… 一本丸レールの輝き …
BELLOWSCOPE & BELLOWS UNIT
旭光学工業の簡易型ベローズ装置について
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2023/1/12 改訂
・ ここでは、1950年代から1960年代後半までのほとんどの国産カメラメーカーがそれぞれ自社のブランドで販売した「簡易型ベローズ(特許番号472839)」をOEM製造していた「小林精機製作所」が旭光学工業のために製造した「簡易型ベローズ」について取り上げます。 その特徴としては、何と言ってもアルミ製「一本丸レール」であることです。初期においては、この「丸レール」が根元で折り畳め、携帯時にコンパクトにできるという特長を持っていました。 しかし、一眼レフカメラが普及してその使用者が多様化し、強度や光軸精度などを要求されるようになると、それを確保することが難しいため、特徴的な折り畳み機構を止めてしまいました。それは1960年頃だと思います。その頃には一眼レフカメラがより大衆化して行ったことも、その操作には慎重さが要求されて、製造コストもかかる折り畳み式を廃止した理由なのかもしれません。 ・ 「小林精機製作所」がOEM製造し、旭光学工業が販売した「簡易型ベローズ装置」、という「括り」によって分類すると、時代が移るのに連れて行われた変遷の中で、製造時期を特定可能な幾つかの分類点が抽出できます。それは、
1. 一本丸レールが「折り畳めるもの」と「畳めないもの」、 2. 前面のネームプレートの形式が「ビス止め式のもの」と「ステッカー式のもの」、 3. ネームプレートの地色が「赤のもの」、「黒のもの」、「白のもの」、 4. ネームプレートに記された製品名が「BELLOWSCOP」のもの、「BELLOWS UNIT」のもの、「BELLOWS UNITS」のもの、 5. 駆動ダイヤルの「形」、「大きさ」、「色」、「表記の色」 6. カメラ台座背面に特許番号の記載が有るものと、無いもの
というようにです。これらの組み合わせを見ることで、時の流れを感じるのも一興かと…… ・ 1 一本丸レールが折り畳めるもの ・ (1) ネームプレート表記 <ASAHIFLEX BELLOWSCOPE> 旭光学工業が最初に販売した「簡易型ベローズ装置」は、アルミ製一本丸レールが根元で折れ曲がって畳めるものでした。その製品の名称は「ASAHIFLEX BELLOWSCOPE」で あり、その「BELLOWSCOP」というのは、OEM製造元の「小林精機製作所」が「簡易型ベローズ」に対して使用していた機器名称です。 この機種は1952年に誕生した「ASAHIFLEX」のためのもので、その独自規格「M37マウント」が採用されていました。それは口径37mmで、ネジピッチが1mmでした。下の画像が亭主の所蔵するそれです。折り畳みレール固定円盤ボルトがクロームメッキされていて、今もその美しさを良く保っています。 「BELLOWSCOPE」という製品自体は、当時多くの種類のカメラマウントで作られていたものですから、前後のマウント金具とネームプレートを交換するだけで様々な機種が出来上がる仕組みになっていたようです。事実、カメラ側マウント金具は取付穴径が40mmなので、同社製他機種のM42マウント金具などと容易に換装することができます。しかし、レンズ側マウントの方は前板の穴径が39mmと小さいので、互換性はありません。 ・
・・ このベローズ装置を使うためには「M37マウント」の交換レンズを入手しなければなりませんが、そのマウントの交換レンズは純正以外に存在していません。接写用途で使うのには、一般的には「標準レンズ」で良いのですが、その対象として2種類のものがあります。それは「Takumer 1:3.5 f=50mm」と「Takumar 1:2.4 f=58mm」です。これらはそれぞれレンズ構成が異なっていて、「3群4枚構成テッサー型 」と「3群5枚構成ヘリヤー型」になっていました。 ところで、このベローズ装置を取り付けて一眼レフカメラで「無限遠」からの一般撮影に使うためには、フランジバック値が「カメラのフランジバック値+35mm」以上であることが必要です。引き伸ばしレンズなどの「バレルレンズ」の場合だと 少なくとも焦点距離90mm以上のものとなります。純正の「M37マウント」のものにはそのような品は存在していないと思われるので、純正レンズを用いるなら接写以外には使えないという事になります。 どうしても無限遠からの一般撮影にも使いたいという場合は、条件に該当する「バレルレンズ」の方のマウントを「M37 P=1」へと改造する必要があります。非常に種類の多い「ライカLマウント」の引き伸ばしレンズの規格は「M39 P=1」ですから、旋盤による加工でマウント改造が可能なものがあるかもしれません。
ところで、亭主所蔵の「引き伸ばしレンズ」の中では、「EL-NIKKOR 1:5.6 f=80mm」と「EL-NIKKOR 1:5.6 f=105mm」 の「旧型」は「ライカL(39 P=1/26")及びM32.5 P=0.5」のダブルマウントという妙な造りですから、素人による手軽な改造の素材として向いています。このベローズ装置のカメラ側マウント金具内径は33.25mmですから、これを素材にすれば、下画像のように、実用的には取り付け可能になります。 しかし、残念ながら「EL-NIKKOR 1:5.6 f=80mm」の方は無限遠が来ません。亭主は別に「新型」の方も所有している「EL-NIKKOR 1:5.6 f=105mm」を 使って改造しました。 レンズ構成が「オルソメター」であるこの「引き伸ばしレンズ」は、大判カメラのフイルムを引き伸ばすことを用途としていましたから、イメージサークルが大きいという仕様です。そのため、あおり撮影に も支障なく対応することが出来ます。
