~ レベル8の関係性 ~その後の話




甘い。甘い。甘い。

「う~ん・・・」

日向小次郎はベッドのうえに胡坐をかき、腕ぐみをして首をひねっていた。

あれ以来、身体の関係において行き着くところまで行ってしまったあの日以来、若島津の日向に対する態度が妙に甘い。

学校や部活、寮の中でも皆がいるところではこれまでと変わらない。
だが二人きりになった部屋の中では明らかに違う。何しろすれ違うだけで何気なく触られたり、キスをされたりするのだ。居心地が悪いことこの上ない。

(ついこの間まで、こんな感じじゃなかったんだよなあ・・・)

触ったり触られたりということなら以前からしていたことだけれど、その頃は普段の日常生活においては、全く普通の友人同士だった。

じゃあ、今はどうなのかというと    

(お、俺・・・、あいつにとって、完全にアレの対象として見られてるような・・・)

アレというのは、日向にとってはハッキリと名称を出すのも憚られるが、性交のことだった。

別に、身体を繋げること自体が嫌だという訳じゃ無い。まだ慣れていないから辛いは辛いけれど、気持ちがいいことも確かだ。だから、その行為自体は問題ない。

だが自分たちは寮の、しかも同じ部屋で生活しているのだ。365日24時間、ほぼ一緒に過ごしていると言っても過言ではない。なのに、こんな風にことあるごとに意識させられるのでは落ち着かないし、堪ったものじゃない。


そこで日向は、『どういうつもりなのか』と若島津に聞いてみることにした。日向はいつでも回りくどいことはせず、直球勝負だった。









「は?」
「だから、何でお前はこの間から、俺のこと触ったり、キ、キスしてきたりするんだよ。突然」
「触りたいから、ですけど?」

それが何か?     とでもいうような調子で若島津が言ってくるので、日向は『あれ?俺の方がおかしいのか?』とつい考えてしまう。

「俺があんたに触って、何が悪いの」
「いや、別に悪いって言ってる訳じゃねえけどよ」
「同じ部屋に恋人がいるんだよ?男子高校生に我慢しろっていう方が無理じゃない?」
「・・・・」

それだー!
違和感の正体はそれだ、と日向は悟った。

「あのよ。一つ確認なんだけど・・・俺たちって、恋人、なのか?」

その言葉には、今度は若島津の方が絶句した。
パチパチと瞬きを繰り返し、無意識に自分と日向を交互に指差したりしてしまう。
それから片方の手のひらで額を押さえ、はあ・・・とため息をついた。

「まじかよ・・・。そういえば、あんた、この間もそんなこと言ってたよね」
「この前?」
「初めて最後までエッチした日」

ああ、そういえばその時もそうだったな、と日向も思いだす。確かにあの時にも違和感があった。

「じゃあ聞くけどさ。エッチもして、死んだら同じ墓に入りたいって言って、結婚できるようになったら結婚しようとまで言って。で、あんたもそれを受け入れてくれて。それで恋人じゃないって言ったら、逆にどういう関係を恋人って言うんだよ」

若島津にそう言われてしまうと、それもそうだな、と確かに思う。恋人でもないのに性的な関係をもつだなんて、よくよく考えてみれば日向の倫理観からしてもアウトだ。

だが、やはりどこかしっくり来ない気がする。
それがどうしてなのか     そんなことを日向が考えていると、若島津が「納得してないんだね」と言った。

「いいよ。じゃあ、日向さんが思う『恋人』って何をするのが挙げてみてよ。度を外れたものじゃなければ叶えてあげる」

ぱっと、日向が顔を上げる。その表情を見て、おや、と若島津は思った。なんだ、そういうことなのか、と。

「お、俺!・・部活が無い日とか、出かけたりしたい」
「うん。いいよ」

「金のかかんないとこでいいから・・・散歩とかでもいいし」
「うん」

「学校とか家とか寮じゃ無くて、知らないとこも行ってみたい」
「海かプールに行こうか。二人だけで行ったことはないよね。休みの日に1日くらいなら、行けるよ」
「・・・行きたい!」

若島津はクスリと笑った。
やっぱり日向さんは可愛い。若島津の顔もつい緩んでしまう。本当に、どれだけ自分のことを好いてくれているのか。

(自分では意識していないんだろうけれど・・・単に、俺とデートがしたかったんだよね・・)

想いが通じ合ったとは言っても、やはり同性同士の恋愛だ。しかも日向も若島津も学内では有名とくれば、学校や寮の中でおいそれとイチャつく訳にもいかない。
それでその分、自室では日向を構っていたつもりなのだけれど    

それが却って、日向を多少なりとも不安にさせていたらしい、ということに気が付いた。

(一緒に出掛けたり、プレゼントを贈ったり・・・そういうことの積み重ねって訳か)

考えてみれば日向を手に入れるのが最優先事項で、日向に恋人らしいことをしてあげるのは確かに後回しになっていたと思う。そこは素直に若島津の反省すべき点だった。

「好きだよ。日向さん」
「・・・俺も」

若島津は日向を抱きよせて、自分の身体の内に包むように抱き込んだ。
それから耳元で囁く。

「デートもするけどさ・・・。誰もいないところでは、こうして日向さんに触らせてね。キスもエッチもさせてね」

数秒おいてコクリと頷いた日向の耳は、ほんのりと朱く染まって美味しそうに見えた。
その美しい桜色をした貝殻のような耳を、若島津はそっと唇で食んだ。





END

2017.08.17

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