~ レベル8の関係性 ~




「ゥン・・・っ、ん・・、んふ」

東邦学園高等部の寮の一室。明かりをつけた部屋の中で、若島津は逸る気持ちもそのままに、手荒く日向のTシャツを脱がせる。首が抜けたところで日向の唇を性急に奪い、そのままベッドに押し倒した。

「んっ・・・あ、あっ」

脱がせた服をベッドの下に放り投げると、若島津は本格的に日向を攻略にかかる。日向の悦ぶところなら既に分かっている。耳に首筋に脇に胸にと、若島津は手と唇を丹念に滑らせて、日向にあえかな声を上げさせる。

一方の日向は若島津からの愛撫に感じながらも、それを素直に表すのは恥かしくて出来るだけ隠そうとする。今も枕を使って自分の声を遮ろうとするので、邪魔だと言わんばかりに若島津が取り上げて、それも脇に放り投げた。

「あ、何、すんだよ・・っ!」
「いらないよ。あんたの顏が見えない」
「や・・だって、声が」
「聞こえたって、俺は構わない」

この部屋は角部屋だし、唯一の隣は反町と島野の部屋だ。聞こえたって構わないと若島津は本気で思っていた。

「馬鹿・・!俺は絶対、嫌だからな・・ンンッ!」

馬鹿と言われたって、嫌がる姿も可愛くて見ていたいと思うのだから、もうどうしようもない。若島津は憎まれ口を叩く日向の胸の突起の片方を指でつまみ、もう片方を口に含んだ。吸ったり舌で転がすようにすると、ぷっくりと立ち上がるのが分かる。

「あ!・・や、それ、や、やだ・・!」
「どうして?気持ちいいでしょ?」

日向の背が撓んで、若島津の肩に置いた手に力が入る。若島津を見上げる瞳も潤んで、日向が感じていることを如実に教えてくれていた。

「そんなとこっ、女じゃないんだから・・・っ」
「女じゃなくても、気持ちいい筈だよ」
「やだって・・・!」
「やだやだ言わない」

若島津は日向の唇を塞いで黙らせる。舌を日向の咥内に差し入れると、日向もおずおずとそれに応え始めた。

(可愛い・・・。日向さん、可愛い、可愛い、可愛い)

深く、何度も角度を変えては日向の唇を堪能する。上あごを舐めると、日向が鼻にかかった甘えたような声を出した。水音を立てながら夢中になってお互いの唇を貪っていると、やがてどちらのともつかない混じり合った唾液が溢れ出した。

「あま・・・。日向さんって、ほんとにどこもかしこも甘いね」

唇を離して、日向の濡れた口元を指で拭ってやる。
はあはあと荒い呼吸を繰り返す日向は、まだ快感に捕らわれいるのか、ぼんやりしているように見える。若島津はそのまま手を下半身へと降ろしていった。

「あ・・!や、やめ・・・っ!」

下着の中に手を入れて、日向のものをやんわりと握る。日向はビクン!と大きく身体を震わせて、若島津の背に手を回してしがみついた。

「あ、あ、あ・・・」
「好きだよ。日向さん、大好き。気持ちよくなって」
「・・あ!や、ちょっと、待っ・・アアッ!」

日向の手を離させて一旦身を起こすと、若島津は日向のハーフパンツと下着を一気に引きずり下ろした。緩く立ち上がったものを手で弄びながら、日向に口付ける。

「ンンッ、ンンッ・・・ふぁっ!」

やがて日向のものが先走りで濡れてくると、若島津は手の動きを速める。日向の腰が揺れるのを好きなようにさせ、咥内をじっくりと味わった。ねっとりと舌と舌を絡めて軽く食む。

「あ、あ、あ!」

日向がイヤイヤをするように首を振った。幼いしぐさなのに、乱れた前髪が汗に貼りついて色っぽい。若島津はそのしどけない姿と甘い嬌声に誘われるように、日向の胸に色づいた果実へと身をかがめた。優しく吸うと日向の内股が細かく震え始めた。

「あ、や、も、離し・・も、イク・・!」
「我慢しないでいいよ」
「やだ、あ、イっちゃう・・・!・・・アアッ!」

若島津が手にしたものを強く扱きあげると、あっけなく日向は果てた。

若島津は手のひらに受け止めた精液もそのままに、ベッド仰臥して呼吸を整える日向の唇にちゅ、とキスを落とした。
それから日向の力の抜けた足を開いて、その間に自分の身体を割りこませる。日向はされるがままだ。だがさすがにトロリとした白濁の液体をつけた指が自身の下肢の奥へと差し入れられた時、ピクリと体を震わせた。

「わ、わか、島津・・!」。・
「待って。日向さん、そのまま動かないでいてね」
「あ、だって・・・」

日向は若島津の肩を抑えて、焦ったような声を出す。

「やっ!待っ、待てよっ!それは駄目だって・・・!」
「駄目って、どうして駄目なの」
「どうしてって・・だって」
「俺は日向さんを抱きたいんだって、ずっと言ってる。こんなの、生殺しだよ」

ここまでしておいても、最後の一線は未だ日向が超えさせてくれていなかった。触り合うところまでは許してくれるのに、毎回この先に若島津が進もうとすると、「まだ待って欲しい」と言って逃げを打つのだ。
若島津にしても、想いが通じた以上は無理強いしてまで急ぐことではないと思っていた。段階を踏んでいけば、いずれは全て手に入れられるのだから、と。
だがあの日、日向に告白して初めてのキスを交わしたあの日から、もう一年近くが経つのだ。