なお、この<ASAHIFLEX BELLOWSCOPE>というネームプレートの付いた「M37マウント」のベローズ装置は、カメラが1957年に「ASAHI PENTAX」となって 「Sマウント」に変わった後の1960年ぐらいまで製造・販売が続いていたようです。亭主はダイヤルなど使用部品がその年代の製造である個体が存在することを画像で確認しています。このことにより、当時から旭光学工業が規格変更後の旧規格カメラに対するアクセサリー 供給を真摯に続けていたことが窺えます。
ところで、一本丸レールの折畳部分の固定方法ですが、真っすぐに伸ばした丸レールの後面にある穴にカメラ台座背面の円盤ボルト先端円錐部を捻じ込むことで行います。この穴は小径であり、しかも柔らかい素材であるアルミに開いた穴なので、極めて慎重な操作が必要です。 また、レールが真っすぐきちんと固定されていないと、ムービング・ダイヤルの操作がうまくいきません。ムービング・ダイヤル軸のピニオン・ギヤと一本丸レールのラック・ギヤの嚙み合わせが悪いと、柔らかなアルミのラック・ギヤの山が潰れて、操作不良となる恐れがあります。ギヤ同士が嚙み合っていることを念入りに確認して固定用円盤ボルトを締め込むなど、極めて慎重な操作が要求されます。いずれにしても、力任せは絶対禁物です。これを無頓着に行って破損させた事例が多かったものと考えられます。それが後年この折畳式を止めた大きな原因ではないかと推定しています。 ・ 分解整備のためなどでカメラ側マウント金具を外すには、カメラ台座両側面にあるマイナス芋ビス2本を緩めます。その上で、上部のつまみビスを緩めれば外せます。マウント金具を外した跡の穴径は40mmです。これは他の小林精機製作所製造の機種のほとんどと共通なので「M42マウント」にも換装可能 なのですが、折り畳みレール固定円盤ボルトがあるためにその分の厚さが必要です。上段右画像がしているように「BELLOWS UNIT」最終型のアルミ製のものでは薄すぎて、「K-3」など現役デジタル一眼レフでは干渉のため使えないので注意が必要です。 上の4枚組画像の内、下段右画像が純正のM37マウントである「Takumer 1:3.5 f=50mm」を取り付けたところです。このときには、カメラ側マウント金具は小径真鍮クロームメッキの時代のものを換装しています。 この品は「滅亡マウント」のベローズ装置ではありますが、このように現役デジタル一眼レフで使えるように工夫するのが、ちょっとした醍醐味でもあります。
レンズ側マウント金具は、表面4か所のビスを抜けば外せます。このビスはインチネジですから入手が難しいので無くさないように注意しましょう。 蛇腹は、レンズ台座側、カメラ台座側それぞれ内側の押さえプレート四隅にあるビスを抜けば外せます。蛇腹の表面コーティングが台座に張り付いていることが多いので、竹ベラ等で慎重に剥がします。あらかじめ接合面に無水エタノールを注入しておくことも有効でしょう。 レンズ台座にある前後駆動用のダイヤル装置ですが、蛇腹を外すことで分解が可能になります。ダイヤル装置上面にある4本のビスを抜くと、四角いプレートを外すことが出来ます。プレートの裏側には上辺の開いた台形状に成型された板バネが、プレート左右端2ヵ所のカシメピンで固定されています。片持ち状になっている板バネの両先端でダイヤル軸を押さえる という 極めて簡便な構造です。 アルミ地金色のムーブメント・ダイヤル( これが小林精機製作所が作ったベローズ装置中で最も初期の形式 )は、軸にカシメ・ピンで固定されています。真鍮製の軸には、中央部にピニオン・ギヤが一体の削り出しになっています。このピニオン・ギヤの両側の軸部を板バネの先端部で押さえ付けることでピニオン・ギヤとレールのラック・ギヤを一定の力で噛み合せていますから、ここへのグリースによる潤滑を適宜更新する必要があります。つまり、定期的な分解整備が必要な構造なのです。ここの潤滑が不足すると、軸が板バネ先端部との摩擦で擦り減ることになります。つまり、メンテナンスフリーという思想は未成熟な時代だったということです。逆に言うと、適切な整備をすれば快適に使い続けられるということになります。 レンズ台座が丸レールに対して回転しないようにするためには、レール下側に掘られた角溝にレンズ台座の突起が嵌合することで行っていますが、それだけでは遊びが大きいため、ダイヤル軸を板バネによってレールに押さえ付けることでその遊びを取っています。そのため、ギヤの噛み合せがきつく、ダイヤルを回すのが固いという欠点があります。それを緩和するために、ムーブメント・ダイヤルの径を時代が進むにつれて次第に拡大して行ったのだと思います。 なお、ダイヤル軸は取り外せることから、左右を逆にして取り付けることも可能です。つまり、ムーブメント・ダイヤルを右側にすることも可能ということです。手持ち撮影ではオリジナルの左が便利ですが、三脚使用の撮影では左手でパーン棒を操作しながらという操作になるため、ケーブル ・レリーズを握った右手でフォーカスするという使い方なら右の方が便利かもしれません。その改造を許す構造です。 この基本構造は、その後「白ステッカー式」の「BELLOWS UNIT」にまで続きます。しかし、その次の「黒ステッカー式」の「BELLOWS UNIT」は、外径意匠は似ていても、まったく別構造となりました。 ・ (2)ネームプレート表記 <ASAHI BELOWSCOPE TOKYO JAPAN> 下の4枚の画像は、通称を「AP」と呼ばれている旭光学初代ペンタプリズム搭載機「ASAHI PENTAX」の時代から販売していたベローズ装置です。当時の標準レンズである58oの倍率スケールが丸レール左横に刻まれています。 この機種からマウント規格が変更となり、カメラが当時世界標準になりつつあった「プラクチカ・M42マウント」と互換性のある「Sマウント」になったのに合わせています。しかし、これの場合、正確には「Sマウント」ではありません。なぜなら、「ASAHIFLEX」用のレンズを使うためのマウントアダプターが収まる溝がありません。その溝は一本丸レールの最終型になって初めて設けられました。 また、一本丸レールの後端にある真っ直ぐにしたときの固定穴に真鍮のインサートが入れられています。これは、前の時代にはアルミに開けた穴だけであり、軟らかいので組立時に破損させる危険がありました。 ・
