■ 脊髄損傷〜心のケアが重要

交通事故の内容は、時代とともに変わってきました。スピードと引き換えにより危険に身をさらしていることに気がつかないと、どこかで取り返しのつかないことになってしまうかも。出会い頭にゴッツンコ的な事故なら、あーごめんなさい、で済むかもしれません。最近のバイクの数と言ったらどうでしょう。それも車線の概念が無く、縦横無尽に隙間をぬって走り抜けていくライダーの多いこと。というと、ちゃんとしたライダーには失礼ですが、現実に無謀なバイクが多いことは事実です。ヘルメット着用義務が無かった頃は頭をぶつけて即死、というのが多かったのですが、ヘルメット着用になって、とりあえず死ななくなりました。そのかわり、首の骨を折ってしまうケガが急増したのです。

スポーツでの受傷もばかになりません。プールへの頭からの飛び込み、ラグビーやアメリカン・フットボールでのタックルなどが、その代表格です。

首の骨を頚椎(けいつい)といい、骨折すれば頚椎骨折となりますが、頚椎と脊髄は密接な位置関係にあるので、ほとんどの場合頚髄損傷も伴ってしまいます。頚髄損傷は、頭に近い場所なら、即死。ちょっと下なら手足の麻痺。さらに下なら足の麻痺が生じます。この場合には、現代の医学で直せる範囲を越えた麻痺であることがほとんどで、一生残る障害です。医者ができることは、急性期の体の変化を管理し、早くにリハビリテーションにもっていくことになります。

患者さんの心の変化はある程度定型的であり、その流れをよく理解していないと治療にあたることはできません。いろいろなアプローチの仕方があるとは思いますが、自分がやってきたことをお話します。

まずケガの内容がはっきりしたら、なるべく早くに本人に伝えることが基本です。なぜなら、一度直る希望を持たせると、そちらへの期待から障害を受け入れることができず、リハビリテーションを進ませられなくなるからです。基本的には直らない、万が一医学が進歩して直ることがあるかもしれないけれど、それはいつのことかはわからない。今残った機能をとことん鍛えて社会復帰することが現実的である。

もちろん、いきなりハイそうですか、と理解するひとはいません。必ず突きつけられた現実に対して抵抗を示します。そんなはずはない。一生歩けないなんて嘘っぱちだ。続いて、あきらめの時期がきます。現実を回避できないことを少しずつ理解し始めると、絶望が襲ってくるのです。これも当然の心の変化でしょう。医療スタッフはここで、積極的に直る希望は無いけれど、残った機能に希望を持たせることが大変重要だと思います。この過程は、個人差が大きく、急性期病院での2〜3週間程度の治療の期間に達する人も中にはいますが、多くはリハビリテーション専門施設に移ってから、少しずつ到達していくのではないでしょうか。自分の置かれた状況を客観的に理解できた人のリハビリテーションは、比較的スムースに進むことは事実です。

近年パラリンピックがオリンピック並みに注目されます。選手の活躍は、私たちのように障害が無いものに大きな希望を与えてくれますが、それ以上に障害者の方々への影響は絶大ではないかと思います。がんばれば出来る、と口で言うのは簡単ですが、実際にがんばって出来ている人たちがいることは必ず希望に近づく道標になるはずです。

とはいっても、こんなケガをしないことが一番。いろんなところをいろいろ改良しないといけませんね。