「日向さん、言ったよね?あの日、このまま最後までいっちゃおうかっていう俺に、そんなに待たせることはないと思うから待ってって。そう、言ったよね?」
「・・・ゆ、ゆった・・・」
「あれからどんだけ経ったと思ってるの。日向さんにとっての1年って、そんなに短い時間なの?」
「・・・そういうわけじゃ」

日向にしたって、若島津の言い分は分かる。
確かに『それほど待たせないから、整理する時間をくれ』というようなことを言った覚えがある。それは一時しのぎでそう言った訳でもないし、騙すつもりも無かった。

だが、ここまでの行為だってものすごく恥かしいし、最中も終わった後も、日向は若島津の顔をまともに見られなくなる。そんな状態なのに、とてもじゃないけれど最後までだなんて耐えられると思えない。しかもあんなところに、あんなものを入れられるだなんて。
一年近く前、一応念のためにと若島津から教わっておいた男同士のセックスのやり方は、初心だった日向に衝撃を与えるには十分だった。

「だって!そんなことをするだなんて、知らなかったんだよ!」
「だからあんたは俺に任せていればいいんだって」
「は、恥かしいし・・・!」
「そのうち慣れる」
「・・でも、痛いんだろ!?」
「そりゃあ、初めてはね。でもそれだって慣れるよ」
「だ、だけど、そんなに痛かったら、俺、静かになんて出来ないかもしれない・・・」

声が・・・と微妙に目を逸らせながらモゴモゴと口ごもる日向に、若島津の目がどんどん据わっていく。

「分かりました。要はバレたら困るから、寮だと嫌だってことですよね。声を出してもいいって環境なら、多少の痛みや恥かしさは慣れるまで我慢してくれるんですよね」
「・・・・」
「じゃあ、夏休み。インハイ終わった後に明和に帰った時、俺の部屋でやりましょう。俺の部屋なら離れだし、多少騒いだところで問題ないことはあんたも知ってるよね」
「わ、若島津」
「条件つけてもいいですよ。無失点でインハイ優勝したら。・・・それくらいのご褒美は、くれてもいいでしょう?」
「・・・分かった。」

インハイ優勝したら。
当然、優勝はするつもりではいるのだけれど、無失点というと若島津にしても容易ではない。だが日向に覚悟を決めさせるのだから、これくらいの条件はつけていいだろうと思われた。

「約束だよ。・・・・ところで、今の俺のこれは、どうしてくれるの?」

若島津がにっこりと笑って自分の固くなった下半身をゴリゴリと押しつけてくる。日向は顔を赤くしながら、その場所に手を延ばした。












******





高校2年の夏、インターハイを東邦学園サッカー部は2年連続、2度目の優勝という結果をもって終えた。
決勝の相手はこれも昨年度と同じで、岬率いる南葛高校だった。

「小次郎。今年も君に勝てなかった。でも、選手権は絶対に僕らが貰うからね」
「ああ。全力で掛かってこいよ。とはいっても、俺らも譲る気はさらさら無いけどな」
「・・・せめて若島津くんから、1点をもぎ取りたかったよ」

帰りのバスに乗り込む前、近くにいた岬に声を掛けられた日向は「また決勝で会おうぜ」と返した。

勝利は素直に嬉しかった。この時のために、全員が努力を重ねて厳しい練習にも耐えてきたのだ。ただそれでも、一旦勝負がついてしまえば過ぎたことだった。ましてや高等部における日向の目標は3年連続のインターハイ、選手権の完全優勝だ。今日の結果は通過点に過ぎない。
既に意識は次の大会へと向いていた。

だが。

「日向さん?何か難しい顔してるけど、どうかした?大丈夫?」

バスの中で反町に言われた。
今回ばかりは多少、事情が違う。新人戦や選手権の予選が始まる前に、片付けなければならないことがあるのだ。
日向の隣に座っている若島津は、何食わぬ顔で腰かけて日向と反対側の窓の外を眺めている。

     まさか、本当に無失点で終わらせちまうなんてよ・・・)

この大会の若島津に関しては、日向にしても文句のつけようのない出来だった。あの岬にさえも点を許さなかったのだから。
若島津はあの日に日向の前で宣言したとおり、鉄壁の守りで1点たりとも失うことなく、東邦学園サッカー部をインターハイ優勝に導いたのだ。

だがそれは同時に、以前に二人が交わした契約の履行を意味している。

(・・・約束は約束だもんな)

日向は眉を寄せてしかめつらをして腕を組む。それを目にした下級生たちが『さすがは日向さんだよな!インハイ優勝したって浮かれてなんかいないもんな!』『勝って当然って感じが、クールでホントにかっこいいよな!』と密かに囁き合っていることも知らずに。

(・・・うん。大丈夫だ。だって、実際にやっている人たちがいるんだもんな)

東邦学園の寮へとバスが向かう中、車窓に移りゆく景色を半ば睨みつけながら、日向は何とか自分を納得させようとしていた。

(きっと痛いも恥かしいも、我慢できねえことは無えよ。もっと大変なこと、いくらだってやってきたんだしさ)

それこそ沖縄の海で波に呑まれそうになったあの特訓のことを考えれば、大抵の苦痛は今でも耐えられる。


とにかく覚悟を決めなければならなかった。
日向は狭い座席のシートに深くもたれて、隣にはばれないように静かにゆっくりと、大きな息を吐いた。







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