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・ この品には、上の画像のようにムーブメント・ダイヤルが「アルミ地金色」のものと、「黒染め」になっているものとがあります。アルミ地金色のものの方が作られた時代が古く、背面の折畳みレール固定のための円盤ボルトについても、古いものは「クロームメッキ」だったものが、新しいものでは「梨地メッキ」になっていたり、レール横の倍率スケールの表示も、古いものは左側が58o用で右側が100o用だったものが、新しいものは左側が55o用で右側が58o用になっていて、赤字でリバース用らしい倍率も刻まれていたりします。カメラ側マウント 金具の固定つまみビスも、新しいものは次の時代の「BELLOWS UNIT」と近い形状になっています。 なお、丸レール固定用円盤ボルトに開いている穴の役割ですが、円盤ボルトの抜け防止ビスを取り付けるためのものです。 新しい方の特長として、レンズマウントの内側奥にリング状のプレートがあります。これにより、自動絞りと実絞りの切り替え装置が無い自動絞りレンズでも実絞りで使えるようになっています。でも、プレートの強度が少ないのでF1:5.6ぐらいまでしか絞り込めませんが…… 古い方は1957年「AP」の時代のものなのだとして、新しいものは55mm用倍率スケールがあることから、「K」時代か「S2」 前期型時代のもので、1958年以降のものなのではないかと推定しています。この変更の多くはまだ「AP」の時代に行われていますから、古い方は極めて希少な存在です。 前面のビス止め式ネームプレートも両者は少し異なっていて、そのことからも製造時期が違うのは明白です。立派な化粧箱は両者同一なのですが…… なお、回転はできるものの取外し式ではないクロームメッキされたカメラ側マウント金具の外径が小さいので、純正「マウントアダプターK」の場合、Kマウントのカメラに取り付けるとガタが出ます。薄いドーナツ・リングを自作しての併用か、社外品の「フランジ付きKマウントアダプター」が必要ですから、ある程度の努力とスキルが無いと、今のPENTAXデジタル一眼レフでは使えない品になっています。 また、ドーナツ・リング併用としても、純正「マウントアダプターK」をオリジナルのままで使ってはいけないのは、下記「BELLOWS UNIT」の場合と同様です。これ非常に大事…… なお、この二つの品の中間のものも存在します。それは一本丸レールの倍率定規が古いものと同様なもので、その他は新しいものと同じ仕様です。これは「PENTAX(AP)」の末期に作られた過渡期の製品ではないかと推定しています。この時期には部品の変更が頻繁だったことを示しています。恐らく製造ロット毎に異なっているのかも…… ・
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(3)ネームプレート表記 <ASAHI BELOWS UNITS TOKYO JAPAN> この品は謎の多いシロモノです。カメラ台座、レンズ台座、折畳式丸レールは「BELLOWSCOPE」とまったく同一なのですが、表記が印刷されたアルミ板で蓋がされたアルミ製黒染めダイヤルの径は1o大きくなって19.5mmです。この品からカメラ台座背面に刻印されている特許番号はミノルタ用「EXTENSION BELLOWS」と同じ「472839」ですから、両者の製造会社が同一であることを示しています。ちなみに、この特許は「一本丸レール」についてなのだと思われます。
両側ダイヤルのアルミ蓋への表記は印刷になっています。クランプ・ダイヤルは薄緑色、ムービング・ダイヤルは赤色なのが特徴です。トプコンへのOEM供給のものにも同じ部品が使われています。ミノルタへのOEM供給のものとも勘案すると、1959年か1960年製造の可能性が高いと思われます。これはコスト削減と、生産効率向上とを目的とした改変だと思われます。対象のカメラとしては「S2」前期型が相当すると推定しています。 なお、丸レールの倍率表記は前の時代と同じ左がf=55mm、右がf=58mmですが、リバースの赤表示は廃されました。これは白ステッカー時代まで続いています。焦点距離58mmの標準レンズは もう作られていない時代ですから、旧レンズ所有者への配慮という事でしょうか……
2 一本丸レールが折り畳めないもの
(1)黒地ビス止め式ネームプレート 外箱には「Bellows unit」と表記されていますが、中身の方のネームプレートには「BELLOWSCOPE」と表記されているという不思議な品です。次の時代の白地ステッカー式ネームプレートのものにもそれは存在しているので、その理由が大きな謎です。 なお、折り畳めなくなってからも「ASAHIFLEX」用の「BELLOWSCOPE」は製造販売が続いていました。カメラ本体の方はとっくに販売されなくなっていたのですが、既存ユーザーのために変更後も作り続けていたという事です。
ムービング・ダイヤルの径がこの時点で大幅に大きくなりましたが、小径のままのクランプ・ダイヤルの方の蓋表記は薄緑色のままです。ムービング・ダイヤルの径がまだ小さかった上記「BELLOWS UNITS」より少しだけ後の時代だと考えられます。 なお、外箱底面に「\4500」という紙が貼られています。販売店で貼ったとも思えないものです。この形式の外箱は初めて見るものです。他のものはほとんどが被せ蓋式なのに対して、簡易な折り込み蓋式です。本体に使用痕が全くないので、デッドストックと思われます。
その「黒地ビス止め式」ネームプレートに記されている名称が「ASAHI BELLOWS UNIT TOKYO JAPAN」となっているものをネット上の画像で確認しています。こちらはクランプ・ダイヤルの表記が黒文字になっています。時期が少し進んだのでしょう。 ところで、下資料画像のものは、丸レールを切り詰めたり、ダイヤル軸を左右逆転して取り付けたりの改造を受けています。ダイヤル軸の逆転は蛇腹を外せば可能ですから、これは後年ユーザーの手によって為されたものでしょう。無残にもこのようにレールを切り詰めたのは、超接写を行わないなどの使用態様で、折り畳めない長い1本丸レールが携帯に邪魔、というような動機での改造なのかもしれません。あるいは、レール先端部付近を損傷させたのかも……これが最も可能性がありそう…… ※資料画像 BELLOWS UNIT
