骨折はどれ一つをとっても同じものは無い、と云います。しかし手関節の部分の骨折は大変多く、たいていのものは同じパターンを示します。これは、ギプスを使って治療する骨折の代表と云えます。
通常は、手の平をおもいきりついた時に、前腕にある並んでいる2本の骨のうち親指側の橈骨(とうこつ)の手関節に近い部分が折れてしまいます。普通は折れたはじが手の甲の方にずれて、前腕から手までの格好が「フォーク」状に変形をおこすので、レントゲンを撮らなくてもわかりやすいことが多いのです。通常は、骨が折れた以外に特別な合併症は作りません。これを、最初に学会に報告した人の名前をとって、コーレス(またはコーリス)骨折と呼んでいます。
お年寄りが転んで手を突いた場合には、頻繁にこの骨折を起こします。外来で見る骨折としては、その頻度はベスト3に入るでしょう。また、小さなお子さんにもよく見られます。子供ではしばしば、まだ骨が柔らかいのでも、ポキっとは折れずにグニャと「へし折れる」ので「若木骨折」という名前がつきます。
さて、骨折の応急処置はどこの骨折でも共通原則があります。つまり痛い場所を固定すれば良いのです。固定され動かなければ痛みはありません。もちろんずれがあれば、これを戻した方がより楽になりますが、とにかく疑わしければ固定して下さい。具体的にはどんなものでもよいですから、添え木を肘の上から手までにあてれば結構です。肘の上からというところがポイントです。肘の下からですと、添え木はあてやすいのですが、折れたところがグラグラするので痛みが減りません。つまり、骨折の場所に近い上下の関節を両方とも固定するということです。
ずれが大きい場合は、局所麻酔を使って徒手整復を行います。ずれが少ないか、無い場合はそのままギプスを巻きます。骨折したところは内出血を起こして腫れて来ます。また徒手整復をするとぐいぐい押したりするので、更に腫れを強くします。この時には、ぐるぐるにギプスを巻くと、腫れの逃げ場が無くなるので、しっかりした添え木にして腫れの落ち着くのを待ってからギプスを巻きます。
なかにはずれがよく戻らないもの、戻しても不安定なもの、粉砕がひどいもの、あるいは稀に神経損傷や腱損傷などの合併症を持ったものなどがあり、これらは手術が必要になります。皮膚を切らずに、固定のための鋼線を刺入するだけの場合、皮膚を切って何らかの固定金属を使う場合、皮膚の上からピンを骨に立てて、ピンどうしをしっかりと支える創外固定という方法を使う場合など、やり方は状況に応じていろいろあります。いずれにしてもヒビ程度でも、完全に折れてずれていても、折れた骨がしっかりと癒合するには2ヶ月程度かかります。この間はたいへんですし、手首のリハビリテーションも加えると、3〜4ヶ月は不自由があると思って下さい。
それにしても、この骨折で思い出されるのは、うちの長男が幼稚園の時にこの骨折をしたことです。その日は、ちょうど我が家の引越しの日で、引越しトラックの到着と同時に子供の泣き声。よく見ると、うちの子じゃん。結局、引越しは家内にまかせて病院に連れて行き大騒ぎでした。まぁ、ちゃんと直ったんですけど・・・・ったく。