~ I'm all yours ~7




いよいよ明日は東京に出発、という夜、僕は仲間たちに挨拶に行った。スポーツバッグの中から抜け出して。

「小次郎をちゃんと見ててね。すぐに無理をする子なんだからね」
「乱暴な子供には気を付けろよ。ほつれたら修理してもらえよ」
「二人とも、元気でな」

みんな、小次郎と僕と別れるのはとても辛いと言ってくれた。チェリーは「小次郎を守るのはお前の役目なんだからな。他の奴に奪われてんじゃねーぞ。根性みせろよ、ヘタレライオン」って最後に僕を貶しているんだか、鼓舞しているんだか分からないような言葉をくれた。

チェリーには色々と腹が立つこともあったけれど、今ならどうして彼が僕にきつく当たってきたのか分かる気がする。
あれはたぶん、同属嫌悪だったんだ。
ウサギとライオンで同属っていうのもおかしな話だけれど、僕たちには共通の使命があって、その意義からすればやっぱり同属だった。
あの時期、僕が小次郎を心配したようにチェリーも直子を憂いていて、彼女を慰めて、守ってあげたかったのだろう。

チェリーは見た目は可愛らしくてか弱いうさぎだけど、ライオンと同じくらいにプライドの高い奴だったんだ。

「さよなら、チェリー。みんな。小次郎が戻ってこない限りは僕も戻ってこないからね。お母さんと尊たちをよろしくね」

僕はみんなに別れを告げた。淋しいのは少しだけ。これからは一人で小次郎を守っていくのだと、誇らしい気持ちでいっぱいだった。






小次郎と僕は東邦学園の寮に入り、小次郎は無事に入学式も終えて正式に学園の生徒になった。


それからの小次郎の活躍は、多くの人に知られているとおりだ。
中等部の時には少し・・・だいぶ苦しんだし、悩んだ日々もあったけれど、高等部に入ってからの小次郎は本当に強かった。小次郎と若島津、それと反町がいた三年間は、東邦学園高等部は史上最強のチームであり続けた。


高等部を卒業した小次郎はイタリアに渡った。今度はもう、僕は彼に置いて行かれるなんてことは、これっぽっちも考えなかった。海を越えて知らない土地に二人で行くことに、ワクワクしただけだ。
小次郎は、僕が夢見ていたとおりの男の子だった。彼の人生は挑戦と冒険の連続で、僕は彼に振り回されながらも気持ちのうえでサポートし、応援し、時に祈った。

勿論、プロになってからも上手く行かないことは何度もあった。だけど小次郎は沢山の人に愛されて、助けられていた。イタリアの男たちは面倒見がよくて世話好きで温かい人が多くて、僕も大好きになった。特にマッツとゴッツァは小次郎のお父さんとお兄さんみたいで、本当にお世話になった。

それから小次郎はユベントスで活躍するようになって、イギリスに渡って、またイタリアに戻ったりして、色々とあったけれど、ある年には世界最高のサッカー選手に贈られる賞も貰った。


僕の小次郎は日本とイタリアだけじゃなく、世界中で愛されるサッカープレイヤーになったんだ。







そして今回、僕たち二人きりだった生活に新しく仲間が一人増えることになった。

「結婚、じゃないんだけど、そんなものかな。この先ずっと一緒に生きていきたい奴と、一緒に住もうと思うんだ」

もういい年をした大人なのに、やっぱり小次郎は何でも僕に報告する癖が抜けなかった。僕に「パートナーを家に迎えたい」と言ったのは、ついこの間のことだった。
僕は勿論、喜んだ。僕は小次郎だけのライオンだけど、彼には人間のパートナーが必要なことも理解していた。どちらかというと、そういう相手を作るのが遅いと思っていたくらいだ。

パートナーが誰かというのは、小次郎は知られてもいいけれど自分からは公表しない、というスタンスだった。だから僕も誰にも言わない。だけど僕も知っている人だったから、意外には思わなかった。彼は小次郎の家族である僕にも「よろしく」と挨拶をして、僕の手を握った。それからそっと小声で「・・・大事にします」と付け足した。

東邦にいるときからそうだったけれど、どうやら僕を通してお父さんを見ている人間が多いようだった。残念ながら僕はお父さんじゃないし、お父さんの気配も感じないけれど、人間が霊や魂といった見えないものを信じて大事にしているということが長い人間社会との関わりの中で僕にも分かっていたし、小次郎自身も僕をそう見ているようなふしがあったから、それはそれでいいかと「うん、よろしくね」と返事をした。




今日はこれから家で、小次郎とそのパートナーの結婚のお祝いパーティーがある。
僕にも仕事があるのだ。ウェルカムベアならぬ、ウェルカムライオンとしてお客様をお迎えしなくてはならない。

お客さんは次々と着く予定だ。きっと笑顔を振りまくのに僕も忙しいだろう。

小次郎が準備でバタバタしている中、僕の待機しているテーブルにやってきた。白いタキシードを着て前髪を軽く上げた彼は、とっても恰好良かった。


小次郎の旅は今日から次のステージへと上がる。僕はこれからも彼の冒険に付き合っていくだろう。もう一人の仲間と一緒に。たまに色々な人の力を借りながら。

(小次郎、おめでとう。君にパートナーができても、この先何があっても、僕は君だけのライオンだよ。小さい頃に約束したとおりにね)

僕は幸せそうに目元を緩めた小次郎にそう告げた。小次郎は柔らかく微笑んだまま何も言わず、僕の肉球を触っていた。







END

2015.08.17

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