いずれにしても、これらは「小林精機製作所」のブランド名称でもある「BELLOWSCOPE」から、旭光学PENTAXの独自名称へ切り替える過渡期の試作的存在だったのかもしれません。この時期にはそれほど販売数があったとも思えないので、製造ロットごとに小変更を続けていたのかもしれません。
この後、ネームプレートはビス止めのためのネジ穴開けの機械加工数を少なく出来る「白地ステッカー式」へ変わり、その時にも表記が「BELLOWSCOPE」のものと、「BELLOWS UNIT」のものとの混乱があったのでしょう。もしかすると、販売仕向け先によって使い分けていた可能性も……
(2)白地ステッカー式ネームプレート 1959年「S2」の時代に販売されていたものの中には、下左の資料画像のように、前面のステッカー式ネームプレートが白地で、そこに「ASAHI BELLOWSCOPE TOKYO JAPAN」と表記されているものがあります。形式は次の時代の「BELLOWS UNIT」と同じ折り畳めない一本丸レールですが、カメラ側マウント金具は折り畳み式一本丸レールの「BELLOWSCOPE」と同じ、外径の小さなクロームメッキのものです。これに使われている外箱は「S3」用というシールの貼られた「BELLOWS UNIT」と表示されたものですから、過渡期の製品ということでしょうか……外箱と中身の製品名称が異なるというのは、何とも不可解…… ・
※資料画像 丸レールが折り畳めない 「BELLOWSCOPE」 ※ 丸レールが折り畳めない 「BELLOWS UNIT」 ・ さらに、上右の資料画像のように、このステッカー式ネームプレートが白地のもので、「BELLOWS UNIT」と表記されたものも存在します。この白地ステッカーの両者が、同時期に並列的に作られたのか、時系列的に製造時期が前後するのか、これはまだ謎です。亭主としては「BELLOWSCOPE」が先行品だと推定しています。 1本丸レールの左にf=55mm、右にf=58mmの倍率定規が刻まれていますから、1961年「S3」の時代に作られた可能性が高いものです。 この品に使われているムービング・ダイヤルは径が大きくなり、クランプ・ダイヤルの表記は黒色になっています。 なお、クランプ・ダイヤルの表記が前の時代のままで、まだ緑色のものも存在しています。まさに過渡期の品という訳です。 入手した品には1962年8月印刷の使用説明書が付いていて、それに記されている名称は「ベロスコープ」です。 旭光学の中でも製品名称を峻別していなかった可能性を示唆する事象です。それにより、これは「SV」の時代の品ということになります。 ・
・ (3)黒地ステッカー式ネームプレート 「BELLOWS UNIT」のうち、「黒地ステッカー式」のネームプレートで「ASAHI PENTAX BELLOWS UNIT JAPAN」と表記されているのものは、初代のTTL測光露出計内蔵カメラである「SP」の時代まで販売されていたベローズ装置です。「SV」の時代に誕生していたのかはまだ不明です。おそらく「SP」になってから登場したのでしょう。 レール左側面には、当時の標準レンズである焦点距離55oの倍率スケールが刻まれています。右側は物差し目盛りです。 当時の価格は\4Kでした。この品は中古市場への出現数がかなり多くなっています。「SP」がそれだけ売れたということでしょう。
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これは、それ以前の機種とは各部が大幅に変更になっています。意匠が似てはいても、まったく別の製品と思ったほうが良いでしょう。レンズ台座下面にはカニ目穴の蓋ボルトが捻じ込まれています。その中にはコイルバネと先端が山状の押しピンが入っています。これでレールの溝を一定の圧で押し付け、レンズ台座に組み込まれたダイヤル軸のピニオンギヤとレールのラックギヤが一定の力で噛み合うようにしているのと同時に、レール先端部にネジ止めされている外れ止めピンに当たるようにしているのです。したがって、これを外すとレンズ台座をレールから抜き取ることができます。従前のものと違って外せなくなったダイヤル軸にある駆動ギヤの手軽なメンテナンスのためにも、これは大きな改良点です。蛇腹を外さずに抜き取るためにも、蛇腹は15山のものの方が良さそうです。 この改変のため、レール下部の溝は従前の四角形状の小さな溝から、V字形状の大きな溝へと変更になっています。このことで、従前のものより光軸精度が向上したものと思われます。 なお、蛇腹を固定している前後のプレートは、4個の取付穴の位置が従前のものとは異なっていて互換性がありません。蛇腹を流用するときにはプレートも外す必要があります。 レンズ台座、カメラ台座外形も少し大きくなり、蛇腹寸法も1o大きくなって幅50mmになっています。
カメラ側マウント金具も変更になっています。外径が大きくなって、純正の「マウントアダプターK」でもKマウントカメラにぎりぎりで取り付けが出来ます。取付穴径は40mmと従前と変わりません。 なお、これは途中で真鍮クロームメッキ製からアルミ製の地金色になりました。 レンズ側マウント金具も前の型より外径が少し大きくなっています。前板への取付穴径は43mmです。これも途中でクロームメッキから梨地メッキに変更されています。つまり最終形にも「前期型」と「後期型」とが存在するということです。 また、1本丸レールとしては、この型になって初めて正規の「Sマウント」規格で作られています。これ以前のものは、正確には「Sマウント」ではありません。単なる 「プラクチカ」あるいは「M42マウント」でした。「Sマウント」と名乗るためには、マウント面内径部に幅1mm、深さ0.5mmの窪みを設けてある必要があるのです。このことがカメラ本体のマウントだけでなく、これら接写用品にまで敷衍されるようになったのは「SV」の時代からのようですが……
