~ I'm all yours ~6
そんな風に過ごしているうちに、あっという間に秋がきて冬になって、お正月に若島津がやってきたりして、小次郎が東邦学園に行く日が近づいてきた。
小次郎の荷物はそんなには多くはなかった。小次郎は「とくたいせい」で、買わなくても学校から貰えるものが多いのだという。それらは家に送られてこないで、寮の部屋に既に届いているらしかった。
でも、制服だけは日向の家にあった。真新しい、真っ黒な制服。上着には前の合わせのところに白いラインが入っている、シンプルなものだった。
小次郎はそれを着て、家族に見せてくれた。勿論、僕にも。
小次郎は少し照れくさそうにしていたけれど、すごく似合っていて、なんだか急に大人っぽく見えた。僕の4歳だった小さくて可愛い子供は、こんなに立派な少年になったのだ。
チェリーはあんな風に言ったけれど、僕は小次郎がすくすくと育つのに、少しは役に立ったんじゃないかな 、そう思って小次郎の制服姿を見つめていた。
制服は専用のカバーに入れて、後の荷物は大きなスポーツバッグに詰めていた。
「服と靴下、パンツにタオル・・・っと。後、ウェアにボールだろ。・・・俺、ほんとに持ちもの無いなあ」
そう呟きながら、小次郎は手にしたプリントとバッグの中身を見比べて確認していた。プリントには寮への持ち込み可、不可なものが記載されていたけれど、小次郎にはゲーム機もソフトもないし、タブレットもないし、音楽プレイヤーもないし、無いものだらけだった。
「えーと。忘れ物はないかな。後は・・・」
そうだ、れおくん。
そう言って、小次郎は僕を抱き上げた。僕はびっくりした。
(連れていってくれるの!?僕を!?君の新しい世界に連れていってくれるの!?また君の冒険に付き合わせてくれるの!?)
僕は歓びに胸がはちきれそうだった。尊の次の台詞を聞くまでは。
「兄ちゃん。れおくんは置いていきなよ。ほら、貴重品は最低限のものにして、持ってこないように・・・ってプリントに書いてあるよ。れおくんが大事なら、持っていかない方がいいよ」
僕は日向家の子供たちはみんな大好きだけど、この時ばかりは尊を恨んだ。せっかく小次郎が僕を連れていってくれるつもりなのに!って。
小次郎は困ったように両手に抱えた僕と、尊の顔を見比べた。
「でも俺、お前たちと離れて一人になるし・・・。何か、お前たちを思い出せるものが欲しいんだ。それと、父ちゃんのことも。これは父ちゃんが買ってくれたものだから」
だから、ずっと傍に置いておきたいんだ・・・と、小次郎は尊にそう言ってくれた。
僕はぬいぐるみじゃなかったら、多分泣いていただろう。それも号泣だ。わあわあ泣いて、体中の水分が出ていったに違いない。
尊はしばらく小次郎を見つめた後にため息をついて、「・・・もお、しょうがないなあ。大切なら、ちゃんと仕舞っておくんだよ?誰にも見つからないようにね」と諦めたように口にした。
尊はその後、小次郎がいない時に僕のところに来て、頭をぽんぽんとしてくれた。それから「兄ちゃんのこと、頼むな。守ってな」と言ってくれたから、僕は僕を置いていくように小次郎に提言したことを、許してあげることにした。
「色々なことからな。・・・あー、心配だなあ。健兄も行っちゃうしなあ」と言った意味は分からなかったけれど。
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