれた形で途中で遮られた男は、不満そうに鼻を鳴らす。
「お前も可愛いよ」
日向は友人ではなく、今は恋人になった男 二人いる恋人の、その片方 に柔らかく微笑みかけて、優しくその唇に口付けた。
END
2019.05.19
back top