2016年10月に「最終形・後期型」を入手したときに付いていた「使用説明書」を見ると、「SMCベローズタクマー」の記述があります。「SMC」は1971年以降の発売のはずですから、これがそれまで販売されていたことを示しています。 また、そのことを補強するものとして、その裏表紙右下に印刷年月と思われる数字が記されています。それは「7110」です。OEM製造をしていた「小林精機製作所」は1968年に倒産していた可能性が高いので、その知財権や製造装置を継承した企業(橘製作所?)が製造していたのかもしれません。単に納入済在庫があったのかもしれませんが……
3 その他
これら一本レールの簡易型ベローズ装置に使われている蛇腹の長さですが、折り畳み式一本丸レールの「BELLOWSCOPE」はどちらも上面可動部が11山ですが、折り畳めない 一本丸レールの「BELLOWSCOPE」は13山になっています。丸レールの行程はどれも同じですから、山の多いものほど一杯に伸ばした時に余裕があるということになります。 なお、丸レール側面に刻まれている倍率定規ですが、「BELLOWSCOPE」と表示されているものは55mmレンズで2.3倍です。 次の時代の「BELLOWS UNIT」の場合は2.2倍です。この違いは、カメラ側マウント金具の厚さが異なることで生じているようです。クロームメッキの前者は厚く、アルミ製の後者は薄いのでこの差が生じているのでしょう。丸レールの行程はどちらも同じです。 ・ 裏技に属する「BELLOWSCOPE」の使い方として、折り畳めるレールの関節より前方にレンズ台座を繰出した状態で関節の固定を外し、レールを少し折り曲げることでスイングまたはチルトというあおり撮影が可能になります。光軸が大きくずれますから、イメージサークルの大きなレンズでないとケラレてしまいますが……この使い方は、それでなくても華奢な関節部に大きな負担を強いることになりますから、くれぐれも慎重な取り扱いが必要です。 なお、チルトの場合、ストロボ内蔵カメラだと、その出っ張りが邪魔で、チルトアップ以外は出来ません。従って、チルトダウンが必要な被写界深度を稼ぐ目的では、カメラを倒立させるなどしなければならないためにとても使い難く、実景なのに模型を撮影したような写真を得ることが目的のとき以外はあまり使えないかも…… ・ 当時の旭光学のカメラはアメリカのハネウエル社が販売代理店となっていて、同社とのダブルネームでも販売されていました。それで、これらのベローズにもハネウエル・ペンタックス銘のものが存在しています。 ・・ 「BELLOWS UNIT」は全体にシンプル、コンパクトで、カメラ側マウント金具やラックギヤが刻まれた丸レールもアルミ製なので非常に軽く、それだけにとても華奢なので、取り扱いには細心さが要求されます。 「Sマウント」なので、使えるレンズには幅広いものがあります。カメラにしても、適合するマウントアダプター経由でどれにでも装着できますから、 「M42マウント」レンズや、アダプターを使った引伸ばしレンズなどの「ライカLマウント」レンズのベースとして使い勝手は抜群です。 フォーカスダイアルが左側なので使い易く、とても軽量なので、手持ち撮影も苦になりません。「K10D」以降のカメラ内手振れ防止機能が生きる品です。 ・ カメラ側マウント部は上部のつまみネジを緩めることで回転して、縦位置、横位置などに調整することができますが、取り外し式ではありません。そのため、これを内蔵ストロボが出っ張っている 「K10D」などで使う場合には、純正「マウントアダプターK」をオリジナルのままでこれに取り付けてからカメラに装着すると酷い目に遭うことになります。 「カメラから外せなくなる」というのがその「酷い目」の中身なのですが、そんなことにならぬよう、純正「マウントアダプターK」のストッパー板バネは、必ず取り去ってから使いましょう。なぜカメラから外せなくなるのかは、実験してみればすぐに分かります。 でも、この実験は止めて置いたほうがいいと思いますよ……もっとも、破壊する以外に救済の手段がまったく無い、ということではありませんが…… それでも、どうしてもその訳を知りたいという人は、先にカメラ側に純正「マウントアダプターK」を取り付けてからこの品を捻じ込もうとしてみれば、それが不可能であることが分かるでしょう。であるからして、逆もまた真なり…… 純正「マウントアダプターK」でもぎりぎりガタが出ないカメラ側マウント外径なのですが、その素材がアルミであることを考えると、社外品の 「フランジ付きKマウントアダプター」を使用する方が安全でしょう。しかし、この品が現在廃版となったのは残念なことです。 ・ 前後のマウント部分を除くアルミ製の本体部分は、短縮すると全体の厚さは25.4ミリ(1吋)です。前期と後期があって、使われている蛇腹の山数が、前期のものは上面可動部分で13山ですが、後期のものは15山です。丸レールの長さ、可動行程は同一ですから、15山の方が一杯に伸ばした時に余裕があります。その分、山や谷の折れ部分への負担が少ないと言えます。耐久性に差があるものと思われますので、中古品の入手にあたっては、15山のものを選んだほうが良さそうです。 ・
・ 上の画像は、後期型の15山のものに「Bellows Takumar 1:4/100」を取り付けて無限遠時のものです。カメラ側マウントには非純正社外品のフランジ付きマウントアダプターKを使い、蛇腹を5mmほど繰り出した位置になります。この組み合わせだと、一杯に伸ばした時でもレンズ先端からのワーキングディスタンスが18cm以上確保できますから、長いフードを付けたままで屋外での草花接写でも使い易いかもしれません。
