VT-62 シングルアンプ
(より良い音を求めてどのように試行錯誤を繰り返したか、改修の記録)

 

VT-25 (別名10)とその耐震性を向上させたVT-25A、プレートの最大定格電圧をアップさせたVT-62(801)は開発当初は送信管として、後にオーディオ用電力増幅用として使われてきた、息の長い真空管です。この当たりの経緯はEU-VALVEのホームページに詳しく掲載されています。また現在では数少なくなったトリエステッデ タングステン 
(トリタン)フィラメントを持つ真空管としても良く知られてり、送信管として多数使われてきたことから比較的低価格で容易に購入することができます。出力はあまり大きくはない(VT-25で約1.5W、VT-62で約3W)ものの送信管特有のちょっと高域に寄った明るめの音と、トリタンフィラメントが電球のように明るく輝き、雰囲気を演出してくれるので以前から変わらぬ人気を保っています。                                    
今回、VT-62シングルアンプの製作を思い立ったのもまさにここに挙げた理由からで、見た目の綺麗な、トリタンフィラメントからの雰囲気のあるアンプ、それに加えて音の良いアンプという欲張りな目的を実現させようとしたアンプ作りの顛末を書いていこうと考えています。もしも同じようなアンプを作る方がいれば、多少の参考になるかと!  
    


アンプを上から、そして下から内部を見ると

左の写真で上列:出力トランス2個、チョーク、電源トランス。中列:インターステージトランス、WE板抵抗(穴が3個ある)。下列:ECC-32,ECC32,VT-62,VT62,5R4と並んでいます。平滑用コンデンサーは右図のソーレンフィルムコンデンサーを使っています。整流管5R4は「入力側のコンデンサーは4uF以下」が決まりですが、ここでは御法度破りの15uFとしています。出力側に比べてちょっと小さいのは心が痛むからです。写真を見ていただくと、こんな色のタンゴのトランスはあったのか?と思われるでしょう。これは新品のトランスを買ってきたとたん、半艶消しの緑に塗り直してしまったからです。もちろんそれに合わせてシャーシーも緑のツートンカラーに塗り直してあります。このようにお仕着せの黒やグレーのままでなく、自分の好きな色にコーディネートしてみるのもアンプビルダーの心意気そして特権でしょう。                    


アンプの構成と周波数特

 
真空管アンプはトランジスタアンプと違って、数字の上のワット数は必要ないとは言われていますが、それでも小さい よりは大きい方が良いと考え(作る手間は一緒ですから)、VT-62を使うことにしました。シンプルな構成の方が音への影響も少ないのではというあまりにも単純な(純粋な)考えから、大枠としては無帰還の2段増幅、パラレルフィード・トランス結合のオール3極管シングルアンプという構成としました。もちろん出力管は球に優しい自己バイアスです。 使用している主な部品はECC-32 (Mullard), VT-62 (HYTRON),5R4GY (RCA), インターステージトランス(Hammond 834), 出力トランス(TANGO FW-20S-14), 電源トランス(Tango MS105), 電源チョーク(タムラ A-395), 電源平滑コンデンサー(Solen 15uF, 22uF), VT-62カソード抵抗(WE 板抵抗)等です。段間の電流カットのコンデンサーにはコーネルデブラーのフィルムコンを、またカソードのバイパスコンデンサーにはSPURAGUEのATOMケミコンを使用、抵抗は通常1Wの金属皮膜を使っています。                                 
 動作の条件は, B電圧=617V、Vpk(VT-62)=549V, グリッドバイアス電圧=53V, プレート電流は23mAです。入力電圧0.6Vで最大出力3.0Wが得られています(5.8Wで飽和)。残留ハムの電圧は0.7mVです。回路の概要と周波数特性は次のようになっていますが、 10kHzで3dBの減衰は特性を重視する方には物足りないものです。それでも音を聞いて頂ければ納得のアンプだと、ちょっぴり自身を持っています。まあ、特性が良いだけならトランジスタアンプに適うわけありませんから!    詳細な回路図はここに在ります。


改善のポイント

 
現在でも音を聞くと、これで良いのではと感じることが多いのです。しかしせっかくアンプを作ったのですから、できる限り音質をアップさせてやらないと可哀想です。ドライバー段の動作条件はインターステージのドライブという点、終段の2次歪みの打ち消しという点から非常に微妙なものが有ります。そこでECC-32の負荷抵抗とカソードのバイアス用抵抗をいろいろと音を聞きながら変化させてみることにしました。当初はインターステージの入力インピーダンスを20kΩとし(インターステージトランスとインピーダンスマッチングが取れるように)プレート抵抗30kΩ、カソード抵抗750Ωでしました。爽やかな音で、そのままでもとても気に入っていたのですが、トータルゲインが不足はいかんともしがたく、ここから試行錯誤が始まりました。まずインターステージトランスの入力インピーダンスを5kΩに変更、それに伴いECC-32の負荷抵抗を15kΩ、電流増加のためカソード抵抗を510Ωまで小さくしました。すると、出てきた音はボーカルが引っ込んでしまって、どうしようもなくなっていました。最終的に負荷抵抗を18kΩ、カソード抵抗を620Ωとしたところ、もとのような爽やかな音が戻ってきました。現在はこの値に固定してしばらく聞いてみようと考えています。


