「Takumar」一族における標準レンズの歴史

 「標準レンズ」の定義ですが、35mmフイルムを使用したカメラの先達ライカが標準としたのが焦点距離50mmレンズだったからという説があります。それはともかくとして、一般的には40mmから60mmの間の焦点距離のものを「標準レンズ」としているようです。ここでは、その範囲の「Takumar」銘の付いたレンズについて、進化の概要を述べようと思います。

Takumar 1:3.5 f=50mm

 3群4枚構成テッサー型です。 

 1952年5月に「ASAHIFLEX」のセットレンズとして誕生しました。当初はクリック絞りでしたが、翌1953年に「ASHIFLEX TA」のセットレンズとされたのはプリセット絞りでした。

 1957年5月に「ASAHI PENTAX」が発売されると、M42マウント化されたとのことですが、極少数の製造だったようです。

 テッサー型は、当時最も多く使われたレンズ構成で、3群構成という収差補正上必要最小限のものでした。また、表面数が6面と少ないため、表面の乱反射によって低下することが少ないため、コントラストの高い画像が得られたのです。

Takumar 1:2.4 f=58mm

 3群5枚構成ヘリヤー型です。

 1954年11月に「ASHIFLEX UB」が発売されると、翌12月に上級機としてセットレンズとされました。プリセット絞りです。

 1957年5月に「ASAHI PENTAX」が発売されるとM42マウント化されて、その普及型セットレンズとされました。

Takumar 1:2 f=58mm

 4群6枚構成ゾナー型です。

 1957年5月発売の「ASAHI PENTAX」の上級セットレンズとされました。プリセット絞りです。

Takumar 1:2.2 f=55mm

 5群5枚構成クセノター型です。

 1957年5月発売「ASAHI PENTAX」の輸出用セットレンズとされたようです。プリセット絞りです。

 旭光学工業においてこのクセノター型が次に使われたのは「smc PENTAX M 1:2 50mm」です。これは「ME super」の廉価版「MV-1」のセットレンズとして誕生したもので、貼り合せレンズを使わないことで製造コストを抑え、廉価にすることが目的だったものと思われます。

Takumar 1:1.8 f=55mm

 5群6枚構成変形ダブルガウス型です。

 1958年5月発売「ASAHI PENTAX S」のセットレンズとされました。プリセット絞りです。「ASAHI PENTAX S」は製造が少数だったため、このレンズも少数です。

 この変形ダブルガウス型は、多くのカメラメーカー、レンズメーカーに採用された、欠点の少ない超優秀なレンズ構成です。

Auto-Takumar 1:1.8 f=55mm

 レンズ構成は上記「Takumar 1:1.8 f=55mm」と同一です。

 5群6枚構成変形ダブルガウス型です。

 1958年5月発売の「ASAHI PENTAX K」 のセットレンズとされました。半自動絞りです。

 白黒ゼブラ模様の特徴ある鏡胴意匠でしたが、黒一色のものも極少数作られました。

 なお、輸出用は「Auto-Takumar 1:1.9 f=55mm」という表記でした。これは、開放F値を輸出先商社の基準に合わせたためと思われます。

 

 この半自動絞りの押ピンは全自動絞りの押ピンよりほんの少し中心寄りなので、「KAF2」マウントの電源ピンと干渉して、通常の「Kマウントアダプター」だと外し難いことがあります。それを避けるためには「Kマウントアダプター」のロック用板バネを外して装着すると問題解決です。

Auto-Takumar 1:2 f=55mm

 5群6枚構成変形ダブルガウス型です。「Auto-Takumar 1:1.8 f=55mm」とは直径の異なる別のレンズ構成です。

 1959年5月発売の「ASAHI PENTAX S2」のセットレンズとされました。半自動絞りです。

 1961年4月発売の「ASAHI PENTAX S2後期型」のセットレンズとしても使われ、その後期には「Auto-Takumar 1:2/55」という表記になっています。

Auto-Takumar 1:2.2 f=55mm

 レンズ構成は「Takumar 1:2.2 f=55mm」と同一です。

 5群5枚構成クセノター型です。

 1961年に輸出専用機「ASAHI PENTAX S1」のセットレンズとされたようです。半自動絞りです。 白黒ゼブラ模様の特徴ある鏡胴意匠でした。

Auto-Takumar 1:1.8/55

 レンズ構成は「Takumar 1:1.8 f=55mm」と同一です。

 5群6枚構成変形ダブルガウス型です。

 1961年4月に発売された「ASAHI PENTAX S3」のセットレンズとされました。完全自動絞りです。絞り環の回転方向が他と異なって「左」です。

Super-Takumar 1:1.8/55

 レンズ構成は「Takumar 1:1.8 f=55mm」と同一です。

 5群6枚構成変形ダブルガウス型です。

 1962年発売の「ASAHI PENTAX S3」のセットレンズとされました。「Auto-Takumar 1:1.8/55」の名称を変更しただけのものです。途中で絞り環の回転方向を「右」に変更しています。

 1965年にトリウムガラスを5群目に用いる変更が行われて、「ASAHI PENTAX SP」のセットレンズとされています。

 このレンズの鏡胴は、小変更を数多く行っています。

Super-Takumar 1:2/55

 レンズ群自体は「Super-Takumar 1:1.8/55」とまったく同一で、絞りリングを入れることでわざわざ開放F値を落としている不思議な存在です。クラス分けの必要上、営業上の都合でそうしたようです。