この型の物として、「HONYWEL PENTAX BELLOWS UNIT JAPAN」と表記された「白地ステッカー式」ネームプレートの製品も存在します。 ・ ・ <データ> BELLOWSCOPE 最縮長(マウント間) 34.5mm 最伸長(マウント間) 136mm カメラ側マウント外径 46mm 蛇腹断面寸法 49.5mm ダイヤル外径 17.5mm 重量 225g ・ BELLOWS UNITS 最縮長(マウント間) 34.5mm 最伸長(マウント間) 134.5mm カメラ側マウント外径 46mm 蛇腹断面寸法 49.5mm ダイヤル(蓋付)外径 19.5mm 重量 230g ・ BELLOWS UNIT 最終型 最縮長(マウント間) 32mm 最伸長(マウント間) 130.5mm カメラ側マウント外径 51mm 蛇腹断面寸法 50mm ダイヤル(蓋付)外径 25mm 20mm 重量 200g 価格 \4000 ・ 旭光学・小林精機製作所OEM製造「1本丸レール」ベローズ装置の変遷
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ASAHI PENTAX BELLOWS UNITの使用例 ・ ※無限遠撮影時 ・ このベローズ装置を使うと、ヘリコイド装置を持たない引伸ばしレンズを無限遠から接写までの撮影に使うことができます。引伸ばしレンズは、絞り羽根が多枚数のために円形に近い開口となることや、その用途上必要な平面性などの収差補正が十分にされているなど、優秀な性能を楽しむことができます。 ・ 引伸ばしレンズのマウントはライカLマウントがほとんどです。旭光学からそのために販売された純正の 「マウントアダプターA」は入手がなかなか困難ですが、BORG社から「L39-M42マウントアダプター 」が販売されていますから、これが利用できます。 しかし、残念ながら、これらのマウントアダプターでは 、「FUJINER-E 90mmF4.5」の無限遠が来ません。フランジの無いネジだけのマウントアダプターを使うことでやっと無限遠が来ます。カメラ側のマウントは外周がぎりぎりなので、純正の「マウントアダプターK」を使いたく はないのですが、この場合はやむをえません。 「FUJINER-E 90mmF4.5」は50年以上前の製品ですが、3群4枚のテッサー型レンズ構成ですから無限遠の解像力も優れていて、色収差も少な く、かっちりとした写りが楽しめます。 ・ このまま無限遠から等倍以上の接写までが手持ちでも可能です。でも、露出倍数が大きくかかる超接写のためには三脚の利用が望ましく、マクロスライダーを併用すると、倍率を変更しないピント合わせが楽に行えます。 ・ ところで、純正の「マウントアダプターA」には新旧のバージョンが存在します。「SP」時代までは真鍮製クロームメッキでしたが、「ES」時代のものはアルミ黒染めで大径になり、表にAの表記がされています。いずれも今は希少… ・ ※使用機材 PENTAX K-7(KIRK L-ブラケット装着) マウントアダプターK ASAHI PENTAX BELLOWS UNIT マウントアダプターL(フランジ無し) FUJINER-E 90mmF4.5(49mmフィルター枠設置改造) 49mm径50mm用プラフード ・
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使用説明書について
「1961年1月」に印刷されたものが、亭主の所有している使用説明書の最も古いものです。これによると「アサヒペンタックス・アサヒフレックス専用」となっていて、「ベロスコープの使い方」となっています。表紙のイラストに使われているカメラは前部ダイヤルが無くなっていますから1959年5月発売の「S2」だと思われます。使用レンズは 「半自動絞り」の「Auto-Takumar 1:2 f=55mm」だと思われます。 1ページ目のイラストは折り畳めない1本丸レールとして書かれています。折り畳めるものはこの前年までで終了したことを推定させます。 後半のページに各交換レンズの露出倍数表がありますが、「全自動絞り 」のものは載っていません。それが発売されたのは1961年4月ですから当然のことでしょう。1960年発売「半自動絞り」時代の「Auto-Takumar 1:1.8/85」は載っています。 この時代であっても「ベローズ ユニット」という名称は外箱にだけ用いられていたことがうかがえます。
上記と全く同じ内容で「1962年4月」印刷の使用説明書も所有しています。そのときはもう「全自動絞り」の時代となっていたはずですが、それについてはまったく記載がありません。全体に印刷が甘いので、単に版を重ねたというだけのようです。この時には本体前面のステッカー表記も「BELLOWS UNIT」となっていたはずですから、それと機器名称の異なる使用説明書を付けるという感覚は、今では考えられないでしょう。
所有する最後の使用説明書は「1971年10月」に印刷されたものです。この時には表紙が写真になっています。これには「SMCベローズタクマー」の記載があります。このレンズは1971年に発売されましたから、そのために説明書を改訂したものと思われます。 「BELLOWS UNIT」をOEM製造していた小林精機製作所は1968年ごろに倒産しているはずですが、その後も販売を続けているのは、ベローズ装置のOEM製造を引き継いだ事業所があったのか、倒産前に納入された在庫を販売していただけなのか、そのあたりが謎です。1本角レールの「BELLOWS UNIT U」が何時から販売されていたのか、それとの関係も謎です。 ところで、水戸近郊にあった小林精機製作所の工場群は、1968年に「(株)橘製作所(後のNikon水戸工場)」と「水戸機器(株)(富士写真光機(株)が全額出資して設立)」とに分けられて引き継がれたようですから、その後もどちらかで継承した特許と製造設備を用いてOEM製造が続いていた可能性があります。
ネット上巨大漁場にある「黒地ステッカー式」の「最終形前期型」に付属する使用説明書は表紙がイラストの形式で、「ペンタックス ベローズユニットの使い方」となっています。不鮮明なイラストのカメラは「SV」か「S3」のようですが、レンズは全自動絞りです。これが販売時期を正確にあらわしているのなら「最終形」が登場したのは「SP」より前の時代だということになるのですが、信じ込むことは出来ません。古い画像やイラストを平気で使う会社ですから…