またまた改修
 
しばらく聞いてみようと考えて、、、、と書いたそばから改修です。聞いていて、なんか音が軽いというか、ふわっとしている感じがして、だんだん物足りなくなってきたのです。こう思っているときに、松並さんから「吉祥寺のメグでの試聴会に出していたVT-62 pp(これは2000年3月の久喜での松並アンプの発表会にも登場とのこと)では電流をいっぱい流しているよ」と教えていただきました。早速VT-62のカソード抵抗のタップを変更して1.5kΩに減らし、電流を30mAに増やしました。これでもプレート損失は16.5Wと上限の20Wからはまだ余裕があります。その結果、出てくる音は重心が下がって、変な表現ですが存在感の有る音になったようです。松並師匠に感謝感謝です。   (1999.12.27)


本格的なVT-62 アンプの改修(6V6GT&トランスドライブへの改造)

 

VT-62アンプの決定版を目指して作製したVT-62シングルアンプのドライバー段の強化を予定しています。つまりこれまでのパラレルフィードによるトランスドライブから三極管接続の6V6GTをドライバーとして インターステージトランスに、電流を流せるTangoのNC-14を、初段には三極管同士の干渉の少ないECC-33を左右に振り分けて使う事にします。さらにVT-62とVT-25のどちらでも差し替えて使えるよう、B+電源電圧をスイッチ一つでVT-62用の550VとVT-25用の400Vとに変更できるようにするつもりです。

VT-62をこれまでの自己バイアスから固定バイアスに変更することにしました。これは大きなパワーが取れることと新しい回路を試してみたいという好奇心からです。B電源は球で整流していても、固定バイアス電源はダイオードで整流することが多いのですが、今回はここも球(6AL7)で整流しようと考えています。この場合、都合の悪いことにヒートアップの時間がVT-62は直熱管なので、直熱管と傍熱管の立ち上がり時間の違いから電源オン時にゼロバイアスとなり過電流が流れてしまいます。従って、これを避けるための工夫が必要です。

シャーシーの天板だけ購入して穴あけを始めました。当初はこれまでのものに見苦しくても穴を追加して、何はともあれ回路を組んで試して見ようと考えていましたが、エイやっと新しい板にすることにしました。                  (2000.7.17)

 

穴開け加工が終わったシャーシーです。トランスドライブとするので、タンゴのNC-14がオレンジ色の場所に取り付けられます。ドライバーの球は緑の場所に左からECC-33, 6V6GTY, 6V6GTYと並びます。VT-62のバイアス回路をこれまでの自己バイアスから、整流管を使った固定バイアスに変更するので、それ用の整流管バイアス電圧調整用トリマ、電圧チェックピンが青の場所に並ぶことになります。       (2000.7.30)

VT62_TopView2VT62_btmview2

天板塗装の後、組み上げ配線しました。ドライバー段のソケット周りが少しだけ窮屈になっています。VT-62のバイアス回路はこの段階では前と同じ、自己バイアスとなっています。固定バイアスの電源はシリコンダイオードではなくて真空管(6AL5)を使うつもりです。しかしながら、その場合には電源オン時のバイアス電圧の立ち上がりの遅れを遅延リレーを使って対処しなければならず、製作の上からは面倒このうえありません。自己バイアスで取り敢えず音が出るようにしたのは、この面倒な点は後回しにしてでも、音を聞きたくなったからです。その肝心な音は、良く言われる送信管の軽やかな音とは別な、「音の飛びがすごく出ている」ように感じています。現段階での暫定的な回路を次に示します。
こんどは固定バイアスにチャレンジです。                      (2000.8.23)

vt62_Circuit2

トラブル発生

(9月11日)昨日の晩(今朝)は、改造してエージング&テスト中の801Aシングルを
のんびりと聞いていたら、右側でプチプチぼそぼそと言いだしてしまいました。タンゴのPTが余裕はみているものの可成り熱くなるので自己バイアスのケミコン(ATOM)が不良になったかと想像しています。熱設計がなってないのでしょうか。ケミコンを交換して様子をみることにします。                        

(9月12日)調子の悪い801Aシングルは自己バイアスのケミコンを交換しましたが、様子が変わったものの依然としておかしいです。無信号時は良いのですが、信号が 加わるとノイズがでます。飛びつきの発振か?ついにオシロの登場です。

(9月15日)発振はドライバーの6V6GTかと思って、球を左右入れ替えてみました。すると何事もなかったかのように動作しているではありませんか。いったい何が?
現在の結論=6V6GTに使ったOMRON製のソケットの接触不良
(安いと言って飛びついては駄目)

  周波数特性と入出力特性を測りました

改造後の801Aシングルアンプの周波数特性は特に高域が以前は7kHzで-3dBだったのが45kHzと大幅に改善されています。これはパワー管6V6GTとインターステージトランスNC-14の組み合わせによるものでしょう。また、出力もノンクリップで3Wだったのが4.5Wと増大しただけでなく、クリップする様子もゼロバイアスでスパッとカットされていたのが、正弦波の頂上が次第につぶれるように変わってきました。完全に飽和するのは約8Wのようです。                      (2000.9.17)

vt62FreqResponce2vt62_Po_Input2

 固定バイアスへの改造(計画中)

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