 5群6枚構成変形ダブルガウス型です。 「1:2/55」の表記を黄文字にした、いわゆる「黄文字タクマー」です。

 1962年発売の「ASAHI PENTAX S2 super」のセットレンズとされました。

 1968年発売の「ASAHI PENTAX SL」のセットレンズとしても使われたようです。

Super-Takumar 1:1.4/50

 6群8枚構成変形ダブルガウス型です。

 1964年7月に 発売された「ASAHI PENTAX SP」のセットレンズとされました。4群目をレンズ3枚の貼り合わせとしています。これがいわゆる「8枚玉タクマー」です。

 亭主はこれの上梓は1962年であると確信しています。「Super-Takumar」という新たな機器名称を考え付かせた大元であるとも考えています。

 6群7枚構成変形ダブルガウス型です。

 同一名称ながら、1965年にレンズ構成を大きく変更しました。5群目にトリウムガラスを用いています。これがいわゆる「7枚玉アトムタクマー」です。

 末期に開放測光鏡胴に変更し、レンズコーティングを7層にしているものが少数存在します。

 このレンズ構成はKマウント化され、結局、「smc PENTAX FA 1:1.4 50mm」まで続きました。PENTAXレンズの中で、最も長命と言えるでしょう。

 また、このレンズ構成の一眼レフ用標準レンズは、少なくとも国内では最初のものでしょう。他社がこのレンズ構成になるのは後のことです。

Macro-Takumar 1:4/50

 3群4枚構成テッサー型です。

 1964年に発売された旭光学工業最初のマクロレンズです。プリセット絞りで、ダブルヘリコイド全群繰出しにより「等倍」倍率を得ています。

 多くの繰出量を得るために大型のヘリコイドを用いているので、非常に小さなレンズ群に比べて異様なほど大きな鏡胴となっています。もうすでに自動絞りの時代になっていましたが、ダブルヘリコイドのためにリンクを設けることが困難だったため、プリセット絞りとしています。

 マクロレンズにこのレンズ構成を採用した理由として、当時多くの「引き伸ばしレンズ」に用いられていた実績あるレンズ構成だったこともあるのではないかと思われます。得られる画像の平面性や歪曲収差の少なさなどがその特徴でしょう。このレンズ構成は「smc PENTAX M MACRO 1:4 50mm」まで継承されました。

Super-Macro-Takumar 1:4/50

 レンズ構成は「Macro-Takumar 1:4/50」と同一です。

 1966年に発売されました。全自動絞りとし、シングルヘリコイド全群繰出しで「1/2倍」としています。

 「Macro-Takumar 1:4/50」の自動絞りではない不便さが不評だったのか、早々にモデルチェンジしています。「等倍」を犠牲にしても、自動絞りの利便性を優先させたのでしょう。

Super-Multi-Corted TAKUMAR 1:1.4/50

 レンズ構成は「Super-Takumar 1:1.4/50」と同一です。

 1971年開放測光鏡胴に変更し、レンズコーティングを7層にしています。

 「ASAHI PENTAX SP」のセットレンズです。 この機体は絞込測光ですが、将来の開放測光化を視野にした先行変更ということでしょう。

Super-Multi-Corted TAKUMAR 1:1.8/55

レンズ構成は「Super-Takumar 1:1.8/55」と同一です。

 1971年開放測光鏡胴に変更し、レンズコーティングを7層にしています。

 「ASAHI PENTAX SP」のセットレンズです。 この機体は絞込測光ですが、将来の開放測光化を視野にした先行変更ということでしょう。

Super-Multi-Corted TAKUMAR 1:2/55

レンズ構成は 「Super-Takumar 1:2/55」と同一です。

 1971年開放測光鏡胴に変更し、レンズコーティングを7層にしています。

 「ASAHI PENTAX SL」のセットレンズです。

Super-Multi-Corted-Macro-TAKUMAR 1:4/50

 レンズ構成は「Super-Macro-Takumar 1:4/50」と 同一です。

 1971年開放測光鏡胴に変更し、レンズコーティングを7層にしています。

SMC TAKUMAR 1:1.4/50

レンズ構成は「Super-Takumar 1:1.4/50」と同一です。

 1971年発売の「ASAHI PENTAX ES」のセットレンズとされました。開放測光鏡胴に変更し、レンズコーティングを7層にしています。ピント環をゴム巻きとし、絞り環形状を変更しています。

 1973年発売の「ASAHI PENTAX ESU」及び「ASAHI PENTAX SPF」のセットレンズとしても使われました。

SMC TAKUMAR 1:1.8/55

レンズ構成は「Super-Takumar 1:1.8/55」と同一です。

 1971年発売の「ASAHI PENTAX ES」のセットレンズとされました。開放測光鏡胴に変更し、レンズコーティングを7層にしています。ピント環をゴム巻きとし、絞り環形状を変更しています。

 1973年発売の「ASAHI PENTAX ESU」及び「ASAHI PENTAX SPF」のセットレンズとしても使われました。

SMC TAKUMAR 1:2/55

レンズ構成は「Super-Takumar 1:2/55」と同一です。

 1974年発売の「ASAHI PENTAX SPU」のセットレンズとされました。開放測光鏡胴に変更し、レンズコーティングを7層にしています。ピント環をゴム巻きとし、絞り環形状を変更しています。