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1本丸レールの比較考古学
一本丸レールのベローズ装置は小林精機製作所の特許(PAT.No.472839)で、当時の多くのカメラ会社にOEM供給されていました。旭光学もこれを自社ブランドで販売していましたが、作られた時代により少しずつ変化しています。また、小林精機製作所の自社ブランド「KOPIL」としても製造 し、これはもっぱら輸出用でしたから、これらを比較検証することは、なかなか興味深いことです。
どの時代に作られたのかを推定するよすがとして、幾つかの分かりやすい着眼点があります。それは「前面表示」と駆動ダイヤルです。「前面表示」は初期にはエッチングにより製造されたネームプレートをビス止めしていたのですが、アルミ板に印刷したものを接着するものへと変わっています。 ・ 上の画像一番右は、1952年発売の「ASAHIFLEX」のために販売されたベローズ装置です。マウントは「M37・P-1」という独自の口径になっています。この品は 、アルミの一本丸レールがその基部付近で折れ曲がる仕組みになっていて、携帯性を高めているのが特徴です。5年ほどの製造期間があったと思われますが、カメラ自体の販売数が少なかったため、販売数は少なかったと考えられます。 ・ この折り畳み機構は、次の時代1957年にSマウント(M42ネジ)化された「ASAHI PENTAX」以降も暫くは継承されました。それが上の画像右から2番目、3番目、4番目です。これらは作られた時代順に並べてありますが、各部の部品が少しずつ変化しています。特に、1959年「S2」の時代に販売されたと思われる4番目は、ダイヤル径が少し大きくなっているのが特徴で、前面のネジ止めネームプレートの表記が、「ASAHI BELOWS UNITS」となっているのも特徴です。 ・ なお、小林精機製作所がOEM製造した一連のベローズ装置は、最終型以外は、正確には「Sマウント」ではありません。「Sマウント」の特徴であるレンズ側マウント面内径部に深さ0.5mm、幅1mmの窪みが設けてないからです。この窪みは「ASAHIFLEX」用交換レンズのために用意したマウントアダプターの収まるスペースなのです。接写装置としてのベローズ装置ですから、フランジパックを確保するためだけのその窪みは省略したのかもしれません。事実、当時作られていた接写リングにもその窪みはありません。そこまで既存ユーザーに配慮はしなかったのかもしれません。これらの部品は、カメラのアタッチメントというより、レンズのアタッチメントという性格で見られていたのかもしれません。 ・ 右から5番目は、小林精機製作所自社ブランド「KOPIL」のプラクチカM42マウントのものです。作られた時代は4番目より少し後になり、前面のステッカー式ネームプレートが白地の時代です。この時代には、旭光学のためのOEM製品は折り畳み式ではなくなっています。一眼レフカメラ使用者が飛躍的に多くなり、その平均的技能レベルも相対的に低くなったため、操作に細心の配慮が必要な折り畳み式レールを正しく扱えないことによる苦情の多発がその背景にあったものと考えられます。そのため、小林精機製作所自社ブランドの「KOPIL」は、レールの前半部分について、それまでのアルミを止めて硬い金属製(真鍮?)とし、これを中空にして軽量化するとともに、防錆のためにクロームメッキを施しています。このことにより、関節部がすぐ壊れると定評のあったラック・ギヤの強度を高め、それにより苦情対策としたのだと考えられます。また、レールの一部がアルミでなくなったことによる重量増対策のため、前後のマウント金具をアルミ化して黒染め処理しています。 なお、この丸レールの中空穴にはネジが切られていませんが、カメラ小ネジのタップを通すことで、先端に複写台などを取り付ける改造をしている例もあります。 これは試してみて分かったことですが、PENTAXの開放測光マウントレンズ「TAKUMAR」を取り付けると、そのマウント面にある「馬鹿者対策」小ピンが「KOPIL」のマウント面にある4本の深いビス穴に落ち込んで、進退極まることになります。PENTAXブランドのものにも4本のビス穴はあるのですが、浅いことと、ピンが穴の斜めになった端を通るために乗り越えられるのです。このことから、同じ会社が製造したM42ネジマウントでも、OEM供給先の要求性能に応じた製品づくりをしていたことが窺えます。 ところで、この悪さをする「馬鹿者対策」小ピンは、押されれば引っこむ軟弱者ですから、もし立ち往生しても、えい、やっ、と気合いを入れて回せば抜けだせます。しかし、びっくりはしますぜ… ・ 右から6番目の品は、1961年「S3」の時代に一本丸レールが折り畳めなくなってからのものです。前面のネームプレートが「白地ステッカー式」になっています。これの表記は「BELLOWS UNIT」になっていますが、「BELLOWSCOP」となっているものも存在します。この表記の混乱は、OEM発注の齟齬があったのかもしれません。 なお、ダイヤル形状および表記の特徴から、これの少し前の時期と思われる品に、「黒地ネジ止め式」のネームプレートで、その表記が「BELLOWS UNIT」となっているものが存在しています。それが折り畳めない1本丸レールのプロトタイプなのだと考えられます。 ・ 最終の品となったのが上画像一番左の品で、1964年発売の「SP」の時代のものです。ダイヤルの径も一段と大きくなり、レールとレンズ台座を押し付ける仕組みも、それまでとはまったく異なるものへと変更しています。レール裏の溝が小さな角溝から大きなV溝になり、ここをレンズ台座に設けたV型部品で押すことで両者を密着させる仕組みです。上記した「Sマウント」規格初採用と合わせて、外見は似ていますが、 内容には大変更が加えられているということです。操作性もスムーズになっています。 ・
・ 現物を目にし、手にとって操作してみると、いろいろと問題点やその解決のための工夫が見えて来て、とても興味深いものです。考古学は発掘してなんぼの世界であることを実感 します。 ・
