~ promise ~ <6>
打ち上げは賑やかに行われた。
10代半ばの少年たちらしく、用意された菓子はあっという間に無くなり、各自が持っていた菓子までが供出され、
アルコールも無いのに至る所で盛り上がっていた。
反町ら騒ぐのが好きなメンバーは、風呂にも先に入り、万全の態勢で臨んでいた。
その反町に「三杉はどうしたのか」と尋ねられたが、若島津が適当に返事をしてくれたので、嘘や誤魔化しが苦手な日向としては助かった。
だがその日はもう、日向は誰に話しかけられても、何をしていても、少しも集中できなかった・・・。
*****
一夜明けて次の朝は、軽くポジション別に練習を行い、ミーティングをして午前中に解散という流れだった。
三杉は練習に加わることはなく、コーチと何事かを話し込んでいるのを日向は見た。
顔色は悪いようには見えない。
気になって自然と目で追いかけているようで、三杉と何度か目が合うが、話しかける機会はなかった。
いつものように近くに走っていって、「今日はもう大丈夫なのか」と話しかければいいだけなのに、それができなかった。
「日向さん、なんか今日はノッてないね。・・・どうかしたの。体調悪い?」
「別に・・・何でもねえよ」
反町に聞かれるまでもなく、練習に集中できない自分に嫌気がさした。
何かが閊えたような気分のまま、日向は午前中を過ごした。
ようやく日向が三杉と言葉を交わすことができたのは、もう解散という時だ。
朝食の席にも三杉はいなかったので、それがその日初めてで、最後の会話となった。
「じゃあ・・・な。」
「じゃあ、また。次に会える時を楽しみにしているよ」
三杉には迎えの車が来るとのことだったが、日向たちは最寄り駅までバスだった。
帰り支度を整えてバス停に向かうところで、見送りに出てきた三杉とようやく会えたのだ。
言いたいことは色々とあるような気がしたが、面と向かうと、結局何を話せばいいのか日向は分からなかった。
日向の瞳に隠しきれない不安の色があるのを見てとり、三杉の顔も曇る。
「そんな顔をしないで欲しいな。・・・これでも、後悔しているんだ。君に知らせるべきじゃなかった」
君が他人のイメージよりもずっと繊細で優しいのは、百も承知していた筈だったのにね・・・と付け加えた。
「・・・手術の日にちが決まったら、教えてくれよ」
「悪いけれど、連絡はしないよ。・・・・大丈夫。ちゃんと戻ってくるから。ほら、君ももう、行ったほうがいい」
バス亭では既に反町や若島津が並んで待っていたが、ちょうどバスが入ってきたところでもあった。
「日向さん。そろそろ行くよ」
「ん・・・」
若島津に呼ばれて、日向はバスに向かう。乗りこんでから、反町が取っておいてくれた窓際の席に座った。
窓の外には、三杉が立っているのが見えた。日向は三杉から目を離せなかった。
三杉も日向を見つめていた。
いつもの穏やかな、何も心配事など無いというような笑顔だった。
日向が子供の頃から知っている、柔らかな中にも凛とした強さのある瞳だった。
・・手術が終われば、もう一度会える。
日向は、それを信じるしか無かった。
それは、三杉が日向に回答を出す期限とした日でもあるけれど。
バスがゆっくりと動き出す。
三杉の姿が小さくなって、日向は窓に額を押し当てた。
ガラスはひんやりとしていて、ふと昨夜の三杉の冷たい手を思い出した。
正体の見えない黒い靄を払うように、日向は頭を一振りした・・・ 。
END
2012.01.13
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