■ 骨折・脱臼・捻挫〜正しい日本語講座

言葉は生きてますよね。時代と共に生まれたり消えたりしながら、脈々と続いているものです。その時の世相を反映する文化の一つというと、おおげさですか。古い言葉が間違った使われ方をすると、「これじゃ困る。日本人として不勉強」というような話がよく出ます。しかし、実際現代にそぐわないから使われない、使われないから忘れられる、忘れられるから間違う。渋谷で本気で「平安時代の言葉」を使う人がいますか。新宿で「・・・でござる」は無いでしょう。ちょっと前置きが長くなりましたが、今回は整形外科の言葉の話。

言葉は何を意味しているかしっかりと定義されていて、使う人々のグループの中で暗黙の了解が得られているから初めて使うことができます。ですから最初にしっかりと定義を明確にしておくことが大変重要です。整形外科用語も混乱をきわめていますが、それでも用語集ができたりしてしだいに統一される傾向にあり、これは情報の共有化という側面を持っています。まぁ、そんなこうるさいことはさておいて、整形外科基本用語をいくつか紹介しましょう。

まずは「骨折」です。骨折は「骨の連続性が絶たれた状態」と定義されます。なんかややっこしい説明ですが、要するに骨の一部が途切れている、つまり割れているということです。でもこの説明は大変意味があって、通常レントゲン写真で骨折の線を探す時に、外側の輪郭が途切れていれば誰にでも骨折がわかります。しかしレントゲンを撮影する角度や骨折の程度によっては、内部の方にしか骨折の線がないときは、中の細かい網目状の線の連続性をしっかりと見ないと見過ごしてしまいます。骨折は「骨が割れること」と思っていたら発見できないのです。

よく「複雑骨折」という表現を聞きますが、一般の方はバラバラに割れた状態を指して言うことが多いようです。でも、正しくは複雑骨折とは、開放骨折と同じ意味で、骨折部が外に開いている状態、つまり傷があって骨が見える状態のことを指します。これに対して、傷が無い骨折を単純骨折あるいは閉鎖骨折、または皮下骨折と呼び、骨がバラバラなのは粉砕骨折となります。「ひび」というのも、よく誤解されている言葉のひとつ。「ひびですね」というと、「なんだ折れてないんですね」という方がよくいます。ひびはずれていないだけで立派な骨折です。一部が折れていても完全に骨のかけらとして離れてなければ不全骨折といいます。

じゃ、「脱臼」はなんでしょう。関節が「はずれること」だけでは不十分です。脱臼とは「関節の適合が失われる」状態と定義され、完全ではない脱臼が「亜脱臼」となります。関節は骨と骨があわさって一定の動きを許す場所ですが、通常あわさる骨同士は凸と凹の関係にあり、最大限の接触面積が確保できている状態が良好な「適合」といえます。

「捻挫」は、関節部に本来働かない強力な力や、正常な動きとは異なる方向の力によって関節周囲の軟部組織損傷を起こした状態です。ですから、捻挫というと比較的簡単なケガと考えがちですが、例えば靭帯断裂のような下手すれば手術が必要になるようなケガも含まれていることを忘れてはいけません。

こういう例をあげていくとキリが無いので、今回はこの辺で。