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製造時期を特定するための変異について
●折畳式一本丸レール時代
1952年「ASAHIFLEX」の上梓と共にOEM供給が始まったのでしょう。小林精機製作所の自社ブランド「KOPIL FOLDING BELLOWSCOP」とまったく同一内容で、前板のネームプレート表記とマウント金具のみを変更したもので始まりました。輸出用はネームプレート地色が赤だった可能性があります。「KOPIL」との差別化かもしれません。
1957年に「ASAHI PENTAX」が上梓されると、ネームプレート表記とマウント規格を変更しています。外に機構的な変更として、折畳一本レールの後端の固定穴が単なるアルミへの穴開けだけではなく、その穴に真鍮受金を挿入しています。強度を上げる改良です。また、当時の標準レンズ58mm用の倍率定規へと変えています。こ の個体が最初の製造ロットだった可能性があります。
1958年より前、まだ「PENTAX K」が上梓されるより前にこの形に変更されたものと思われます。倍率定規が58mm用のままですが、ダイヤルの色を黒色にし、一本レール固定円盤ボルトを梨地メッキに変更して、ネームプレートの表記を微変更しています。 ダイヤルを黒色にし、一本レール固定円盤ボルトを梨地メッキにした変更は、同時期の各種「KOPIL」においても行われています。
1958年「PENTAX K」の上梓後の品です。倍率定規が55mm用に代わっています。また、レンズ逆付け時の倍率表示が赤で記されています。これは他の時代には無い特長です。他の部分は前の時代のものと同じです。
1959年上梓の「PENTAX S2」前期型になってからの時代に作られたものと思われます。ダイヤルにアルミ板の蓋が付き、表記は「MOVEMENT」ダイヤルが赤色、「CLAMP」ダイヤルが緑色の印刷です。これは製造コストの合理化 のためでしょう。以後最後までこの蓋構造は続きました。 この型が折畳式一本丸レールとしては最終と思われます。ネームプレートの機種名称が「BELOWS UNITS」となっていて、UNITの複数形はこの型だけしか発見していません。海外のネット画像にあるのを見ていますから、輸出用だったのかもしれません。 しかし、この時代の型で「BELLOWSCOP」と表記されているものも未発見ですから、それが存在したか不明です。
●固定式一本丸レール時代 最初は折畳式であった一本丸レールが固定式になったのは、折畳機構の脆弱さが原因ではないかと推察します。カメラ利用者が大衆化し、あまり知識の無い層が増えることで、繊細な操作を要する折畳式は破損の憂き目を見たのだと思います。そのため、その虞が無い固定式へと変更されたのでしょう。「S2前期型」の時代、1960年から1961年前後のことだと思います。
上画像は、左から古い順に並んでいます。ただし、背面画像真ん中のカメラ側マウントは最終型用のアルミ製に換装しています。正規の姿ではありません。 はずしたマウント金具は「ASAHI FLEX」用の換装に供しました。 右の二つは、左の三つとはまったく異なったものになっています。無改造で純正「マウントアダプターK」が使えるのは右の二つのみです。しかし、真ん中は改造したので使えます。
これはネームプレートがビス止め式の時代の「BELLOWSCOPE」です。「CLAMP」ダイヤルの表記印刷が緑色の時代です。「MOVEMENT」ダイヤルは赤色表記ですが、ダイヤル径が既に大きくなっています。一本丸レール右側表記がcm物差しとなっています。これの前と後のものはf=58mmの倍率表記でした。 この点が特異です。 「S2前期型」のものでしょう。
これはネームプレートが白地ステッカー式の時代の「BELLOWSCOPE」です。「CLAMP」ダイヤルの表記印刷が黒色となりました。 「S3」から「SV」の時代、1961年以降の製造でしょう。
これはネームプレートが白地ステッカー式の時代の「BELLOWS UNIT」です。上の「BELLOWSCOPE」とは、表記以外まったく同一です。 確証はありませんが、これはこの時期の輸出用だった可能性が浮上しています。その根拠は、海外ネット画像には「BELLOWSCOP」表記のものが見られないことによります。
これはネームプレートが黒地ステッカー式の時代の「BELLOWS UNIT」です。全体の形は似ていますが、上の白地ステッカー式のものとは機構的にまったく異なっています。 一本丸レール右側表記がcm物差しとなっています。ダイヤルの蓋色や表記色が変更されました。特許番号表示を止めています。 「SP」が上梓された1964年以降の製造だと推定しています。同時期に「BELLOWSCOPE」は存在していません。なお、同時期にネームプレートが白地ステッカー式「HANEWELL」銘のものが輸出されました。これはアメリカ代理店です。
これは上のものと同じ内容ですが、レンズ側マウント金具が梨地メッキになり、カメラ側マウント金具がアルミ製に変わっています。これが一本丸レールの最終型です。
右画像の最終型はアルミ製マウント金具になったので少し軽くなりました。 |
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あとがき
これら「小林精機製作所」が製造した「M42マウント・プラクチカマウント・Sマウント」のベローズ装置は、製造後50年を経た今もそれを取り付けて使うことのできるカメラが存在するという幸運に恵まれています。紙と布の合成品である蛇腹という脆弱な部分を持つことが最大の問題点ですが、それを適切に扱うことで更に長い年月を過ごすことも可能です。フィルムカメラの滅亡で用途の無くなった「引き伸ばしレンズ」を撮影用に使うための便利な道具としても、この簡易型ベローズの役割は大きいと思います。当分その現役としての価値は続くことでしょう。
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