~ 俺のわんこ ~
早く大人になりたい
若島津が突然そんなことを言い出したから、どうした?なんで?何かあったか?って聞いた。
俺だって昔はそう思っていたけれど。
小学生の時に父親が死んでからはとにかく生活が大変で、周りの大人に無理を言って外で働かせても貰ったけれど、それでもガキの稼げる額なんてたかが知れていて。
だから早く大人になりたかった。
でもこうして東邦に来てサッカーをさせて貰って、逆に今は時間が足りないと感じている。
まだまだできないことが多すぎる。もっとバランスのいい体を。もっと走れる脚を。壁を越えて決まるシュートを。敵を躱す技を。ボールを止める、蹴るといった基本動作すらも、もっともっと精度を上げる必要がある。
自分の武器は何か。
部の練習はともかく、自主練の時には特にそれを考えるようにしている。時間が限られているから、効率よくトレーニングと練習をできるように。
それは三杉に言われたことでもあるけれど。
時間は無い。高校を卒業してすぐにプロになるとすると、あと1年半。その1年半でどこまでいけるか、どこまで近づけるか。同年代の、既にプロとなっている奴らに。
そんな風に思っていたところだったから、若島津の言葉は意外だった。
「大人になると、自由が増えるでしょう。それだけ」
今はまだ自分の自由にならないことが多いから 。そう答える若島津は、いつもと変わらないように見えた。
若島津は俺のように単純じゃない。しち面倒なことを考えては物事を複雑に、あるいは過ぎるほどに正確に捉えようとする。
俺が大雑把なのか。こいつが細かいのか。
「今、なんか不自由なことがあるのか?・・・親父さんが何か言ってきたか?」
たまに実家に呼び出されては、面倒だとぶつくさ文句を言いながら戻ることもあるから、そうなのかな・・・と思って問うと、若島津は首を横に振る。
じゃあ、学校? ふるふるとまた首を振る。
部活? またふるふると。
まさか、と思いながらも「じゃあ、俺?」と聞いてみると黙り込む。
「・・・え。マジで俺?」
「・・・・」
(どういうことなんだよ!)
(俺がお前を自由にしてないって言うのか。お前を縛りつけているとでも!?)
(それに大人になれば自由になるって、そういうもんか!?)
そう抗議したいのはやまやまだったけれど、困ったような顔をして俺を見る若島津と目が合うと、それは腹に納めるしかなかった。
いつも太々しい顔をしているくせに、俺の前でだけたまにこんな風な表情を見せる、狡い奴。
まるで俺だけに懐くワンコのようだ。俺が絆されたって、仕方が無いだろう?
俺はため息を一つ零して、若島津に近づいた。俺より少しだけ高い位置にある顔を両手で挟む。
「俺から自由になりたいって?・・・それって、どういうことだよ。サッカーやめたいってこと?」
「違うよ。サッカーとか、空手とか、家とか学校とかは関係ないんだ。ただ・・・俺の全てはあんたに握られてるなあ、と思って。精神的なものだね」
「それが嫌なのか?」
「まったく嫌な訳じゃない。でも俺の自由意志でっていうより、否応なくあんたに捕まっているようなものだから、時折身動き取れなくなって戸惑う」
多分、俺の雄の部分がね 。そう続ける若島津に、「大人になったら解放されるのかよ?」と更に問うと、「さあ、どうだろう」と首を傾げる。
「本当のところは分からない。もっと酷くなったりして」
なるほど、と思う。そういう『 自由 』のことか、と。
じゃあ、無理だ。先のことは分からないけれど、今すぐにこいつを自由にしてやれるかというと、多分お互いに無理だ。
俺は奴の顔を手のひらで挟んで視線を合わせたまま、首を伸ばしてその唇にキスをした。触れるだけの柔らかいキスを、何度も。
「そんなのが不自由っていうなら、俺からは多分、お前を自由にはしてやれない。・・・だけど、それなら俺も不自由だ。ただ、俺の場合はそう捉えていないだけで」
「・・・・」
「お前の定義で言えば、俺だってお前に縛られてる。だけど、俺はお前がいることで、もっと速く走れるような気がするし、どこにだって行けるような気がする。俺たちは二人三脚で足を結んでも、すげえ速く走れるんだ。そうだろ?」
そうだろ?って言いきる俺にお前は苦く笑うけれど、でもお前よりもっと狡い男の俺は、もう一度キスをすることでそれを封じ込める。
下唇を柔らかく噛んで、口を開けさせる。そっと舌を潜り込ませて若島津の中をゆっくりと探っていく。奥で待っていた熱い舌を絡めとり俺の内に引き込めば、あとは何も考えず、お互いに貪り合って交感するだけだった。
「・・・は、ぁ・・っ」
「ふ・・っ、ん、・・・ふぁ」
どちらのものか判然としない声が、ぴちゃぴちゃという水音に混じって響く。エロイ声。自分たちの出す声に煽られて、俺も若島津も熱くなる。
「ん・・・あ、・・ちょっ・・」
若島津の手がシャツの下に潜り込んできて、汗をかき始めた肌を撫でていく。背筋が震える。大きな手のひらと、長くて節の太い指。俺の好きな、強い手。
俺は背中に回ろうとした奴の手を取って、手のひらに口付けた。俺のものだ、と思う。この先、こいつが誰かのものになることがあっても、遠く離れることがあったとしても、この手だけは俺のものだ。
「・・・このまま、続きしてもいい?」
「・・・そういうことは、押し倒す前に聞けよ」
既に俺は若島津のベッドの上に寝かされていて、その上にこいつは伸し掛かっているのだ。
「俺、したい。今、すげえ日向さんとエッチしたい。こんなに煽られたら我慢できない」
「分かったから。盛るなって」
別に煽ろうと思った訳でもないし、誘おうとしたつもりでも無かったのだけれど。
だけど俺からキスを仕掛けたのだから、結果的にはそうなのだろう。
でも、たまにはそんなのも悪くない。
どうせなら、もっとちゃんと・・・・と思って、俺はわざと少し足を広げて見せて、「いいぜ、来いよ」と誘ってみた。
とたんに若島津の瞳の色が変わっていく 若島津の目は不思議なことに、興奮すると漆黒から藍色に変わる。欲情の塊が焼かれて赤く爛れていくのに比例して、深い深い、夜の湖を思わせるような蒼の色に変化していく のを、俺は目の前でまざまざと見ることになった。
しまった、やり過ぎた。今夜はしつこくされるのかな・・・と少し後悔する俺の肩を押して乱暴に服を脱がせながら、若島津は「もー。知らないからね、手加減できなくなっても」と言って首筋を噛んできた。
まあ、いいか。
俺もコイツとセックスするのは嫌いじゃない。ちょっとくらいしつこくされても、何だかんだ言って、ちゃんと気持ちよくしてくれるから。
とりあえず噛み跡だけは残すなよ、ワンコ と思いながら、俺は若島津の首に腕を回して引き寄せた。
END
2015.11.02
わんこっぽい若島津を書いてみたかったのです。大型わんこ。
まだまだ仮性わんこですね。真性わんこ、難しい!
でも可愛いわんこ島津に、甘やかし放題の日向さん。そんな二人もいいですよね~。
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