【柄本佑の『好きな人』】
おばあちゃん
僕のおばあちゃんは、最高にカッコいい。まあこんなにカッコいい老人がいるのかなってくらいにカッコいい。
フレッド・アステアが大好きで、アステアの曲を口ずさみながら一人台所に立つ粋なおばあちゃんです。
映画の話を始めたら切りがない。誰も知らないような俳優の名前を挙げながら、いろいろな作品を教えてくれます。
しかも、それだけの名前を列挙するのに考えることなく、当たり前のようにスラスラと話すのです。
また、柄本家で怒らせると一番恐ろしいのもおばあちゃんです。怒ると直接怒鳴ってくるわけではありません。
ただ話をしてくれなくなります。このときの威圧感はすごいものがあります。
僕は必死で台所の手伝いをしたり、話しかけたりしながら少しずつ許してもらうのです。
そのおばあちゃんが今年の1月に入院しました。ちょうど映画「チェケラッチョ!!」のロケ最中でした。
翌月、沖縄ロケから帰って来てお見舞いに行くと、最初誰だか分らないくらいにおばあちゃんは小さくなっていました。
ボウズにされ全身に管が通された姿は、あまりにも痛々しい病人でした。話はできないですが、
意識はあるので話しかけると、朦朧としながら反応します。
しかし、もうアステアの曲を口ずさむことも映画の話をすることもないのです。
「沖縄に行ってたんだよ」僕がそう言うと急にフッといつもの顔に戻り、「へぇ〜」と言ってくれたことがありました。
まるで映画の一場面のよう。手を握って最初は話しかけるのですが、途中で何を話せばいいのか分からなくなり、
周りを見渡したり、外を眺めたりして、じわりと切なさが押し寄せる。早くカットをかけてくれという気持ちになる。
いつやめればいいのかが分からないのです。
暫くして寝ついた頃、起こさないようそっと手を離して帰ります。
こんなおばあちゃんを見ていると辛くて嫌だけどやはり、人間は死ぬんだなぁと思ってしまいます。
だからこそ、その表情の一つ一つを記憶に留めておこうと思っています。
(ミニシアターマガジン「プリクル」より転載)
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